第ニ章第三話ー6

 怒られてしまった。高田先輩が俺を睨む。


「というか、オバケ役の人のことも考えてあげなよ。葉瑠だってそんなの分かってるけど。それでもやっぱり怖いんだけど。半分怖がってるフリなんだから」

「ほう……」

「し、しまった!」


 慌てて自分の口を押さえる高田先輩。

 嘘つくの下手くそか、この人。


「いいじゃん、もうあと何回もくっつけられないんだから」


 うわ~、開き直ったよ。

 でもまぁ、ダメとは言わないけどさ。


「大丈夫です。ダメじゃないですから」

「本当!?」

「今回は特別です」

「やったっ」

「あ、でも、ここから出たら離してくださいね」

「……分かった」


 俺の言葉に渋々納得する高田先輩を今日ばかりは可愛く思いつつ、お化け屋敷を楽しむ俺であった。

 文化祭を締めくくるものと言えば有志発表。

 大体バンド系が多いことが大半だが、今年はなぜか公開告白が流行ってるようだ。

 場所は変わって体育館。

 今見事にカップル成立となり、ステージ袖へと消えていく告白者を全校生徒で見送る。


(よく大勢の前で告白なんて出来るよな)


 隣に座っている諒が小声でそう話しかけてきた。


(まぁ、よほどその人のことが好きなんだろ)


 じゃなきゃ、公衆の面前で告白なんてしないはずだ。


(正直される側としては凄く迷惑だと思うけど)

(断りづらいだろうしな)

(ある意味強制)


 ひどい話だ。

 日本人はあまりそういうのに慣れていないから、ほとんどの人は空気を読んでしまいそう。

 もし俺が告白されたらそうなること間違いない。


「それでは、次の方で最後となりました。登場していただきましょう! どうぞっ」

「……」

「「……」」


 現れずっ。こんなことあるんだな。

 会場内が静寂に包まれる。


「あれ?」


 一瞬外の鳥の声を聞く野鳥会になりかけた。

 司会者が静寂を破り、ステージ袖を見る。

 なるほどそこにいるのか。


(ラストだから緊張してるんじゃないか?)

(確かに)


 スタッ。おっ。

 最後の発表者がステージの中央にやって来た。

 ……え。クラスメイト(女)じゃん。

 ショートカットでたれ目。

 間違いない!


「練本祐さん好きです。付き合ってください!」


 ん!?



 ☆☆☆



 一部を除いて無事に文化祭は大盛況の中終了した。

 他のクラスメイト達は打ち上げをするらしいが、俺は参加しない。

 正直早く家に帰りたかったからだ。

 というわけで、今マイホーム。


「やっぱ文化祭は楽しいね」


 帰ってきて早々妃奈子は、それはもう楽しそうにそう言った。

 個人的には、最後の件がなければ楽しかったんだけど。




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