Data 1.スナッチャーの憂鬱

Packet 1.彼の個性定義

 体育館の正面中央。ステージ上の講演台に一人の老人が立ってから、校歌に換算して何曲分の時間が流れたのだろうか。既に多くの生徒は目線が前を向いておらず、教師ですら予定の超過に、先程から腕時計をちらちら確認しては苛立ちに体を揺らす者が何人も居る。

 形式張ったこの始業式に、一体どれほどの価値と有意性があるのだろう。幾つかの例年行事は未体験者の参加だけとし。残る教員・生徒は、その時間を学業等に割り当てた方が、今も拡声器から垂れ流れている経に倣い応える事が出来るのではないだろうか。


「はぁ~」


 例にもれず外れた視線を中空へ投げ、余剰の思考で発想に、またかと踏御とうご ふみひとはここ数年で増加し続けるため息を吐いた。

 いっそ居眠りでもして意識を飛ばしていた方が、精神衛生的にも良いのではと考えたが、生憎彼は何時でも何処でも寝れる性質では無く、睡眠を要求するほど体も疲れては居ない。仕方が無いので昨日のテレビの内容や、式が終わった後の事などを考えて時間を潰していると、いつの間にやら拡声器からは閉式の辞が流れていた。


「フミフミ~。これ片付けてホームルーム終わったら、今日の学校終わりっしょ。どっか行かね?」


 閉会した後。踏御がパイプ椅子を片付けながら惚けていると、くせ毛ましましの天然パーマが彼の背に覆いかぶさり、軽い口調で遊びへ誘う。一見すると柄の悪い不良生徒に見間違えそうな出で立ちをしており。ほぼ正反対の踏御と一緒だと、絡まれている様にしか見えないが、多くは無い友人の声に彼は笑みを零すと、押しのける様にして背筋を伸ばした。


「あー、悪い。読みかけの小説が良いところだから、放課後はちょっと寄ってく」


「えーまたかよ~。小説に友人寝取られるとか、俺どんな不幸妻だよ~」


我妻あざまー!このあと皆でカラオケ行かねー?」


 我妻と呼ばれた男子生徒は、踏御の肩を軽く叩くと、誘いを受けた男子グループへと軽い足取りで駆け寄って行く。我妻と踏御は高校からの付き合いだが、誰とでも気さくに付き合い、それでいて他者の大事な一線を大事にする我妻は、彼が知る中では数少ない個性的な友人だった。そんなグループの中でも一際目立つ友人に踏御は一瞥し、気持ちと共に椅子を持ち上げる。

 残りの片付けと、短縮授業による放課後までの短い時間を淡々と受け流し。我先にと校外へ向かう同胞達と道を違え、人の気配が薄い校舎二階の突き当りにある戸を引いた。


 通路と同じく放課後の図書室となると人気は殆ど無く。始業式当日ともなれば、滞在するのは勉学に励む三年生くらいなもので、数少ない踏御のご同類は、既に自動化された貸出機能を存分に使い、この場から霧散していた。


「……居辛い」


 辺りに見えるのは上級生ばかり。その多くが程度の差はあれ勉強するための道具を持ち込んで、個々のグループでテーブルを占拠しており。言うなれば上級生の教室に入り込んだと同義、完全なアウェイ。悠々自適に読書とはいかなくなった踏御は、先任に倣いミッションを開始する。

 目標は入口正面突き当りの棚を曲がった上から三段目。道中二グループほど背後を通らざるおえないが、敵地と感じてもここは共有の場。平然としていれば奇異の目で見られることも無い。

 そんなどうでもいい脳内ブリーフィングを済ませると、若干楽しくなってきたのか、ステルスゲーム宜しく先輩グループを仮想敵に見立てて、気付かれない様にそっと背後を抜けていく。


「ねぇねぇちょっと――」


「は、はいッ⁉」


 二グループ目の背後に差し掛かった時。突然声をかけられた踏御は、体を強張らせて硬直する。上擦った声で返事を返した相手に目を向けると、教科書片手にペンを持ち、学友に教えを乞う姿のまま、此方と目が合う三年生の姿があった。

