Snatch/Packet ―Aの住人―

夢渡

Prologue.

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 ――何時から知っていたのだろうか?

 ――何時から出会っていたのだろうか?

 湖畔に佇む様に、星に抱かれる様に、煌々たる世界の中心に、君は何時も座している。


 ――君は何時も此方を見ない。

 ――僕は何時も声を掛けない。

 まるで声の無い時の停まった世界。それが正常であるのだと、そこに居る者達だけが諦観し享受する。


 あれは何時だったか、君が初めて僕を見た。

 言葉も無く、音も無く。触れる事さえ終ぞありはしなかったけど。その意味と、そのあどけない顔立ちを、今も確かに忘却している。


 別れの時は来た。始まりの時、来たれり。

 これほど美しい世界を後に、僕は一体どう感じたのか。今となっては君の顔よりおぼろげだ。


 さようなら。さようなら。

 遠く過ぎ去る君を置いて、星煌せいこうたる世界を抜け出し、僕は還る。

 君が一体どんな表情で僕を送ってくれたのか、僕には思い出せない。

 君から貰った贈り物も、きっと忘れてしまうだろう。


 だけど――だけど君との確かな絆だから、何時か君と再び出会う導として、大事に大事にしまっておくよ。

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