第ニ章第ニ話ー4

「よ、部長! 練本部長っ」

「やかましい!」

「······」

 ゴッ「痛っ!」


 ニヤニヤしてるからスネを蹴ってやった。


「良かったね、円ちゃん」

「なにが?」

「なんでもな~い」

「······」


 おちゃらける妃奈子を円芭が睨みつける。

 あっちはあっちで大変みたいだ。

 お互いいじられているが、こうして正式に俺達は、部長・副部長になった。


 ――就任して一時間。


 文化部の下校時間。

 文化部の下校時間とはなんぞやと思う人もいるかもしれないので補足しとくが、ウチの高校は運動部と文化部で下校時間が分かれている。

 どうして分かれているのかちゃんとしたことは知らないけど。


 さて、場所は変わって我が家。

 帰り道妃奈子に再びちやほやされるはおちょくられ、散々な帰宅の都だった……。

 なにも二度三度おちょくってくることないのにさ。

 いつの日か妃奈子にそんな日が来たらやり返してやろう。


「夕飯なにがいい?」


 心の中で誓っていると、妃奈子がキッチンに向かいながら問うてきた。

 出来ればメニューをあらかじめ考えておいてほしい。

 今日はちゃんと答えるけど。


「カレー」

「つい最近食べたばっかじゃん」


 答えたら答えたでこうなるから回答したくなかったんだ。

 シカトしよ。


「……」

「……」

「もしもし~。黙るのやめてください」


 スルーするのは、諒みたいな奴でないと無理だったらしい。

 あー、もう。こうなりゃ夕飯考えるのめんどくさいし、外で食っちまおう。


「おし、回転すし食べに行こう!」

「え、え? 祐君のおごりで?」

「あ、ああ。奢ってやる」


 そこまで考えてなかった……。


「わーい!」


 まぁ、凄い笑顔で喜んでくれてるからちょっとくらいの出費は良しとしよう。


「と言っても、お金あるの?」

「……」


 こいつの俺に対するイメージどうなってんだよ。

 冷蔵庫の扉を閉めつつ、心配してますという顔を俺に見せる妃奈子。

 性別が同性だったら、腕を軽くパンチしてるところだ。


「あ~……。割り勘でもいいよ?」

「いや、俺が出す。さすがに女の子にお金出させるのは違うだろ」

「……良いお兄ちゃんで良かったよ」

「ほら、行くぞ」

「うん!」


 大きく頷いた妃奈子と共に家を出て、自転車を走らすこと二十分弱。

 町唯一の回転すし屋にやって来た。

 さすがに夕飯時というのもあり、混雑している。

 百円で食べられるだけあって、家族ずれや学生の姿が目立つ。


「混んでるね」


 テーブル席に通され、おしぼりで手を拭きながら辺りを見渡して妃奈子がそう言った。


「そうだな。にしても、カウンターになるかと思ったけど、テーブルで良かったな」

「カウンターで二人はゆっくり食べられないからね」


 テーブル席とカウンター席の差は、隣に知らない人が座ってるかどうか。

 やっぱり近い距離に見ず知らずの人がいたら食べづらい。


「とりあえず食うか」

「あたしマグロ」

「いや、自分で押せよ」


 俺に注文したってマグロ来ねぇよ。


「しょうがないな~」

「あ、俺も食うから二つ頼んでくれ」

「え、あたしのセリフと同じこと言ってますけどっ」

「なんのことかな?」


 しらばっくれてやったぜ。

 ついでという言葉を知らないのかね、この人は。


「……今日は奢ってくれるし、そのくらいはするけどね」

「まぁ、次からは自分で押すよ」


 さすがに全部やってもらうと、周りの俺を見る目が変わりそうだ。

 それでSNSに写真付きで男が女をこき使ってるなんて載せられたら、社会的に俺の人生は終わってしまう。

 まぁ、恐らく顔は載せないにしても、知ってる人から見ればシルエットでなんとなく分かってしまうって言うしな。


「是非ともそうしてもらいましょう」

「ところで、妃奈子さんよ」

「なに?」

「円芭とメールやってるよな」

「うん、やってるよ」

「最近さ、あまりにお前らの情報伝達速度早くなってないか?」


 この二人きりのタイミングで、ここ最近怪訝に思っていたことを訊いてみた。


「気のせいじゃない?」

「いやいやいや、気のせいじゃない。この間のドッチボールの時だって妃奈子俺の失態知ってたじゃないか。しかも、もの凄い早さで」

「······」


 回転すしで大人気サーモンを口にし、咀嚼して飲み込んだあと


「そういうところは鈍感じゃないよね、祐君」


 と、妃奈子が苦笑いを浮かべていた。

 まるで、他の場面では鈍感みたいな言い方だな、今の。

 心外だが、そんなことは一度スルーしておこう。

 妃奈子の言葉的に、どうやら妃奈子と円芭は間違いなくチクりあってるようだ。


「やっぱりチクってたのか、円芭」

「ねぇ、今食べてるんだからさ、そういう話は止めよ?」

「······確かに」


 まさか妃奈子にTPOを考えろと言われるとは······。

 なんかあまり納得いかねぇ。


「お詫びにケーキ」

「わ、分かった」


 こんなことならメールの件指摘しなければ良かった。

 美味しそうにケーキを食べる妃奈子にいら立ちを覚える。

 にしても、ケーキは百円じゃないから痛い出費だな······。


 ――後悔先に立たずという言葉を実践した感のある夕飯が終わり、帰宅後親が入れてくれた風呂に浸かって、現在自室にて妹と共にテレビを見ている。


「自分の部屋で見ろよ」

「いいじゃん、別に。節約だよ」

「あ、そう」


 ホント真面目に兄離れ宣言はどこにいったのやら。

 というのも、夏かそこらに妃奈子は、俺が入浴中に水着姿で乱入し、高らかに脱兄宣言したのだ。

 あの時は、びっくりしたね。

 ついに、頭どうかしちゃったかと思ったし。


「······?」


 と、謎の謎行動を振り返っていたら、スマホがメールを受信しランプが点滅した。

 どうせ勧誘メールか詐欺メールだろ。

 スリープモードのスマホを起動させ、メールアプリを開く。


「高田先輩からだ」

「あたしも」

「てことは、グループ全員に伝えたいことだな」

「そうだね」


 相づちを打った妃奈子からスマホに視線を移し、内容を確認する。

 そこには、


『ハロウィーンパーティーやろ! 参加者はオッケー求むっ』


 と書いてあった。


「ハロウィーンパーティー? もうそんな時期か」

「そういえば、あと一週間だったね」

「早いな~」

「あっという間だね。そう考えると」


 自室の壁にあるカレンダーを眺め、兄妹二人染々――って、違う!

 

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