第一章第ハ話ー2

「とりあえず準備しちゃおうぜ」

「うん」


 一抹の不安を抱えつつ、俺達は着替えを済まして我が家の前で待機している。

 やっぱり完全には信頼できない。


「ん?」

「左ウィンカーついてるね」

「妃奈子の説当たりかもな」

「えーっ。あたしまだ死にたくないんですけど」

「高田先輩もそこまでバカじゃないだろ」


 俺はまだ信じるぞっ。

 高田先輩にそんな勇気はひとつもないはずだ!

 さっきの車が俺らの近くで停車し、ドアが開く。

 良かった。

 運転はしてないらしい。

 後部座席から高田先輩が姿を現した。


「おはようっ」

「おはようございます」

「良かったね、祐君」

「妃奈子っ」

「は~い」


 このやろー。

 勘の良い女の子だったら、アウトレベルの言い方だ。

 何が面白いのか、ニヤケながら顔を逸らす妃奈子を睨む。


「何が良かったn――」

「何でもないです」


 ヤベッ、ちょっと食い気味に言ってしまった。


「そう……?」


 首を傾げ、訝しげな顔をする高田先輩。

 話を変えよっ。


「ところでそちらの二人は?」


 実際薄々どういう関係かは気づいているが、気になったので訊いてみることにした。


「はるの親」

「やっぱり! ソックリですねっ」

「どっちに似てる?」

「両方似てると思います」

「よく言われるよ」


 嬉しそうな顔を浮かべ、ソックリな両親に車に入るよう指示すると、自分も乗り込んで俺達に手招きした。


「乗って」

「すいません、遅れましたっ」


 先輩の指示に従い、足を車内に入れようとしたところで、円芭が息を荒げやってきた。

 ショーパンかよっ。

 バーベキュー行くって言ってるのに。


「はるも今来たところだから大丈夫だよ」

「ありがとうございます」

「それじゃ、行こうか」


 仲良いことは良いことだ。

 さすがに、毎日はケンカはしないらしい。

 こうして残りのメンバーを拾っていき、高田先輩の親が運転する車は今どこかの高速を走っている。


「ちょっとお父さんデパートに寄って」

「分かった」

「あれ、どこに行くんですか?」

「先輩の家に行くんじゃないんですか?」


 今さら何を言ってんだ。

 結構前、地元を出た辺りから気づくべきだし。


「違うよ。バーベキュー出来る施設行くの」

「初耳なんですけど」


 確かに、それは聞いてなかったわ。

 バーベキューが出来る施設に行くって言うのは。


「うん、今言ったからね」

「だったら、どうしてデパートに行く必要があるんですか?」

「手ぶらでもバーベキュー出来るところだったら意味ないですよ」

「意味はあるよ。そこの近くに川があるから」

「そう言うのは、前もって言ってもらって良いですか……」


 超呆れた声になってるぞ、円芭。

 まぁ、そう言いながらも財布を取り出してるけど。


「どうして?」


 ど、どうして!?

 こういうことに高田先輩鈍感だな。


「体調とか色々考えなきゃいけないじゃないですか」

「そうかな?」


 円芭もカモフラージユしてないで、体調を体型と言えばまだ分かったのではないだろうか。

 並走していた車が離れていく。

 どうやら高速を降りたらしい。

 まぁ、俺は口を挟まないようにしよ。


「スタイルが良い人には一生分からないですよ」

「まぁまぁ、新しく水着変えちゃえば良いじゃん」

「そういう意味じゃないんですよ……。もういいです。諦めます」


 とうとう諦めた円芭と時を同じくして、大きなデパートに到着した。

 早速俺達は車を降り、目的の場所である水着売り場に足を踏み入れる。


「祐君は、あたし達のコーディネーターね」

「はぁ!?」


 着いて早々何言ってんだ、妃奈子は!


「いいねっ」


 ほら、ノッてきたっ。


「私は自分で選ぶから」

「あたしもそうするわ」


 円芭と長田は、最も正しい選択をしたと思う。

 普通水着を好きでもない男に選ばさせないだろ。


「じゃあ、二手に分かれよう」

「分かりました……」


 と言って、常識人二名が背を向けて歩いていった。

 困ったな……。


「さて、祐君。ちょっとだけ待ってて。候補選んでくるから」

「私も探してくるね」

「あたしもー」


 男三人女子の水着売り場のど真ん中に取り残されるというね。

 キツいわ……。

 そんなシラケた目を向けなくても良くない?

 まるで変質者を見る目だ。


(俺達このコーナーを出てても良いか?)

(ダメに決まってんだろ)


 見損なったわ……。

 そんなやつらだとは思わなかった。


「お待たせー!」


 高田先輩が戻ってきた。

 ずいぶん早いな。


「どれがいい?」


 あ、本当に俺が決めるのね。

 高田先輩が持ってきたのは三つ。


 キュート系の水着(左)

 セクシー系の水着(真ん中)

 オーソドックスな水着(右)


 断トツで左だな。

 高田先輩のイメージが犬だから、ほんわかしているのが似合いそうだと思った。


「左ですかね」

「じゃあ、これにするっ」

「私のも決めて。どっちが良い?」


 今度は宮城先輩。


 フリフリな水着(右)

 大胆な水着(左)


 う~ん、宮城先輩も犬系のイメージが近いから右だよね。


「右の水着ですね」

「ありがとっ」

((……))


 それにしても、早くここから出たい!



 ☆ ☆ ☆



 宮城先輩の水着を選び終えてからしばらくして、妹がやって来たのでそれを選び、やっとこさ水着コーナーから脱出することができた。

 俺が精神的に疲れているのも目もくれずして、デパートを出て本来の目的場所の施設へ到着。

 その後まもなく高田先輩の両親は帰っていった。

 そして、現在俺達は、夕方まで時間があるので施設内にあるゲームセンターにいる。


「ゲーセン久々だな」

「高校受験の時から行ってないな、そう言えば」

「祐、ぬいぐるみ」


 端的に短く声を発し、UFOキャッチャーを指差す円芭。

 ちゃんと取ってほしいって言えよ。


「分かった」


 まぁ、取るけどさ。

 アームを動かし、中くらいの大きさの可愛らしい熊のぬいぐるみを狙う。

 最終段階のボタンを押し――


「おっ!」


 な、なんということでしょう!

 降下させたアームは見事にぬいぐるみをしっかり包み、取り出し口へと運んだ。

 まさか一発で取れるとは。

 奇跡の一体を円芭に渡す。


「あ、ありがとっ」

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