第ニ章第ニ話ー2

 こうして全員食べるメニューが決まり、店員に注文。

 それ相応の時間が経過したのち、今テーブルには、いかにも旨そうな見た目と臭いを放つ代物が己の存在をアピールしていた。

 早く食べたいところだが、飲み物を持ってきてくれるということで現在宮城先輩待ちである。


「お待たせ」

「ありがとうございます」

「払ってもらう上に飲み物まで持ってきてもらって」

「いいのいいの」


 着席しながら微笑む宮城先輩。

 ホント良くできた先輩である。

 自分もこんな先輩を目指そう。


「あっ」

「どうした?」


 フォークで巻いたスパゲッティーを口にして咀嚼後次に食べようと巻こうとした手を止め、円芭がなにか思い出したような声を上げた。


「当初の目的っ」

「は?」

「祐はどうせ分からないだろうからいいよ」

「……」


 そんな言い草ないじゃん。

 いやまぁ、まったくさっぱり分からないけどね。


「なにか私達に話があるんですよね?」

「大丈夫だよ、円ちゃん。忘れてたわけじゃないから」

「ならいいですけど」

「本当はもっと後の方で言おうと思ってたんだけど、今言うね」

「はい」

「二人に部長と副部長をやってほしいの」

「えっ!? ホントに言ってるんですかっ」


 いやいやいや、なんでこんな雰囲気で冗談言うよ。

 円芭にしては珍しく取り乱してるな。


「ホントだよ」

「そうですか。え、でも、どっちがぶーーえーっ」


 どんだけ取り乱してるんだよ……。


「というか、祐君は冷静だね」

「以前冗談で同じようなこと言われたことあったので」

「え、私言った?」

「はい、言いましたよ」


 言った張本人が忘れるとかアリかよ。

 まさかあの時は本当に言われるとは夢にも思ってないけど。


「それで、どう? やってくれる?」

「俺で良ければ」

「私もやります」

「ありがと」


 そう言って料理へと目線を落とした表情がわずかに暗く見えたような気がした。

 なんで暗い表情をしたのだろうか。

 今の流れ的に笑顔と言うまでも口角を上げるような内容だったはず。


「食べ終わった?」

「はい、終わりました」

「じゃあ、帰ろっか」

「……もういいんですか?」


“もういい”ってどういう意味だろうか。

 含みのある言い方だな。


「うん、いいの。お金払ってくるから先に外出てていいよ」

「……はい」


 宮城先輩の答えに、どこか腑に落ちない様子の円芭。

 なんか凄い取り残されてる感あるんですけど。


「ありがとうございます」

「いえいえ」


 宮城先輩の笑顔を見て店外。

 先に出た円芭が振り返った。


「なんだよ」

「別に」


 なんか言いた気だっただろ。

 振り返る際円芭の口が開いていたし。

 まぁ、深くは問いたださないけど。


「にしても、俺が部長か……」

「うちの部活の部長だし、気楽に考えたら?」

「そ、そうだな」


 円芭がこんな普通に俺の話に答えるとは……。


 カランカラン。


 機械音。

 会計を終えた宮城先輩がこちらへ歩いてきた。


「今日は、折角の休みなのに付き合ってくれてありがとう」

「いえいえ」

「こちらこそ奢っていただいてありがとうございます」

「どういたしまして。それじゃ、また部活でね」


 そう言ってこっちの返事を待たず、宮城先輩は自転車に乗り姿を小さくしていく。

 やっぱりいつもの宮城先輩じゃないな。

 ……大丈夫かな。


「私ラノベ買ってから帰るから」

「分かった」


 ……俺も帰るか。

 自転車を走らせ幾分。

 我が家に到着した。


「……」


 待てよ?

 どうして円芭は俺と別行動したんだ?

 いやまぁ、ラノベ買うとか言っていたが、果たしてそれが本当のことなのかが怪しい。

 円芭と妃奈子双方同士の情報伝達の早さはずば抜けている。


 それを考慮し考えると、今日また妃奈子にさっきの事が筒抜けになっていてもおかしくない。

 うーん、どうしよ。

 妃奈子が寝るまで諒ん家で待機してようかな……。


 ガチャ。ん?


「もうなにやっ――ドンッ! 「っ!」

「あ、ごめん」


 額に玄関のドアがっ!

 しかも、わりと強めに当たったから痛いのなんのってっ!

 つか、なんだその気持ちのこもってない棒読み謝罪は。

 おでこを押さえ、妃奈子を睨む。


「いや、睨ま――ごめん」

「今日は許す」

「今度は?」

「分からん。つか、今度がないようにしろよ。やらない努力をしろ」

「こんなところで話してると変な家だと思われるから早く入ってよ」

「誰のせいで足止め食らったと思ってんだ」

「さぁ? あたし知らな~い」


 くるっときびすを返し、リビングへ歩いていく妃奈子。

 ここまで反省していないのを露骨に表す奴初めて見たわ。

 と、言うわけで、諒宅へ!


「どこ行くの?」

「……っ……」


 え、ウチの妹って背中に目ついてたっけ?!

 いつのまにそんな特殊なの備え付けたんだ。


「いや~、どこかな?」

「あたしが訊いてるんだけど」


 まぁ、そんなSF? みたいなこと現実にはあり得ないんだけどね。

 というか、言葉だけ聞いてたらどこぞのカップルの修羅場みたいになってるじゃん。

 あと、こういうときって身体が動かなくなるのな。

 もたもたしてるから妃奈子に腕捕まれちまったよ。


「大丈夫だよ」

「なにが?」

「もう全部知ってるから」

「……」


 やっぱりかーー!


 円芭の奴めっ。

 なにもこんなすぐ妃奈子にチクることないだろ。


「とりあえずおめでとう? 祐君」

「嬉しいんだか嬉しくないんだか、よく分からないけどな」


 ただ祝福されるほどのことではないのは確か。


「こう考えればいいんだよ」

「ほう?」


 靴を脱ぎ、リビングに向かう。

 妃奈子の言葉に相づちを打ったが、なんとなく想像がついた。


「部長と副部長って、いうなれば夫婦みたいなもんじゃん」

「言うと思ったよ……」

「疑似だよ疑似」

「物はいいよ――」

「話は聞かせてもらったぜ!」

「やるね、祐君!」


 リビングのドアを開けた直後バカ親二人がはしゃいでいた。

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