第ニ章第四話ー6

「あなた達似たようなこと言って! 大丈夫じゃないわよ、もうっ」

「うん、見れば分かる」

「なんなのよ、あんたっ……」


 長田が文句を言いたくなる気持ち分かるわ~。

 見て分かるならどうして大丈夫って聞くって話――って、あれ? 俺も円芭と似たようなこと言ったな。


「ほら、手を貸せ」

「う、うん」


 さすがにずっとアスファルトと対峙しているのも辛いだろ。

 臭い的にも視界的にも。

 周りの目をかんがみると、手を貸さないのは俺のイメージもクソやろう化しかねないからな。


「ちょっと待って。私が手を貸す」


 俺の手に長田の手が触れようとしたとき、円芭がそれを制するように割って入ってきた。

 余計なことを!

 俺の校内イメージがヤバいことになるんだって!

 女の子に怪我人の保護を任せた男の子みたいにっ。

 そしたら俺はもう、高校通えませんぜ……。


「そ、そうか。じゃあ、頼むわ」

「オッケー」


 とか言いつつ、やってもらうけど。

 割って入ってきたくらいだからここでそれを受け止めないとキレられる。

 そうなると、完全に端から見ると修羅場になってしまいそうなので、多少(ではないが……)のリスクは致し方ない。


「ありがとう、円芭」


 土下寝の状態から円芭の手を借り、起き上がる長田。

 周りの生徒の視線が痛い……っ。

 お前が手を貸してやれよ目線がバシバシくるよっ。

 しょうがないじゃん!

 幼なじみがね、私が手を貸すって――はい、すみません……。

 言い訳良くないですね、分かりましたよ。


「ちょっと、麻莉っ」

「な、なによ?」


 声を大きくする円芭に、長田が驚いている。

 なにかあったのだろうか。

 円芭が壁になって長田の様子が分からない。


「おでこから血が出てる!」

「えぇ!?」


 そりゃあ、顔からいってればどこかのパーツには支障きたすでしょ。

 長田は、驚愕の指摘に慌てて自分のおでこに触れているようだ。

 円芭の背中から長田のひじが見えた。


「ホントだ……」

「どうした?」


 後続を走っていた見守り担当の先生が、俺らに気づき、近づいてきた。

 え、ちょっと待って。

 この人がここにいるってことは、もう一番最後尾になっちゃった?

 周りを見渡してみても生徒がいない。

 さっきの俺を睨んできたやつらで最後だったのか。


「長田がけがしました」

「おう、そうか。じゃあ、そこの男子保健室まで運んでくれ」

「え、俺ですかっ」

「あと男子どこにいる」


 それは、そうだけど、こういうときって普通先生が保健室までつれていくんじゃなかったっけ?

 しかも、この先生もう走る準備してるし。


「祐君、早く連れていってあげなよ」

「分かったよ」


 妃奈子め……。

 こういうときだけ反応しやがって!

 あと、無表情いい加減止めろよ。


「あ、足が痛い」


 我が妹の一声を受け、円芭からバトンタッチし、立ち上がるフォローをしていたら長田が苦悶の表情を浮かべる。

 本人の主張の通り長田の脚を見たら、見事に膝にぱっくりと切り傷ができていた。


「あ~、切り傷できてるぞ」

「どうしよう……。歩けないかもしれない」

「マ、マジか」

「だから、運んでやれって言ってんだろ。話の分からない奴だな」

「すみません……」


 運ぶって言われてもどうやってやれと。


「あと、見物してるそこの二人は走れ」

「りょ、了解です」

「はい……」


 完全なる飛び火状態の円芭と妃奈子がこちらをチラチラ見ながら背中を小さくさせていった。

 ヤバい、どうしたら良いか分からない。

 肩を貸すか?


「おい、男子」

「あえ、お、俺ですか?」

「そうだよ。俺はもう行くからお姫様抱っこでもおんぶでもなんでもして保健室連れていってやれ」

「……」


 おんっ――お姫様抱っこ!?

 妃奈子にもしたことないぞっ。

 いやまぁ、お姫様抱っこは普通妹にやらないけど。

 初めてのお姫様抱っこする相手は円芭がよかったな。

 本人には絶対伏せておくが。


「わ、分かりました」

「んじゃ、よろしく」


 言うだけ言って、先生は走っていった。

 取り残される俺と長田。

 周りには、エサを求めてアスファルトに降り立った小鳥達しかいない。


「あ、歩けるわよ」

「いや、無理だって。ひざから血が出てるし」

「だって、円芭になにされるか分かったもんじゃないものっ」


 どういうわけか長田は円芭を怖がっている。

 この様子じゃ相当怖いんだろうけど、円芭がそんなことするわけない――と言えなくないのが残念なところ。


「でも、このままだと風邪引くぞ」

「確かに、寒いわね」

「だから大人しくしてろ」

「分かったわ」


 長田が女の子座りをしたまま意を決した表情を浮かべた。

 さて、俺も長田を見習おうかな。


「痛かったら言えよ」

「う、うん?」

「よっこいせっ」


 長田の脇と太ももの下に手を通し、掛け声を出しながら体を上方へ。

 あ、意外と軽いな。意外と言ったら失礼か。


「お、お姫様抱っこ!?」

「おんぶよりましだろ」


 こっちとしては、おんぶのほうが胸が当たって良いのだが、あとでバレたときの修羅場に遭遇したくないから止めておいた。


「いや、絶対おんぶの方がいいわよ」

「もうやっちゃったから大人しくされてろ」


 正直また下ろして云々やるのめんどくさいってだけだけど。

 こんなに女の子と密着したのは妃奈子を除けば、円芭以来か。

 てか、疑似恋はカウントされるのかね?


「あら、少女漫画的な撮影?」


 そんなことを思いつつ保健室に着くと、目を丸くさせておかしなことをいう女性と遭遇した。

 え、保健室の先生まで変な人なのっ。

 勘弁してほしい……。


「違います」

「え、違うの。じゃあ、怪我?」

「そうですよっ」


 どこの映画・ドラマ監督が授業で持久走やってる学校で収録するよ……。

 てか、う、腕がヤバい。

 もうこの人に構っていたらいつまでたっても長田を下ろすことができないかもしれない。

 耐えきれなくて床に長田を落としてしまいそうだ。


「ベット借りますよ」

「うーん、ちょっと予約で一杯でして~」

「ここはホテルか!」

「いいね、君」


 いいね、君じゃねぇよ!

 つか、保健室のベットが予約式だったらずるを肯定してるみたいじゃないか。

 しかも、いっぱいかよっ。

 まさか、これはウケ狙いで言ってない?

 実際にそういう商売高校生相手にやってるんじゃなかろうか。

 あー、もう腕が限界!


「もう下ろしますっ」

「オッケー」


 最初から許可出せよっ。

 イラ立ちながら長田をベットに下ろす。




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