第2話失踪一日目

 よく晴れた朝だった。前日の雨のおかげか空気が澄んでいて雲一つない青空はとてもまぶしかった。


「逃げよう」


 まず目が覚めて一番最初に思ったのはそんな至極くだらない事だった。逃げてどうにかなる問題ではないし逃げれば多方面に迷惑がかかることも分かっていた。けれど体はテキパキと逃げる段取りを行っている。それに逃げる段取りと言っても映画やドラマのような用意周到なものではなく今できる最低限の事をただ実行しているだけである。こんなことしてもすぐに見つかるし仮に成功したとしてその後始末をどうするのかなど色々頭に浮かんでは消えていく中、逃げる準備が整った。


 まずは失踪宣言書を書いた。これは所謂「探さないでください」というお決まりの失踪アピールだ。一応これにも意味はあり事件性のない失踪を示すものであり自己意思で決めたという意思表示でもある。それに付き加えて自殺する意思のない旨も書いておかねば遺書と扱われかねない。宣言書は家族の目につくところに置き後は出るだけ。荷物は最低限、筆記用具と銀行カード、印鑑と身分証明書とかだけ鞄につめた。後は家をでるだけだった。



 今でも玄関を出た時の感覚は覚えている。あの開放感と罪悪感がせめぎあってる感じは一生忘れられないだろう。


 まず失踪し始めて最初に買ったのは切符だった。自宅近くの駅から新幹線の駅がある主要都市まで行く切符。駅までの道中で開放感より罪悪感のほうが勝ってきたので早く家から離れたくなり駅までダッシュした。

 主要都市についたらまずは銀行で当面の現金を卸し銀行カードを封印する。頻繁に銀行カードを使えば足がつくかもという素人な考えだ。

 ここで問題が発生した。ひどい熱がでた。季節柄、熱風邪にかかったようだった。前日にしこたま殴られ腫れていた頭も心なしかさらに腫れあがりめまいもしてきてとてもじゃないが正常な判断が出来なくなり急きょ近場のネットカフェで養生することにした。殴られた箇所が悪かったのか腫れがひどすぎたのかわからないが口があまり開かなくなり食事はもっぱら水分補給のみになった。この後この日はひたすらのぼせた頭を冷やしながら寝ることに専念した。

 

 

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ただいま失踪中 @Daiou-guchokumushi02

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