 状況を理解し頭を下げるまで五秒。目標の棚の裏へ逃げ込むのにその半分を要して、彼は先程までの思考に罪を被せて非難する。そして同時に外ではなく奥の本棚へ逃げ込んだ事に後悔した。

 罪を被った思考を借りて今の状況を説明するのなら、現在地点から脱出地点までのどのルートにも敵が存在し、気付かれずに脱出するのは非常に困難。加えて先の接敵によって警報は鳴り響き、警戒態勢が敷かれている。安全に出る事は不可能で、少なくとも棚向こうから微かに漏れ出る笑い声が消えるまでは、この場で息を潜めるしかなくなったのだ。

 顔を赤くして打ちひしがれていた踏御だが、状況を整理し苦汁を飲み込むと、諦める様に肩を落として目的の本を探し始めた。


「えーっと、確かこの辺に――って、また混じってるし」


 本を扱う場所ではよくある風景。特に部屋の奥や隅の棚は手入れが悪い事が多く、時間帯や来訪者次第では利用者が先に目にする事になる。棚に収まれば大差ないと思う人もいるかもしれないが、本棚をよく見る側からするのなら、間違った場所にねじ込んだ本というのは、それだけで浮いてしまうものなのだ。ましてや今回の迷子本は更に酷く、私物でも無いのに表紙が裏返しで付けられて、収まったままではタイトルすら確認出来なくなっていた。

 踏御は鬱憤を吐き出す様にしてため息交じりに表紙を外してタイトルを確認して――手が止まる。

 カバーに書かれたタイトルは『盗賊たちの夜』別段変わったタイトルという訳でもなく。表紙を裏返してまで隠す必要性のあるものでも無い筈だが、そのタイトルに含まれる名詞はここ数年に渡り、彼が忌避してきたものだった。


 踏御 史は生粋の盗人である。そして生涯その性質は変わらぬだろう。

 高校二年でたかだか十六年しか生きていないのに、生涯などとはほとほと可笑しな話ではあるのだが。彼が生を受け、月日をかけて培った自身を構成する多くのものは、その大部分が他者の思考という盗品を積み上げたものだと彼が気付き理解した時、若くして不相応な虚無感に侵されたのは、想像に難くない。


 彼が彼自身に初めて嫌疑をかけたのは中学一年のこと。クラスで文化祭の出し物を考えていた時、彼の出した意見が採用され代表を任された時だ。

 音頭を取って進められた準備は、とんとん拍子に作業が進み。予定していた期日よりも早く、そして予想よりも遥かに良い出来で完成した。

 それはひとえに、彼の指示が的確で人を動かすことに長けていたから――という訳ではなく。生徒一人一人が指示を受ける必要も無いほどに、テキパキと作業を進めていたからだ。まるで最初からやるべきことを知っていたかのような皆の作業に、驚きと疑問しか浮かばなかった彼は、それとなく尋ねざるおえなかった。


『だって踏御君が出した案って、私が考えてた案と一緒なんだもん』


 ある女生徒はそう答え、またある男子生徒は今そう思っていたところだと答えてくれた。彼が指示を出そうとする度、やりたい事をやらせてくれると皆が気持ち良さそうに応えてくれる。

 理想的な団体作業。予想以上の成果物。事実彼は先生に絶賛されて、仲間達は望む作業と望む成果物を作り上げた達成感を、彼と共に分かち合おうとしていた。

 だが多くの人にとって、仲間と共に舞台に立っている様に見えた彼は其の実。彼にだけは、観客席で眺める喜劇でしかなく、見える事の無い疎外感は、自身を称賛する事を許さなかった。


 もしかして自分は他者の思考を読み取る事が出来るのではないか――思春期特有のと言われてしまえばそれまでの帰結。意見や案が被る事など変わった事や珍しい事ではなく、あって当然の事なのだから。

