第八話「良さが分かりません」

第一章第八話ー1

 まさかあそこで退散されるとは思わなかった。

 どうしよう。

 叫んでしまったので、もうそこには居づらくて俺も帰ってきたわけだが、どうにも顔が熱い。

 さっき洗面所で自分の顔を見てみたけど、頬には顔の熱さは反映されていなかった。

 これは、まだ隠し通せるかもしれない。


「ただいま」

「おかえり」


 自信を無理やりつけてリビングのドアを開けたら、妃奈子がこちらを見て笑顔を浮かべていた。

 悟られないようにしなければっ。


「今日は、カレーか?」

「正解」

「ニンジン入れてないだろうな」


 実は俺、ニンジンが嫌い。

 あの甘いのか苦いのかはっきりしてない味が理解できない。


「入れるに決まってるじゃん」


 まぁ、普通のカレーには入ってるからな。

 反論のしようがない。

 ニンジンだけ省こう。


「あ、そうそう。間接キスしたの?」

「は、はぁ? ななな、何の話だ」


 ば、バレてる!

 何でこいつ知ってんの、怖っ。

 まさかGPSアプリ入れられたか。

 しかも、盗聴付きの!


「ビンゴのようだね」

「違ぇし」

「そっかそっか」

「と、ところでお袋達は?」


 これ以上聞くと身内を警察につき出さなきゃいけなくなりそうだったので、リビングに入室したときに気になっていたことを尋ねることにした。


「今日も元気に大人のアミューズメントに行ってるよ」

「またか」


 話のすり替えに成功した。

 にしても、週末になると親父達パチンコに行くんだもんな。

 どっから遊ぶ金がでてるのやら……。


「だから先に食べちゃお」

「そうだな。いつ帰ってくるか分からないし。いただきます」

「たんとお食べ。おかわりあるから」

「じゃあ、おかわりしちゃおうかな」

「是非にっ」


 おかわりを事前に宣言してから一口。

 やはり妃奈子の方が断然お袋より旨い。


「旨いぞ」

「ありがとっ」

「ん?」


 スマホの上部が光っている。

 これは、メールが来ていることを知らせるライトだ。

 学校に通ってる都合上サイレントにしてたんだった。

 危ない危ない。

 目をスマホに向けて良かった……。


「メール?」

「あぁ」

「悪質なメールじゃない?」

「だとしたらめんどくさい」


 最近急増してるらしいからな。

 もし円芭とか知り合いの名前と同じ名の人物が騙してきていたら、いつもの流れでタップしてしまいそうだ。

 そんなリスキーなメールじゃないと思いつつ、スリープ状態のスマホを立ち上げる。


「あ、高田先輩からだった」

「ついに、メールでも祐君パワー充電しだしたのかな?」

「まさか、そんなわけないだろ」

「ていうか、あたしのもきてる。あ、そう言えばグループ作ったんだっけ」

「そんなの作ったな」


 いつかは忘れたが、便利だからやろうと言われたからグループ入ったような気がする。

 今の今までグループでのやり取りはなかったけどな。


『高田:花火大会の日バーベキューやろ!』

『宮城:いいね!』

『須藤:あたしもやりたいです』

『住吉:みんなやるならやりたい!』


 すでにほとんどのメンバーが入室していた。

 バーベキューか。

 珍しく円芭が高田先輩の提案に好反応を示している。

 断る理由はないな。


『練本・伊津美:上に同じ』

『高田:わーい、楽しみ!』

『宮城:詳細は当日言うね』


「輪に入りはぐった」

「俺と妃奈子は、セットだから安心しろ」

「一心同体ってこと?」

「全然違う」

「ひどっ」


 どうしてそういう認識になるのかね……。

 中学に入ってから急にブラコン気質になったので、あの時に知り合った友人の誰かが妃奈子のブラコン度合いをあげたに違いない。

 何せ考え方が変わっている。


「飯食い終わったし、上に行くぞ」

「あたしも上にい――きたいけど、洗い物があるからいいや」


 ウソだ。

 もうほとんど食器などない。

 二人分なんてあっという間に処理できてしまうだろう。


 何せ今日は、カレーにサラダくらいしか食べていない。

 四つ食器を洗えば終わりである。

 絶対俺の考えを瞬時に察知したはずだ。


 上に行くと言ったのはデタラメ。

 本当は風呂に行こうとした。

 俺の読みが正しければ脱衣所に入ってくる!


 ガラ……ガラ……やはりっ。


「バレてるんだよ。妃奈子のやりたいことはっ」

「ちぃ……!」


 妹のありがた迷惑混浴を阻止し、一夜。

 うっかり床につく際に妃奈子の存在を注視するを忘れてしまった。


「……」

「……むにゃ……」


 まぁ、そんなわけで、俺の横には我が妹様が良い香りを放ちながら寝息を立てている。

 はぁ……。

 ため息をつき、カーテンを開ける。

 なぜ起こすような真似をしたかというと、こいつが起きてるから。

 寝息は演技。


「ま、眩しいよ……」

「嘘つけ。大分前から起きてたくせに」

「それにしたって眩しいよ」


 否定をしろよっ。


「なんで」

「いやいやいや、こんな真っ暗だった部屋に明るい光を入れられたら、そりゃ眩しいでしょっ」

「……まぁ、確かに」


 暗転から急に光が入れば眩しいか。

 俺としたことが、まだ寝てるな。


「それに、もう十時だよ? 起こしに来た」

「起こしに来たやつが添い寝するなよっ」

「いや~、つい」


 上半身を起こした妃奈子が俺の指摘に頭を掻いた。

 うっかりして兄の寝てる横に普通寝ないでしょ。

 もうめんどくさいからこれ以上問い詰めないけど。


 ピポン。


 俺と妃奈子のケータイが同時に機械音を奏でた。


「高田先輩じゃない?」

「だろうな」


 メールを開く。


『高田:みんな身支度して家の前で待ってて。迎えにいくから』

「え、家の前?」

「どういう意味だろうね」

「さぁな」

「車の免許取れたから的な?」

「いや、それはないだろ」


 高田先輩は、そんなことしないはずだ。

 つか、校則で禁止されてるからもし運転してきても止めさせるけど。


「だよね」

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