第ニ章第一話ー2
先生から金をもらってるなんて考える奴が普通なわけないだろ。
あと、叫ぶんじゃねぇよ。
凄い目立ってんだけど。
掃除が終わって教室に帰る途中だから、弁解できない他クラスの奴らに変なイメージがこいつに付いたに違いない。
ったく、恥ずかしいったらないわ。
少し諒との距離を取ろう。
同類に思われたくない。
諒にバレないよう一定の距離を保ちつつ教室。
中に入ると、すでに教壇に担任が立っていた。
今日に限ってずいぶんいるのが早いな。
「んじゃ、また部活でな」
「おう」
幸いクラスメイトのほとんどがまだ掃除の役割分担場所から帰ってきていない。
俺らが最後だったらどうしようかと思った。
冷や汗を背中にかきながら自分の席へ座る。
「悪い。今日はSHR無し。それと、職員会議があるから部活も運動部・文化部共にないから。そんじゃ、まだ掃除やってる奴らによろしく言っといてくれっ」
担任はそう言って教室を出ていった。
よろしく言うって言っても、クラスメイト達を待つのめんどくさいんだよな。
つか、黒板に書いて行ってくれたら助かったのに。
気の利かない担任である。
「あたし黒板に伝言書いておくから」
「サンキュ」
「というか、俺らの班だけだったんだな。終わったの」
「そうみたいだね」
諒の言葉に苦笑いを浮かべるクラスメイト。
名前が出てこないが、ナイスな判断だ。
こういう黒板に伝言を書くというのは、女子が適任である。
男が書くと、どうせ誰かしら読めないとか始まるから。
「んじゃ、まぁ、とりあえずよろしくな」
「任せといて」
親切なクラスメイトに伝言の件は任せて教室を出る。
他クラスのほとんどがまだ掃除中のようだ。
清掃中の生徒の視線が痛い。
こいつらから見れば、サボって帰ってるように映るのかもしれない。
チクチク刺さるような視線をかいくぐりながら昇降口を出る。
こんなことなら教室でみんなのこと待ってれば良かった。
……はっ!?
さては、あの娘。
こうなることを見越して帰るタイミングずらしたな。
やりおる。
「あれ、二人とも早いね」
やっとこさ駐輪場まで歩いてきたら、自転車のスタンドを蹴りあげこちらを見る少女がいた。
なにを隠そうその少女は我が妹
まさか俺達より早いところがあるとは思わなかった。
「職員会議があるんだってよ」
「やっぱり祐君の学年もそうなんだ」
「いやいやいや、まさか学年ごとに分けて職員会議やらないだろ」
「そんなの分からないじゃん」
「そうだぞ、祐」
なんだこいつ。急に妃奈子の味方になったぞ。
殴ってやろうかなっ……。
「はいはい、そうですね~」
やっぱ止めた。無駄な体力使いたくない。
「なんだそのいいーーピロリン
「誰のが鳴った?」
「多分俺……」
「てか、サイレントにしてなかったのか」
「言われてみればそうだな」
「良かったね」
「ホント良かったわ」
受信したのが授業中だったら面白かったのに。
空気の読めない送り主だな。
「すまん、ちょっとお袋からおつかい頼まれたから先帰るわ」
……諒のお袋さんなんかすみません。
まさかこのタイミングでお袋だとは思いもしなかった。
てか、親譲りなのね空気の読めなさは。
「そうか」
「というわけで、また月曜日な」
「おう、またな」
「さよなら~」
諒の背中がみるみる小さくなっていく。
さて、俺も帰るか。
自転車に乗り、正門を出る。
折角なので妃奈子と帰宅の都についた。
珍しくなにも話さない妹を不思議に思いながら、自転車を我が家の駐輪スペースにしまう。
……調子狂うな。
「なんかあったのか?」
思わず訊いてしまったっ。
勘違いだったらバカにされるな。
「ん? どうして?」
およ? 勘違いじゃなかったか?
「さっきから無言だから」
「いや、別にあたしだってなにも話さないときぐらいあるよ」
「そうか」
「まぁ、でも強いて言うなら明日買いたいものがあるの」
「あ、それで考え事してて無言だったのか」
「よく分かったね」
……なんか凄くバカにされた気分。
こいつが満面の笑みだからか?
釈然としないまま家の中に入る。
「ここまで分かったらあとあたしが次に言いたいこと分かるよね?」
靴を脱いですぐ、妃奈子がさっきとは違う笑みを浮かべて問いを投げてきた。
言いたくねぇ……。
どうせ買い物についてきてくれというのを俺に言わせたいだけだ。
恐らくそれを言ってしまったら、絶対行くことになるだろう。
「ちなみに、拒否権ないから」
「……分かったよ」
「じゃあ、一緒に行ってくれるって受け取っていい?」
「あぁ」
「わーい!」
もう自分から“一緒に行ってくれる”このキーワード言ってるじゃないか。
伏せた意味半端ねぇ。
大体どうして一人で買い物に行けない。
「明日十時に行くからな」
「うん、わかった!」
のんびりゆっくり選べると思うんだけど。
やっぱり価値観の違いは恐ろしいな。
☆
人と約束してるのに夜更かしは良くないと思う。
昨夜俺が二十三時に
多分、格ゲーかそこらをしていたのだろう。
ウチの壁薄いからよく隣の生活音? が聞こえるのだ。
とまぁ、そんなわけで現在妃奈子の部屋前。
数回ドアをノックしたが、依然起きた気配無し。
これはもう侵入するしか道はないな。
そう自分に言い聞かせ、妃奈子の部屋に入る。
「……」
どうしてこう女の子の部屋っていい匂いがするんだろうね。
妹と分かっていても、ドキドキしてしまう。
ずっとこの空間にいたいが、それだとただ単に妹の部屋に無断で入って楽しんでる変態兄貴になってしまうからスヤスヤと寝息を立てている妃奈子を起こすことにしよう。
「起きろー」
「……」
肩を揺さぶってみても変化無し。
……。…………。
「ダメか……」
「……」
なぜ今俺が間を作ったかというと、妃奈子が起きてると踏んだからである。
……根拠という根拠はないけど。
なんと言うか勘?
「起きないんじゃ、今日の買い物は一人で行けよ」
ガバッ「わー! すみませんでしたっ。起きてます!」
毛布をはね除け上半身を起こし、叫ぶ妃奈子。
やはり俺の勘はあっていたらしい。
……ん?
なんか前にも今回と同様なことやった気がする。
「起きてるならさっさと起きろよ」
「うぅ、ごめんなさい」
「ほら、早く着替えろ」
「うん。お詫びに着替え見てもーーバタン
まったく……。
ため息をつき、妹の部屋のドアノブに手をかけ捻る。
誰が妹の生着替えを見るかっ。
俺はまだそういう属性持ってない。
なにが「別に見ても減らないのに」だよ。
そういう問題じゃないだろ。
背中ごしに聞こえてきた声に心中で突っ込みドアを閉めた。
「あらっ」
バッタリとお袋と遭遇した。
タイミング悪く通るなよっ。
「これから出かけるから」
「ま、まさか妃奈子とっ?」
「なんだその反応は」
「止めなさいよ、兄妹でそんな」
「一つ言っておくが、お袋が考えてることではないから」
「……あ、そう」
なんで少し残念がってんだよっ。
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