 それなのに、何故か彼はそう思えなかった。そしてそう思ってしまったが故に、自らに枷をかけてしまう。出たら売れそうだと思う食堂のメニュー。教科書でテストの問題として出すと良いと思える箇所。あれば面白いと思うゲームのシステム――多くの人が考えて当たり前のそれらが、別の者によって世に出て自分の前に現れる度。かけた枷はさらに重さを増し、彼の行動を悉く制限し、個性となり得る多くのものまで否定し続けた。


 故に踏御 史と言う人物は、彼の個性定義において無個性だ。彼にとって個性とは個が出せる唯一無二のものであるべきで、それ以外は例えどれほど優れたものであっても無個性へと成り下がる。


「それ、結構面白かったよ」


 突然の声に捨て去りたくなる過去の記憶から呼び起こされ、踏御の体は再び跳ねる。傍から見ると可笑しな挙動この上ないが、幸いにも頓狂な声を上げなかった彼は、僅かばかりの安堵を得る。声の主を確認しようと固まった首を動かすと、いつの間にやら彼の傍らには見知らぬ女生徒が此方を覗き込んでいた。


「あぁ、えーっと……何か?」


「突然声をかけてごめんなさいね。私は三年の布津巳ふつみ 妃奈子ひなこ。君はさっき変な声上げてた子だよね?」


 今まさに最も消し去りたい過去ナンバーワンを指摘され、踏御は彼女が棚向こうの敵兵たちと同じ三年であると認識する。本で顔を覆う様にして視線を背けてしまう。だがその挙動が乙女の様で可笑しかったのか、押し殺す様にして笑う彼女は、一頻り笑った後、謝る様に手を振った。


「ご、ごめんなさい。別に笑いものにする為に声をかけた訳じゃないの。皆一・二時間は帰らないと思うから、折角ならうちの部室に寄って行かないかな?」


 笑いのツボに入る彼女の様に、先輩への敬意を忘れ不信の目で抗議する踏御。部員の間でも笑いものにするのだろうかと訝しんでいると、ようやく落ち着いた彼女は、棚横に取り付けられた図書準備室とプレートが掛けられた扉に手をかけ、おもむろに開くと彼を招いた。


「大丈夫、今は私しか居ないから。良ければどうぞ」


 彼女の言を鵜呑みにする訳ではないが、棚向こう先輩方は彼女が言う様に未だ帰る気配は無く。彼女の言を信じるならば、時間単位での棒立ちを余儀なくされる。考え答えを出した踏御は、念のために準備室に誰も居ないことを確認した後、サプライズが無い事を祈り、意を決して敷居を跨いだ。


 部屋の中はその名の冠する通り、辞書から図鑑、小説から児童書に至るまで大小様々な本が所狭しと塔を形成し、小さな部屋の壁としてそびえ立つ。本を押しのける様にして出来た中央の空間には、申し訳程度に長机とパイプ椅子が設置され、仕掛けなど仕込める余地など何処にも無かった。


「どうぞ好きな所に座って。といってもこんな狭い部屋じゃ、何処もあまり変わらないけどね」


「準備室だからってのは分かりますけど、随分と手狭ですね。一体何部なんですか?」


 図書準備室を部室として扱うのだから、文系だとは予測できるが、それを吟味したとしても活動を行う部屋としては狭すぎて、あと数名人が入れば部屋から出るにも一苦労と見てわかる。踏御の問いに彼女は一呼吸おいた後、自嘲的な笑みを見せては肩を竦めて言葉を洩らす。


「文芸部だった、かな。卒業生が抜けてからは、部員も私ともう一人だけで、まともな活動すら何もしていないけど」


「……なんか悪い事聞いちゃってすみません」


「いいのいいの気にしないで。廃部になるのは目に見えてるし……なんなら、踏御君もこの部屋好きに使って良いよ。本読むの好きなんだよね?」


 部活動としてではなく、読書スペースとしてならほど良い空間ではあるこの部屋。活動時間中という制限は付くとしても、踏御にとっては魅力的な提案だった。本来ならば二つ返事で首を縦に振っていたが、布津巳の投げやりな態度と提案に、彼は何故かすぐに答えを返す事は出来なかった。


