第一章第ハ話ー3

 可愛い。

 ぬいぐるみよりも可愛いっ。


「格ゲーやろうぜ」


 ぬいぐるみを抱きしめてる円芭に癒されていたら、諒が台無しにしてきた。

 察しろよっ。


「イジめたら即行でグーパンな」

「大丈夫だよ」

「何がだよっ。ハメやがるクセに」

「お前が強くなればいいんだよ」

「無茶言うなっ」

「まぁ、とりあえずやろうぜ」


 人の話聞けよ……。


「じゃあ、金をくれ」

「いやいやいや、自分で出せよ」

「ここタダだから」


 クソッ。

 こいつに金を出してもらえれば、少しは惨敗した時気持ちが楽になると思ったのに。


「よし、じゃんじゃんやるぞっ」

「お、おう」

「早速だが、この格ゲーでいいか?」

「何でも良いぞ」


 諒が指差すゲーム機は、女の子の絵がいっぱい描いてある。

 本当こういう台好きだな、こいつ。


「じゃあ、これで」


 やる台が決まり、俺達は対面で腰を下ろす。

 硬貨を投入するところがスタートボタンになっていた。

 押してみよう。


「……」


 キャラ選び画面が出現した。

 ホントに女の子しかいない。

 誰でも良いや。

 適当にキャラを選択。

 諒は、すでに俺よりも先にキャラを決めていたようで画面が戦うステージへ移動した。


『ほっ』

「……」

『てぃや』

「……」


 やかましいなっ。

 黙って出来ないかね……。


『とう』

「うるさいぞー!」

『……と……きないんだよね』

「何言ってるか分かんねぇ。あ……」

「しゃあ!」


 ヤバい、『この流れは負けこす』と思ったときにはもう遅かった。

 結果にして三十対二。

 惨敗である。


「男子魚釣ってきて」


 バーベキュー会場へ戻って、一息ついてすぐに高田先輩がおかしなことを言い出した。

 出発時には、手ぶらでも大丈夫と言っていたはず。

 矛盾が生じている。


「あれ、ここの施設提供してくれるんじゃないんですか?」


 おかしなことがあったら、まず訊くというのは重要だ。


「されるけど、その量じゃ足らないから」


 なるほどな答えが返ってきた。

 というか、この言い方だと、わりと高田先輩この施設利用してるな。


「分かりました」

「少し釣れたら水遊びしよ」

「釣ってみせましょうっ」


 どんだけ水着見たいんだよ。

 ていうか、なんで釣竿(折り畳み式)を高田先輩が持ってる。

 しかも、三つも。

 準備良すぎだろ。


「そう簡単には釣れないと思うぞ」

「知ってるよ。気長に待つさ」

「お、きた!」


 まだ浮きを投下して三分も経ってないけどっ。

 俺の竿の先端はしなっている。


「なぬ!?」

「さすが祐じゃん。おっ!」

「お前もかっ!」

「お先でーす」

「うぜぇ……」


 ピクリともしない竿を見ながら、悔しがる諒。

 それが、数十分くらい続き、高田先輩の一声でタイムリミットとなった。


「結局一つも釣れなかった……」

「どんまい、住吉君」

「というわけで、川入ろう!」


 落ち込む諒なんてそっちので元気な声をあげる高田先輩。

 この人は鬼か何かかっ。


「高田先輩川に入るのは良いですけど、どこで着替えるんですか?」


 円芭の言う通りだ。

 まさかこの場で着替える訳じゃないだろうし。

 こっちとしては、それでもいっこうに構わないけど。


「ちゃんと着替えるところあるから安心して」


 あるのか……。


「女子のみんなはこっちだよ」


 宮城先輩が手をあげて女子達を連れていった。

 なんだろ、このがっかり感。


「伊津美は入らないのか?」

「入らない」

「そっか」


 言い切られてしまった。

 ピシャリと。

 水が嫌いなのかもしれないな。


「俺達も着替えるか」

「そうだな」


 男子の着替えというのは、シンプルなので数分で終了。

 あ、あれ?

 諒のやつ腹筋が若干割れてる。


「どうしたんだ、その腹」

「最近鍛えてるんだよ」

「へぇ~」

「祐もやってみたらどうだ?」

「遠慮するわ。何のために文科部に入ったか分からなくなる」

「とかいつつ、祐の腹もいい感じじゃん」

「……」


 ちなみに、今の”いい感じ“は、ぶよぶよ感の良さ加減である。

 バカにしやがって!


「おーい!」


 小屋から出てきた高田先輩が、手を振ってこちらへ向かってくる。

 お胸が大きいっ。

 目のやり場に困るな。

 いくらチッパイが好きと言えど、これはいかん。


「お待たせー!」

「い、いえ全然待ってないですよ」

「どう?」


 円芭っ。助かった!

 ……。

 …………。

 前言撤回ですね。


 こっちの方がやばかった!

 無駄な脂肪がないのに、しっかり主張してくるそれは素晴らしいとしか言いようがないっ。


「似合ってるぞ」

「……そう」

「葉瑠は!? ねぇ、葉瑠はっ」

「た、高田先輩も似合ってます」

「ホントにっ。嬉しい!」


 ポヨンポヨンしてんな……。

 どこがいいんだろ、これの。


「そりゃっ」冷たっ。


 いつのまにか冷静に高田先輩の豊満な胸を見ていたら、突然肌に水をかけられた。

 水が飛んできた方に向くと、宮城先輩。


 え、宮城先輩!?

 予想外なんですけどっ。

 てっきり妃奈子かと思った。


「不意打ちは卑怯なりっ」

「公衆の面前でふざけたことしてるからでしょ」

「焼きもちやいてる~。優莉愛がっ」

「……ち、違うもん」

「優莉愛の水着どう? 祐君」

「似合ってると思います」

「あ、ありがとう」

「優莉愛が照れてるっ」

「照れてないから!」バシャッ

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