第四章第五話ー5

 口紅を塗ったように円芭の唇は赤くなっていた。急に可愛く見えるというか、さらに魅力的に見える。よほど美味いのか、円芭はあまり時間をかけることなくりんご飴を完食した。


「りんご飴の難点てさ、口元が真っ赤になるんだよね」

「現に今真っ赤だからな」

「やっぱり。ある程度しか落ちないんだよね」

「赤い口紅塗ってると思えばいいんじゃないか」

「私赤い口紅似合う?」

「に、似合うと思うぞ」

「ありがと……」


 これも夏休み効果というものなのか! だとしたら凄まじい。ていうか、周りに座っている大人の人もイチャイチャしている。


「次は綿アメ」

「お、いいね。これも円芭がひと――」

「たべさせて」


 こっちへ綿アメの入った袋を差し出してきた。言葉を遮っていつになくデレを見せる。円芭は俺の隣へ座る。


「……」

「どうしたの?」

「なんでもない」


 近すぎる。綿アメの袋を開け、文字通り綿を取る。つか、この現状を見てどうしたのは、あまりに分かりやすい嘘だな。太ももと二の腕が触れ合ってるんだもん。


「じゃぁ、祐。ちょうだい」

「了解」


 口を開けて待つ円芭。エサを待つ小鳥かお前は。ちょっといじわるしてやろ。


「……」

「……」

「……ふぃろ? ふぁやく」


 ヤバい、思った以上にエロいかもしれない。小さな口にこれまた少量にちぎった綿アメを入れてやる。舌に感触があったのか、口を閉じてそしゃくを始めた。

 危ない危ない。あいにくSっ気が開花してしまうところだった。


「程よい」

「俺の顔見て言われても」

「綿アメってベタベタするよね」

「まぁ、ザラメだしな」

「なのに、食べてみるとさっぱり」

「確かにそうかもしれない」


 正直綿アメでここまで食リポ的なこと語れるのが凄いと思う。深く綿アメについて考えるなんて早々いないでしょ。


「あ、そろそろ行こ」

「もうそんな時間か」


 広場にある時計を見て、円芭が俺の服の裾を引っ張ってきた。綿アメはどうするんだろうか。


「綿アメあっちで食べるから」

「え、マジで。暗くて食えないと思うけど」

「そんときはそんとき」

「了解」

「もうだいぶ人だらけだから」

「……」


 これは、もうはぐれるレベルだわ。ウチの町にこんなひといたっけ。人人人でぎゅうぎゅうになりつつある商店街。おし、たまには俺から手を繋ぎましょうか。


「め、珍しいね。祐から手繋いでくるなんて」

「この人の流れじゃ、はぐれるだろ」

「そ、そうだね」


 息が詰まりそうな商店街を抜け、花火が見える土手までやってきた。こっちはこっちで人だらけだったけど、川岸に集中している。


「目の前で花火見るの何年ぶりだろ」

「結構前な気がする」

「一緒に見るのもその時以来だね」

「そうだ――」


 相槌を打とうとしたら、大きな破裂音。音のしたところに目を向けると、ライトブルーの花が漆黒の空に咲いていた。


「始まったね」

「唐突でびっくりしたけどな」

「音が凄いね。やっぱりここで見るほうがいい」

「そうだな」


 首がヤバいことになることは、楽しんでるところを水をさすので止めておく。田舎の花火って次のが打ち上がるのが遅い。と、円芭が以前言っていたが、たしかに遅い。


「説明って必要なのかな?」

「たぶん。あ、あがった」


 ヒュー「ねぇ…………って」夜空にまた一輪の花。


「なんか言ったか?」

「うぅん、なんでもない」


 かぶりを振る円芭。なにかを決したようなことをいったのかな。花火上がったとき凄い握っていた手がぎゅうっとなった。ていうか、まだ手繋いでたんだな俺たち。

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