第ニ章第ニ話ー7

「さぁ、撮るよー」


 どうやら通じないらしい。

 つか、伊津美“どんまい”じゃねぇよ。

 助けろや!


「作った甲斐があったわ。ふふっ」

「磨莉、笑い方キモいぞ」

「あんた程じゃないわ」

「……っ……」


 ショック受けすぎだろ、こいつ。

 目を見開いて肩を落とし、シュンとしている。


「祐、スカートに手ついて」

「円ちゃん、男だったら変態さんだね」

「そうかもしれない」


 いや、否定しろよっ。

 モデルってこんなイライラするのか?

 だとしたら、俺はこういう仕事向いてないわ。


 ――耐えた耐えまししたぜ。

 なんとか地獄の時間が終わったよ……。


「祐、ちょっといい?」

「あたし先に帰ってるね」

「あ、おいっ」


 お開きになり帰ろうとしたら、円芭に呼び止められた。

 それを見ていた妃奈子が、変な気を回して俺らから離れていく。


「祐、聞いてる?」

「あぁ、聞いてるよ。どうした?」

「疑似恋やりたい」

「この格好のままで?」


 おいおい、勘弁してくれよ……。

 こんな足元スースーさせたまま動きたくないんですけど。

 つか、女装した男と行動を共にする女子って周りから思われるの、こいつ嫌じゃないのかね?


「そう。このままなら仲の良い女友達にしか見えないでしょ」


 いや、それは無理があると思うぞ。

 男はやっぱり、男の特徴が出てしまうし、鎖骨とか見たら分かる人には分かってしまうらしい。


「凄く複雑だな……」

「じゃあ、そこのカフェ入ろ」

「はいよ……」


 なにが“じゃあ”なんだよ……。

 円芭は、俺の腕をがっしり掴み、拘束してきた。

 人の話なんてまったく聞く気の無い円芭に、思わずため息が漏れる。

 高田宅から数歩のカフェへと、半ば無理やり入らされた。


「いらっしゃいませ」


 迎え入れてくれた店員にメニューを見ずパフェを頼み、程なくして女子大喜びのタワーが姿を現した。

 生クリームの量っ。

 てっきり小さめの皿にデコレーションされたものがくるのかと思ったら、まさか花瓶みたいな容器でくるなんて。

 正直円芭が一人で食べるにしては多いと思う。

 フルーツにクッキーが容器の縁にこれでもかという量が盛りつけられている。


「祐、あーんして?」

「……お、おう」


 思わず鳥肌立っちゃったよっ……。

 凄く甘えたような声だすんだもんさ。

 円芭の中では、もう女子と接してることになっているらしい。

 ここらでお気に召さない対応をすると、機嫌を損ねそうなので、大人しく要望に答えることにした。

 スプーンで生クリームをすくい、エサを待つひな鳥のように開けた口にそれを入れる。

 すると、円芭は口をモゴモゴさせ、喉を鳴らした。

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