第ニ章第ニ話ー6

 話聞いてますかね?

 俺の断りをシカトして、長田に高田先輩が問いを投げた。

 頼んでおいた物?


「はい、練本受け取りなさい」

「お、おう」


 長田から“頼んでおいた物”を受け取る。

 ……嫌な予感してきた。

 ま、まぁ、勘違いかもしれないし、広げてみ――


「女物じゃねぇか!」

「祐君ならきっと似合うよっ」

「いや、そんな目をキラキラさせて言われても困ります。高田先輩」

「だって、絶対似合うもん」


 どうしてそんな自信満々に言えるの、この人。

 つか、コスプレって女装する物じゃないよね?


「あたしが作った物よ。……着てくれないかしら」


 ズルいわ、上目遣い。

 女子ってなんですぐ上目遣いするかね。

 断りづらくなるじゃねぇか。


「あのとき採寸してたのってこれのためか」

「そうね」


 行かなければよかったっ……。

 って、しまった!

 あのときとか言ったら、腹痛が嘘だってバレてしまうじゃないかっ。

 俺のしたことが……。


「祐」

「な、なんだ?」

「着ないって選択肢無しね」


 ふぅ、悟られていなかったよ――


「はぁ!?」


 まさかの拒否権無しっ。

 あまりにひどくないですか、それは。


「オレも女物だから大丈夫だよ」


 なんも大丈夫じゃないし。

 つか、伊津美はコスプレ云々の前に男の娘じゃん。

 と、喉まで出かけたが飲み込む。


「……分かった。着るよ」

「ありがとう、練本」

「いらないお礼どうも」


 今日ばかりは笑顔というのが憎らしい。

 ……はぁ。どうして俺が女物着なきゃいけないんだよ。

 高田先輩に案内された部屋でそのコスプレ衣装に着替え、元いた場所に戻る。

 あー、なんか足元スースーするっ。


「やっぱり葉瑠の目に狂いはなかったっ」


 高田先輩が目を輝かせた。

 あんたか、この件の首謀者は!


「……うん」

「なんか腹立つっ」


 えぇ!? 敵意向けられたんですけど。

 円芭は、そう言って眉にシワを寄せている。


「モデルはなに着ても似合うわね」

「祐君、明日からお姉ちゃんって呼んであげようか?」

「頼むから止めろっ」


 なにが悲しくて実妹からお姉ちゃんと呼ばれなきゃいけない。

 新たな扉が開いたらどうすんだ。


「似合いすぎだろ、お前」

「そう言われても困る」

「スネの毛無いんだね」


 どさくさに紛れてどこ見てんだ、こいつは。

 伊津美が俺の足元をガン見してくる。

 ク、クソッ……。

 隠したいが、スカートが短くて隠せないっ。


「な、無いわけじゃないけど、人よりか薄いな」

「「羨ましい」」


 なんなんだよ、もう……。

 ハモる必要なくね?


「写メ撮ろっ」


 なに!? こいつ他人事だと思ってっ……。


「それだけは止めてくれっ」

「いいね、撮ろ!」


 やはり高田先輩反応しますよね、そうですよね。

 あとで、諒には然るべき反省をしてもらおう。


「私も撮ろうかな」


 宮城先輩、あんたもかいっ。


「動かない方が身のためだよ、祐」

「モデルはじっとしてなさい」

「どんまい」

「……」


 この人達に拒否権という権利は通じないの?


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