「……ってあれ? 話は変わりますけど先輩。なんで俺の名前知ってるんです?」


 提案に対する答えに躊躇いを残し、はぐらかす様にして踏御は疑問を述べる。未だ一方的に自己紹介を受けただけの筈なのに、彼女が彼の名をさも当然と言わんばかりに口にしたのは、話題を変える題材としては適当だった。


「あぁそれは、私が図書委員も兼任してるから……かな。一年生からここを利用し続ける子なんて最近だと珍しかったから、気になって貸出記録調べちゃった」


「何と言うか、酷い職権乱用ですね。まぁ確かによく来てますけど」


 お互いが場繋ぎの笑みで返し、どちらからともなく席に着く。布津巳は提案の返答について然程執着して居なかったのか、好きに時間を潰す様に踏御へ伝えると、持ち込みの文庫本を学生鞄から取り出して早々に読み始めてしまった。

 踏御も彼女に続いて読書に励もうと思い立ったが、そこに来てやっと、自分が先の迷子本を手にしたままだという事に気が付く。読む気は更々無く、どちらかと言えば避けるべきタイトルの書籍だが、持ち込んだ本はこれだけで、既に本の世界へ旅立った布津巳を呼び戻し、退室して本を取り換えに行ったり、室内にある本を読む許可を取るのは、同じ読書を嗜む者として些か憚られる。

 逡巡していた踏御は、仕方が無いといった様子で、彼女も薦めたその本にざっと目を通す事にした。本の内容はタイトルからも読み取れるシンプルなもので、夜の闇に紛れて盗みを働く盗賊団が、村を追われ街を追われ国から追われ続けても、自分たちの理想郷を求めて旅を続けるという内容だった。


――男たちは盗品抱え、声高らかに歌い出す。


『盗めよ盗人よ。奪えよ咎人よ。俺たち目指すは理想郷、金銀財宝夢の国。願いが叶うその日まで、おれたちゃ闇夜を走るのさ』


 暗い暗い夜の闇を、声だけが夜を照らす明かりとなって響いて消える。担いだ盗品を楽器の様に鳴らしながら、今日も夢の為に罪を重ねる――


 作中では盗賊たちの悪行が面白おかしく表現されている。盗みこそかれらの生き甲斐で、物語の主役は彼らなのだ。彼らが行う全ての行為は、話の中でのみ正当化される。

 だがそれだけの事。盗賊行為自体が消えて無くなる事は無く、盗まれた側の無念は、決して晴れる事は無いだろう。

 もし盗まれていなければ、もし盗まれずに持ち主が扱っていたのなら……ここ数年こんな話やニュースを見るたび、踏御は自責の念に囚われている。たとえそれが互いに知らず、望んだもので無かったのだとしても、過去に奪ったその事実は、物語から目を背け、盗賊たちから逃げ出すには十分だった。


 踏御は本から視線を外し携帯で時間を確認すると、思った以上に時間が過ぎており。体に溜まった二酸化炭素を吐き出すと、下を向いていた首が過ぎた時間の分だけ軋みを上げる。外のほとぼりも冷めた頃だろうと、踏御は招かれた客人宜しく布津巳に伺い立てようと視線を向けると、彼女は未だ物語の中なのか、長い黒髪から覗く瞳が、必死で文字を追っていた。


「…………」


 今時珍しい部類に入るのではないかと思われる模範女学生である布津巳だが、一度意識して彼女を視察すると、その容貌は異性を惹き付けるには過剰なほどで、体つきは厚手の制服をもってしても隠し切れない程に女性的な凹凸を浮き彫りにさせていた。女性として熟れた彼女が校内で話題にならなかったのは、偏に彼女の身なりによるものと、天性の影の薄さからなのだろう。

