第三話「告白を断ったら……」

第ニ章第三話ー1

「来ないな」

「そうだね」


 部室の扉の窓を見ながら、誰に言うでもなく言葉を発した俺に妃奈子が相づちを打つ。

 放課後になってしばらくたっても高田・宮城先輩がやってこない。


「引退したんじゃないか?」


 兄妹の会話に諒が首をはさんできた。

 まぁ、確かに、この時期は運動部の三年の引退シーズンだけど。


「なにも言わず来なくならないだろ、あの二人は」

「絶対アクション起こすよ」


 今度は円芭が首をはさんできた。

 円芭の言う通り、高田先輩は恐らくなにかしらしでかすに違いない。

 つか、そもそも文化部に引退っていう引退あるか?


「言われてみれば」

「というか、文化部って引退っていう引退しなくないですか?」


 同じこと考えてんじゃねぇよ、妃奈子っ。

 なんか恥ずかしくなってきた。


「ただ単に遅れてる説もあるのか」

「間違いなくそっちだと思いますけど」


 呆れたような口調で妃奈子が諒の言葉に答えた。

 う~ん、やっぱり仲良いよな、この二人。


 ガラガラッ! ん?


「どしたの? みんなで一ヶ所に集まって」


 諒と妃奈子の間接的な距離に違和感を抱きながら、扉が開く音がしたのでそっちに振り向くと、噂をすればなんとやら高田・宮城先輩が頭上にハテナマークを浮かべていた。

 この安堵感は一体なんだろうか?


「作戦会議?」

「え、戦闘するの?」

「高田先輩違いますよ。あと、宮城先輩作戦会議してないです」


 俺達が固まって会話してるのがそんなに珍しいのだろうか。

 その発想力を是非とも円芭に分けてやってほしいものだ。


「じゃあ、集合してるのはどうして?」

「二人が来るのが遅いから心配してたんですよ」

「ひ、妃奈子っ」


 どうしてこいつは、そう簡単にさらっと本当のことを言っちゃうのかねっ。


「隠すことないじゃん」


 隠すことだから取り乱したんだよっ。

 変なところお袋に似るなよ、もう······。

 見ろ、円芭が俺を睨ん――って、なぜ俺を睨むっ。


「そうなんだ」

「ありがとっ」

「卒業までいれたらいるよ」

「あたしもいるよ。祐君達のサポートするからね」


 すっかり妃奈子の話を本気にした高田・宮城先輩が、口々ににこやかにそう言った。

 まぁ、心配したのは事実だから本気にされてもいいんだけど。


「ありがとうございます」

「円ちゃん、羨ましいな」

「羨ましい?」


 円芭が首を傾げる。

 正直俺もよく分からない。

 なぜこのタイミングに“羨ましい”なんて言葉が出るのか。


「本当は薄々葉瑠が言いたいこと分かってるくせに~」

「お、おちょくらないでくださいっ」

「え~、おちょくってないよ」


 まぁ、仲良きことは美しきかなって言うし、このやり取りを見物してようかな。

 組み合わせ的に円芭・高田先輩の会話シーンはあまり見られないだろうし。


(祐)

(なんだ?)


 女子同士の仲良きシーンを目の保養にしようと体勢を整えていたら、伊津美が声をかけてきた。

 しかも、小さな声で。


(部活終わったら時間ある?)

(あるぞ)

(じゃあ、一緒にゲーセン行かない?)

(オッケー。でも、どうして小声?)

(なんとなく)

(そ、そうか)


 というわけで、下校時間になってゲーセン。

 他のやつらには、このことは言わないでおいた。

 なんか伊津美の目がそう言っていたような気がしたのだ。

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