第二話「ハロウィンと言えば、コスプレ。まさかこんなことになろうとは……」

第ニ章第ニ話ー1

 放課後。部活も終わり、本当の最終下校時間。

 試合の近い部活以外の生徒達が、一斉に駐輪場に集まっていた。

 ゴチャゴチャしてるな。


「どうする?」

「なにがだよ」

「あんなにわんさか駐輪場に人がいるけど、その中に入っていくのかって訊いたんだよ」

「あ~」


 急に“どうする?”って言われても、なんのことだか分からない。

 主語をつけてほしいわ。


「ホントは入りたくないけど、早く帰りたいからな。入っていくさ」

「そうか。んじゃ、今日はここでサヨナラだな」

「まさか貴様っ。車か!?」

「親が用があんだってよ」


 あれ、ノッてこない。これは、マジなようだ。


「なら致し方ない。ほんじゃ、また」

「おう、またな」


 さてと、車での帰宅となった諒に別れを告げ、いざ人混みの中へ。

 なんで今日に限って運動部と文化部の帰りのタイミングが被るんだよ。


「今からハンバーガー食べに行こうぜ」

「さんせー!」

「それ、夕飯?」

「んなわけねぇだろ」


 心中でグチをこぼしながら生徒という生徒の間をくぐり抜け、やっとこさ自分の自転車にたどり着いた。

 はぁ~、疲れた。

 どうしてこうみんな一日の終わりに元気でいられるの。

 とても同い年とは思えない体力だ。

 是非とも少しその体力を俺に分けてもらいたいね。


「祐君」


 後方から妃奈子の声。それに振り向く。


「おぅ?」

「帰ろっ」

「そうだな」

「……? ……」


 キョロキョロしだした。小動物か、お前はっ。

 どうせ諒を探してるんだろうけど。


「諒なら今日車だぞ」

「そうなんだ。ほとんど一緒に帰ってるから、てっきりいるのかと思った」

「残念だったな」

「別にいてもいなくてもどっちでもいいし」


 じゃあ、どうして探したよ。

 気にならない人ならキョロキョロ見つけることもないだろ。

 これは、また少し妃奈子と諒が仲良くなってる説色濃くなってきたな。


「今度こそ帰るぞ」

「そうだね」


 今後注視しておく必要があるな。

 まぁ、多分そんなこと言ってもすぐ注視してること忘れるけど。


「今日の夕飯なにがいい?」


 正門を出て少し、妃奈子が夕飯のリクエストを募集してきた。


「カレーがいいな」


 今日はカレーの気分。

 辛いの食べてその刺激でドッチボールの件を汗と一緒に流したい。


「オッケー。腕によりをかけて作ってあげるっ」


 え、カレーで?

 スパイスを鍋に入れるところからやりだしたら止めよう。

 時間がかかる。

 今日も無事に帰宅し、うがい手洗いを兄妹で実施後妃奈子はエプロンをつけ、早速カレー作りに入った。

 冷蔵庫から取り出したのは……。


『今日も美味しく作れます!』


 市販のカレーのルーだ。

 ふぅ。どうやら俺の取り越し苦労だったらしい。

 さすがの我が家の料理上手こと妃奈子でも、カレーをスパイスをいれて云々のところからは出来ないようだ。


「旨そうな臭いっ」

「祐君、違うよ」

「なにが違うよ?」

「旨そうじゃなくて、美味しいんだよ。なにせあたしが作ってるんだから。マズいわけがないのさっ」


 無い胸を張って妃奈子が世迷い言を口にした。

 普通自分でそういうこと言うか?


