アヤのあやまち

涙墨りぜ

アヤとユキ

 アヤとユキはいつも一緒だね、そう言われていた。

 実際その通りだったし、これからもずっとそうだと思っていた。



「アヤ、男女希望の紙もう出した?」

 放課後、小学校の教室。ショートカットヘアの子供が二人、隣同士の席で話している。

 ユキ……十歳の誕生日を迎え女性の性別を選択、ユキエとなったその少女は、誕生日の近づいた友達の選択する性別が気になる様子だった。

「まだ出してない。でもまあ決まってる」

「男の子にするんだよねアヤは。じゃあアヤトかな?」

「そうだね」

 もう一人はアヤ。アヤとユキエは大の仲良しで、いつも一緒に行動していた。



「でも寂しいなあ。だってアヤが男の子になったら男子のグループ行っちゃうじゃん」

 伸ばし始めたばかりの髪に可愛らしいヘアピンをつけたユキエが言う。アヤが顔を上げた。

「そうかな……変わんないと思うけど」

「えー、だってアヤ男の子でしょ、みんなでサッカーしたりするでしょ」

「そっか……」

 十歳の誕生日を迎えた子供は男か女、どちらかの性別を選択する。それまでは無性別として過ごし、特殊な『処置』を受けることによってそれぞれの性別の特徴を獲得するのだが、文化としての「男とは、女とはこうあるべきもの」という枠にも、同時におさまることになるのだった。

「それに着替えとかも別々になるしさ、修学旅行で泊まる部屋とかも」

「うん……でも」

「もちろん。アヤがアヤトになっても、私たち仲良しだよ!」



 それから一週間。『処置』を受けて初めての登校をしたアヤの姿を見て、ユキエは驚いた顔をした。

「えっ、アヤそれ、女の子……?」

 アヤはスカートを履いていた。髪はショートカットのままだったが、明らかに顔立ちや体の線の雰囲気は女子のそれだった。

「変、かな」

「変じゃないすごくかわいい……でもなんで」

 目を丸くして駆け寄るユキエを見て、少女は少し笑った。

「ちょっと、考えたの。これからはアヤコだから……よろしくね」

「すっごいビックリ! でもかわいいよアヤコ!」

 ユキエの満面の笑みに、照れながらも嬉しそうなアヤコ。

 幸せそうに笑い合う二人の少女の髪の毛が、教室の窓から入ってきた風に揺れた。

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