 踏御が当初の目的も忘れ、淫魔に魅了されたかの様な高揚感に思考が麻痺しだしたその矢先。二人だけの密室は、扉の開く音によって終わりを告げた。


「すみません。遅くなりました」


 低く小さな声が踏御に掛かった魅了を解き、布津巳を現実の世界へ引き戻す。本日三度目になる体の引きつりに、踏御は不満げな表情で背後に視線をやると、彼よりも小柄な男子生徒が、不思議な顔をして踏御の事を見つめていた。


「二人とも面識は無さそうね。彼がさっき言ってたもう一人の部員、深井ふかい 景彦かげひこ君。こっちは深井君と同じ学年の踏御 史君」


「例の新入部員ですか?」


「あぁ違うの。外で読書し辛そうにしてたから、気になって連れてきちゃっただけなの」


「……はぁ、そうですか」


 気の無い返事を布津巳へ返し、互いに軽く会釈を済ませると、深井は二人を事を気にもせず、鞄から勉強道具を取り出して、そそくさと勉強を始めてしまう。紹介を受けた直後にも関わらず取り付く島も無いその様子に、踏御は戸惑いを隠せぬまま視線で布津巳に助けを乞うと、何時もの事だと言わんばかりに肩を竦めて苦笑いにて返されてしまう。社交辞令とはいえ挨拶を交わした手前、逃げる様に帰る訳にも行かず。先程まで感じなかった居心地の悪さに、苦虫を潰しながら在席する事となった。





「なんだかごめんね。最後まで付き合わせちゃって」


 すっかり人工光の化粧に彩られた繁華街をガラス越しに眺め、布津巳は踏御に謝辞を述べる。結局部活終了時刻まで本を読みふける事になった踏御は、せめてものお詫びにと、布津巳から軽食をご馳走になっていた。


「あんまり気にしないで下さい。あのまま本棚の前で時間を潰すより、よっぽど有意義でしたから」


 事実踏御にとって深井が来るまでの時間はとても有意義で、交わす言葉は少なくとも布津巳を眺めての静かな読書は、自分だけの秘密の場所を見つけた嬉しさがあった。深井からは何故か目を付けられてしまう結果となったが、それを差し引いたとしても、この偶然に彼は感謝の念すら抱いていた。


「あのね踏御君。もし良ければで構わないのだけど、深井君が口にしてた件。考えてくれると嬉しいかなって」


 軽食も終え帰路が別れる住宅街で、布津巳が切り出した話題は、文芸活への勧誘だった。踏御自身、本を読むのは嫌いでは無いし、あんな時間が過ごせるのならばとは思っているだろう。


「そう、ですね。考えておきます」


 だが今の彼には踏ん切りのつかない理由があった。それは自身の悪癖であり、他者の思考を掠め取ってしまうという性質。本を読んで時間を潰すだけならば、推理小説のトリックを思考して、盛大なネタバレを食らう重症で済むのだが。活動をする事――つまりは自分から何かしら動くという行為は、今の踏御にとって最も避けたい行為だった。


「……ありがとう。ただ一学期も始まって部活総会ももうすぐだから、出来ればそれまでには、返事を聞かせて」


 元々積極的な性格では無いのだろう。布津巳は精一杯の食い下がりを見せて、自身の家路へと歩を進める。踏御はそんな彼女の後ろ姿に罪悪感を感じるも、もし自分から何かを成す事で、他人の機会や好機を奪ってしまったらと怖気づく。自身にとって望むこと・好ましい人との出会い等を捨てるべきだと思うほどに、彼の心はここ数年で大きく変質し、衰退の一途を辿っていた。


「俺は、あいつらみたいにはなれないよ……」


 切れかけの街灯に照らされ歩くその周囲には、夜空を照らす星々も、リズムを奏でる財宝も、共に歌う仲間たちさえ、今の彼には何一つとして手にしてはいなかった。




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