「そうだな」

「……」

「……」

「ちょっと、なんか否定してよ!」

「えぇ?」

「“えぇ?”じゃないよ。今のはどう考えても突っ込みを入れるところじゃん」

「実際妃奈子の作る夕飯旨いから。突っ込みづらい」

「そ、そう。今回は夕飯前だからこれ以上の追求しない」


 若干不機嫌な様子の妃奈子が持つ皿から湯気。

 やっと食べられる。ん~、いい臭い。

 グルルゥ……。


「どんだけ腹減ってたの。凄い腹の虫だったけど。はい、スプーン」

「サンキュ。今日は今までで一番腹減ってるかもしれない」

「じゃあ、お母さん達の分まで食べちゃいなよ」

「いやいや、そこまで食えないから」

「祐君ならいけるっ」


 いや、そんな自信満々に言われても。

 苦笑いを浮かべて乗りきろう。

 わずかに口角を上げ、カレーを食べる。

 んー! この間違いない旨さっ。

 市販のルーでここまで旨く出来るのは、我が家では妃奈子しかいない。

 嫁に出したくないくらいだ。


「ところでさ、祐君」

「なんだよ」

「ドッジボールでやらかしたんだって?」

「……うぐっ……」


 円芭の奴チクったな!

 妃奈子が体育のこと知ってるのは、大抵円芭が情報屋になっている。

 まぁ、別に隠すことでもないから一連の出来事言うけどさ。


「普通ボール三つの状態で住吉先輩と話す? マジないと思う」


 説明したらガチで怒られてしまった。

 体育の授業の一貫なのに、そんなマジになる必要なくね?


 ☆☆☆


 イマイチ納得できないまま早一週間弱。

 今日は日曜日。

 どういうわけか、宮城先輩が直々に個人メールで話があると言ってきた。

 しかも、円芭も呼んでいるらしい。


 宮城先輩の意向が現時点ではまったく読めない。

 第一円芭と俺がセットで呼ばれるところから謎。

 集合場所に指定されたファミレスへと円芭と共に足を運んでいる。

 さすがに休日でも十四時くらいだと、客はあまりいないな。

 ガランとしている。


 来店時に出された水を飲み、渇いたのどを潤しながら周りを見渡してみた。

 そんな俺とは対照的に対面に座った円芭は、メニューに目線を落としている。

 腹でも減ったのか?


「ふふ」

「うわっ!」「っ……」


 びっくりした……。

 予期せぬところからの声に大袈裟に驚いちゃったよ。

 そこに振り向くと、宮城先輩が笑顔で立っていた。

 この人いつ来たんだろ。

 ステルス属性が備わってる可能性あるな。


「ごめんね、遅くなって」

「全然待ってないですよ」

「私達も今さっき来たばかりです」

「なら良かった。にしても、と二人ってカップルみたいだったよ」

「ぶっ! ゴッホゴホッ!」


 おかしなことを言うから思わずふいてしまった。


「ちょっ、汚なっ。あと宮城先輩がそういう風に見えるのは私達が男女っていうだけです」


 そんなキッパリ否定しなくてもいいじゃん……。

 所詮疑似恋は疑似恋なんですね、分かります。


「そっか」

「は、はい」


 それ以上突っ込んで追求してこなかった宮城先輩に、円芭が拍子抜けしている。

 なんか高田先輩のしつこさに慣れてしまっているせいか、宮城先輩の対応がおかしく感じてしまう。

 慣れというのは怖いな。


「もうなにか頼んじゃった?」

「いえ、まだなにも頼んでないですよ」

「じゃあ、好きなの頼んでいいよ」

「いやいや、自分で払いますっ」


 端から見れば、男が女にお金を払わさせてると思われるに違いない。

 例え真実が違っていても。


「祐君。今日は先輩をたててください」

「わ、分かりました」


 目がマジだった。

 ここは大人しく従っておこう。


「私ナポリタンでお願いします」


 おいおい、お前は少しためらえよ!

 なんでそんな即決できるんだ。


「いいよ。祐君は?」

「……マルゲリータで」


 やっぱりファミレスに来たら、ピザだよな。

 しかも、安いし。


「ドリンクバーはどうする?」

「私飲みたいジュースがあるので欲しいです」

「祐君は?」


 恐らくここで要りませんとか変なこと言ったら、円芭から鋭い眼光とスネ蹴りをプレゼントされてしまいそうなので、俺も要ると言っておいた。

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