第六話「ツンデレ幼なじみ」
第四章第六話ー1
「ただいまをもちまして、第三十ニ回花火大会を終了いたします」
ひときわ大きい二尺玉があがり数分。アナウンスが流れ、夏の風物詩の終了が告げられた。高三の夏もあと少しか。
お盆と花火大会が終わったら、あっという間に卒業になってしまうと高田先輩が確か言っていた気がする。大会が終了してしまえば用済みとばかりに、みんな河川敷を離れていく。
人の流れに乗るのもいいけど、ちょっと余韻に浸っていたい。真っ黒な空を仰ぐ。円芭が手繋いでる方の腕を引っ張ってきた。
「花火終わったけど」
「知ってる」
「じゃあ、なんで空見てるの?」
「星見てたんだよ」
「星? たしかに綺麗かも」
俺と同様上を向いたのか、テンションが上がったらしい。まぁ、これじゃ上がるよね。みんなどうして見入らないのか不思議でしょうがない。夏の大三角形や他の星々の魅せる美しさ。
「ねぇ、祐?」
「どうした?」
いやに真剣な声に思わず円芭の顔を見やる。照明が落とされていて表情をうかがい知ることはできない。
「祐の部屋に久々に行きたい」
「別に平気だけど、時間は平気なのか?」
「大丈夫。今日祭りだし」
「そうか」
祭り最強じゃないですか。円芭と共に自宅へ戻る。
「ただいま〜」
「「……」」
「あれ、おかしいな。ただいま〜」
「「……」」
玄関を開けると、リビングの明かりが廊下に漏れているのが日常なのだが、正面真っ暗。時間が時間なら出るものでそうな暗さである。
「誰もいないの?」
「祭り行ってるのかもしれない」
「妃奈子はそうかもだけど。ご両親も?」
「だと思う」
ギャンブルしてるなんて言えないので、濁しておいた。世の中ねウソをつくべきところはしっかりつかないと。身の安全のためにも。
「二人の年になっても祭りデートとか憧れる」
「年に一度しかないからな」
「そういうことじゃない」
「え、うん」
だったらなんだというのだろう。年に一度しかない祭りで夫婦が仲良くデートするとか、素晴らしすぎるでしょ。
「二月以来変わってないね」
俺の部屋に入るやいなや褒めていないことだけ分かることを発し、ベットの前で停止した。「……へっ?」横に並ぶと身体がベットへと突如倒れた。どうも円芭に押し倒されたらしい。至近距離に円芭の顔。ていうか、こういう状況なのになんで俺冷静なんだろうね。
「……キスして」
「っあえ。ごめん、聞き取れなかった。もう一回言って」
さすがにこれは冷静でいられないっ。聞こえてたのに反射的に聞き返しちゃったよ!
「肝心なところで難聴になる主人公かっ!」
「難聴になるっていうのは、割と最近自覚してる」
「してるなら治して……」
「とっさなものだからな」
「……はぁ。で、どうするの。する? しない?」
「しない。ちゃんと付き合ってもいないのに出来ない。ファーストキスだし」
「わ、私だって初めてだよ」
「逆に初めてじゃなかったら立ち直れない」
「じゃ、じゃあ、お互いのファーストキス奪い合お?」
なにこの破壊力っ! 俺の理性をパージしてしまえるほどの表情で見つめてくる。……だが、この一連の流れは疑似恋の一部。ここでキスをしてしまうのは違うと思う。そんな時にファーストキスをするべきじゃない。
「いや、やめておこう」
「……え?」
「疑似恋でするべきじゃないよ」
「……」「おっと」
ぐっと左肩を押され、上に乗られた。いわゆる馬乗りというやつ。え、これからボコられるの?
「ねぇ、祐?」
「……っ……」
あ、腕が上体に来たからマジで殴られるかと思ったら、覆いかぶさってきた。
「大賞とったら結婚して?」
随分飛躍したな話が! まぁ、疑似恋体験として言ってるのだろうから断るのは違うだろ。
「あぁ、大賞取れるように協力する」
「あ、ありがと。そそ、そろそろ帰るねっ」
目にも止まらぬ早さで俺から離れると、円芭は家から出ていった。胸に残る円芭の熱。顔赤かったな……。ん? もしかして疑似恋じゃなかった? ま、まさかな。
☆ ☆ ☆
少し早めの里帰りということで、お袋の実家へ行くことが朝食の場で決定した。夏休みの嫌なところNO.1はこういうところだよね。どうしてか強制参加になるし。理解ある友人でないと、去っていってしまう。その分諒は寛大な心をお持ちなようだ。
「どうだった夏祭り」
「楽しかったぞ」
「逆に楽しくないって答えたら円ちゃんに報告してるけど」
「止めろっ」
「耳が痛いっ」
「すまん。つか、その報告制度いい加減なんとかしろよ」
もし円芭と付き合うことになったとしたら、凄い厄介な見張り役がつくことになる。身内が内通者とか最悪すぎるでしょ。
「無理。求めてるのは円ちゃんの方だから」
「……」
ラスボスかよ、幼なじみ。そんなことしなくてもいいだろうに。あ、気にしてるのかな?
「あ、そうそう。祐君おめでとっ」
「? なにゆえのおめでと……?」
「逆プロされたんでしょ?」
「小説の参考のためじゃないか?」
「……本気で言ってんの、祐君」
ジト目になった。どうやら昨夜の円芭のプロポーズもどきはれっきとしたプロポーズだったようだ。次会うとき顔見れるかな……。
「そ、そんなわけないだろ」
「だよね。さすがに疑似の再現でもプロポーズはしないって分かるよね、普通」
「も、もちろん分かってるよ」
「なら良かった」
だったら目も笑ってくれ。
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