第ニ章第ニ話ー3

「妃奈子っ」

「だって、別に隠すことじゃないじゃん。そんなこと言ってると円ちゃんにチクっちゃうよ? 祐君が円ちゃんと一緒に部長やるの嫌だって」

「あー、分かった分かった」

「よろしい」

「よぉーし、今日は記念に寿司だ寿司っ」

「いいねっ」


 ······さては、妃奈子の奴こうなること予見してたな。

 目で俺がそう訴えると、口笛を吹く真似をした。

 可愛くない妹だこと!


 ――その可愛くない妹と諒とで、屋上で昼を食べるのが最早日常と化したある日。

 最後の楽しみに取って置いたタコさんウインナーを口に頬張り堪能していたら、スマホが邪魔をしてきた。

 なんだよ、こんなときに。

 空気の読めないスマホをズボンから取り出し、送信者を確認する。


「誰からだった?」

「長田だった」

「ふぅ~ん······」


 長田に興味無さすぎだろ。

 露骨に態度に表れる妃奈子を一瞥し、スマホに目線を落とす。


『今日ウチの部活寄ってくれない? すぐ終わるから』


 別に断る理由無いよな。

 ただこいつらには言わなくて大丈夫だろ。

 すぐ終わるらしいし。


『分かった』

『じゃあ、待ってるわね』

「なんて?」


 スマホをしまってすぐ、妃奈子がどんな内容だったか訊いてきた。

 長田のメールそのまま言うとめんどくさそうだから、少しクッションを入れようと思う。


「大した用事じゃなかったよ」

「へぇ~」


 これは、ホントのこと言ってねぇだろって言う“へぇ~”だな。

 だが、俺はそれに屈しないぜ。

 意地でも本当のこと言わない。

 円芭に即行チクる奴なんかに言うものか。



 ☆☆☆



 放課後。

 腹痛いから遅れるとウソをつき、長田の元へとやってきた。


「ホントに来てくれたのね」

「来いって言ったのは、そっちだろ」

「そうね。じゃあ、ちゃっちゃと終わらせるわ」

「サンキュー」


 どうせデッサン? のモデルでもさせられるんだろう。

 長田が俺を呼ぶときは大抵そんな理由である。

 まぁ、逆にそれ以外のことで呼ばれてもびっくりするけど。


「じっとしてて」

「お、おう」


 近寄ってきたっ。

 まさかホントにイレギュラーが起きるとは思いもしなかった。

 とかなんとか思っている間にも、長田は息がかかるほどの距離にまで接近してきている。

 一体なにごとなんでしょうね、これは。


「腕伸ばして。羽みたく」

「こうか?」

「うん。そのまま動かないで」

「分かった」


 シャーとなにかを伸ばす長田は、俺の右手首に伸ばしたそれをあてがう。

 この右手首に感じる冷たさ。

 ······メジャー?

 気になり作業してる長田の手元を見てみた。


「どうして測定してる?」

「モデルの採寸するのは普通よ」

「そういうものなのか」

「そういうものよ」


 なるほどね。

 その後も黙々と俺のサイズ? を長田は測っていった······。

 って、二十分かかってるじゃねぇか!

 美術部の時計が壊れてるのか?


「ありがと。もういいわよ」

「ちなみに今何分だ?」

「十六時五分よ」


 ここに来たのが、十五時四十五分だから······。

 やっぱり約二十分。

 これは、相当の難航した腹痛であると言うしかねぇな。


「サンキュ」

「どういたしまして。もうコン部行っていいわよ」


 長田に見送られ、美術部を後にしコン部。

 今日も今日とて、ウチの部活は平和だな。

 部員達は各々自分のしたいことをしていた。

 円芭もまたその一人で、ネットサーフィンを楽しんでるようで俺がやってきたことに気づいていない。

 これは、チャンスである。

 このまま後から来たことによるステレス状態を維持して、なにごともなかったのように自分の席に座ろう。

 そのためにはまず心を無にしましょうかね。

 ········。·········よし。


「ねぇ、優莉愛。ヤバくないこれっ」

「そうだね~」

「ちょ、ちょっとは興味持ってよ」

「そう言われてもさ、私にはよく分からないんだもん」

「これだから優莉愛はお子ちゃまよね······」

「もうお子ちゃまでいいよ」


 パソコンに夢中の先輩二人。

 第一関門は完璧に達成できた。

 一体何を話しているか少々気にならなくもないけど、まぁ、先を急ごう。


「「······」」


 しまった······。

 不審な動きをする俺に、一部の下級生の女子達がこっちを見ている。

 ジェスチャーで声を出すなアピールをし、第二関門の諒達の元へ。

 ここではもう話しかけられても大丈夫だ。

 ただ腹痛でないことを勘ぐられないにしなければならない。


「遅かったな」

「下品な話だが、中々出なくて······」

「え、それおかしいよ。一回病院行ったら?」

「大丈夫だ、伊津美。こいつの難産は小さい頃からだから」

「じゃあ、しょうがないか」


 いや、しょうがなくないだろ。

 でもまぁ、今のこのやり取りから察するに勘ぐられてはいないようだな。

 少し心配しすぎたかもしれない。


(なぁ?)

(小声でどうしたよ)

磨莉まりに呼ばれたんだろ?)

(あ、ああ)


 一瞬なんでこいつがそのことを知ってんだって思ったわ。

 そういえば、昼一緒に食ってて、長田からのメール受信を知ってるんだった。

 びっくりさせんなよ、まったく。


(どうして呼ばれたんだ?)

(なんか採寸された)

(採寸? なんでだろうな)

(こっちが聞きてぇよ)

(そりゃ、そうか)


 なんなんだよ、もう······。

 こいつ長田の幼なじみだから、なんか知ってるのかと思ってわずかでも期待した自分が恥ずかしい。


「······」


 にしても、あまりに円芭が無反応過ぎるような気がするのは勘違いではないだろう。

 というのも、昼に長田からメールが来たとき妃奈子が同席していた。

 いつもなら妃奈子がそのことを円芭にチクってるはずなのである。

 恐らく間違いない。

 それを前提にして考えると、腹痛で遅れるなんていうウソをついたことにお怒りになっていてもおかしくないのだ。


「あ、祐君いたっ!」

「ホントだ。大丈夫、お腹?」

「なんとか」


 我ながら自然な相づちだったな、今の。

 嘘つきスキル上がったかもしれない。


「じゃあ、全員注目っ」


 と、自画自賛していたら、高田先輩が部員を反応させた。

 ······これは、新部長の紹介だな。


「私達三年は、引退するので新部長を決めておきました」

「あと、副部もね」

「そんなわけで、まず部長から。練本君」

「はい」

「続いて副部長。須藤さん」

「はい」

「この二人にやってもらうことにしました」


 ぱちぱちぱちと拍手が起こる。

 ······拍手ってちょっと違くね?

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