ピラミッド埋葬には愛がない!?

ちびまるフォイ

ある人形売りがやってきた!

町にでかいピラミッドができると、世間の話題をかっさらった。


「いったいあれは何かしら」

「誰があんなのを作ったのか」

「何のために作ったんだろう」


俺もつい好奇心でピラミッドに行ってみると、入口に看板が立ててあった。



『河田正敏 葬儀会場』



「え!? このピラミッドってまさかお葬式会場!?」


ますます好奇心というか冒険心がくすぐられる。

脳内ではインディージョーンズの曲がかかっている。


遺族でも関係者でもないがそんなことわかりっこないだろうし、

黒い服に身を包んでピラミッドの中へ入ってみた。


中は本格的な石造りでひんやりとしている。

葬式のような静かな空気があるが、それ以上に神秘な雰囲気を感じる。


「このたびは……」


「あなたは?」 さすがに遺族には聞かれる。


「私は生前、ご主人にご利用いただいていた業者です」


「ああ、そうなんですね。どうぞ、主人も喜びます」


なんとかごまかせた。

墓所に入ると、小さなカフェほど開けた空間になっている。天井も高い。

ツタンカーメンのような棺の前にはお焼香セットが置いてある。

文明感めちゃくちゃじゃないか。


「縁もゆかりもないけど、一応お焼香あげとくか」


ピラミッド探検に大満足したついででお焼香をあげたときだった。



――お……い……。



「なんだ……? どこからか声が……」


――お……い……


無視できないほどはっきりと声が聞こえる。

やばいやばい。やっぱり面白半分でピラミッドなんて来るんじゃなかった。


「おいって言ってんだろ!!」


棺のフタがひっくり返されて、中から白装束の男がやってきた。


「うわああああ!!」


「なんで驚くねん! さっきから声かけて心の準備できとるやろ!」


棺の男は俺を見てきょとんとする。それもそのはず、俺は部外者なのだから。


「お前、誰や?」


「僕は、その……特殊な人形を作っている会社のものです」


「なんや覚えがないなぁ。ま、ええわ。それより協力してや。ここから出たいんや」


「え? 普通に出ればいいじゃないですか」


「バカ。ピラミッドの墓荒らし対策知らんのか?

 棺から遺体が持ち出されたら、センサーで罠が作動してしまうんや。

 ワイが動いたら外に出る前に自分がまた死んでまうわ」


「でも俺にどうしろと……」


「代わりに棺に入ってや? 一生のお願いや!」


「あんた蘇ってから一生のお願い使うの早すぎだろ!」


「ここまでは計画どおりやねん。あとはここから出るだけなんやけど、

 本格的すぎるピラミッドにしたせいで出れないねん」


「……というかなんでピラミッド作ったんですか」


「ピラミッドは死者を蘇らせる力があるって聞いたから遺書にそう書いたんや。

 "みんなでお金を出してピラミッドに埋葬してくれ"ってな」


「人望あったんですね」

「当たり前や。これでも社長やで」


男は棺のなかでふんとふんぞり返る。


「で、作戦通りピラミッドパワーで蘇ったわけで、あとは生命保険を受け取るだけや」


なるほど、そういうわけか。

一度死んで蘇れば生命保険で第二の人生は楽ができる。

だからこんな大がかりな墓を作ったんだろう。


「家族に真実を伝えて協力を求めましょう。

 生命保険があるとわかれば、きっとここから出る方法を探してくれます」


「せやな。明日にはミイラ火葬言われてるから急ぎで頼むわ。あ、来たで!」


ちょうどそのタイミングで家族が入って来た。


「あの、すみません! 実は伝えたいことが……」

「はいなんでしょう?」


「ご主人なんですが、実は生きて――」



――タチサレ……。


「なにか聞こえませんか……?」



――ココカラタチサレ……。



「い、いったんでましょう!!」


遺族は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。

俺にはもちろん声の主が誰かわかっている。


「ちょっと! なんで遺族を怖がらせるんですか!」


「あかーーん!! 生命保険の人と一緒やった!

 これじゃワイがよみがえってる事バラせへんやん!」


蘇ったとわかれば生命保険金は受け取れない。

あくまで伝えるのは家族だけにしなければならない。


「どうすんねん! 明日には生きたまま内臓取られてミイラにさせられ

 あげくに生きたまま火葬やで! 魔女狩りか! 恐ろしすぎるわ!」


「僕に考えがあります。言ったでしょう、僕は人形の会社に勤めてるんです」


「あ!! わかったで!! 人形とワイを入れ替えるんやな!

 ……でも、そのあとはどうやって生命保険を受け取るんや?」


「まかせてください」


翌日の火葬当日には遺族を含め、また生命保険の業者はやってきた。

棺に近づいた瞬間に、ピラミッドのどこからか声が聞こえてくる。



『ピラミッドの呪いを受けたくなければ立ち去れ……。

 さもなくば末代まで呪いが降りかかるであろう……』


「「「 ひ、ひぃぃぃ!! 」」」


関係者全員をビビらせてピラミッドの外に避難させる。


「よしそれじゃあ行きますよ」

「頼むで」


スイッチを入れるとピラミッドの頂点からまばゆい光が天に向かって伸びる。


「あれはいったい!?」


「あれは……エジプトに古くから伝わる死者復活の光……!」


さも詳しい関係者っぽく解説すると、遺族もすっかり信用する。

その瞬間、激しい爆発音とともにピラミッドが爆発した。


「た! 大変だ!! ピラミッドが!! 遺体ががれきのなかに!!」


ピラミッドはガラガラと崩れてしまった。

これなら確実に「死んだ」という事実を保険会社にも認識させられる。


そのうえで……。


「あなた! 生きていたのね!!」


がれきの山からは隠れていた男が登場した。

作戦通り「一度ピラミッドが崩れて確実に死んだが、復活した」を演出できた。


実際はダイナマイトしかけて、棺の中に人形とすり替えただけだが。


かたく抱き締め合う夫婦を見て、真実は墓場まで持って行こうと心に誓った。


「あなた……おかえりなさい」


「ピラミッドの力で蘇ったんや。ところで、生命保険は?」


「ええ、もちろんいただいたわ」


「それはええ。それじゃ、復活祝いにどこか旅行でも……」


「え? 全部使っちゃったわよ」




「……な、ななな、なんやて!? 数千万円あったで!?

 何に使ったんや」


男はミイラ化したようにどんどんシワシワになっていく。


「あなたのピラミッド建設にお金を出してくれる人なんていなかったから、

 しょうがなく、あなたの生命保険でピラミッド建てたのよ。

 だって遺書に書いてあったし逆らえないじゃない」


「そんなアホな……ワイの人望っていったい……」


「お金なんていいじゃない、あなた。

 私はあなたにまた会えたことだけでいいのよ。それが夫婦でしょ」


「おまえ……!」


二人はまた抱きしめ合った。

愛があればお金なんていらない。

夫婦の仲がいっそう深まり、二人は結ばれたのだった。







数日後、ピラミッドの棺からダッチワイフ人形が出てくるまでは。

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