さん。



「始まったか……」

「なるべく被害が出ませんように、なるべく被害が出ませんように!」

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!」

「清め給え~祓い給え~幸い給えぇ~い」

「交通安全の御守! 厄除祈願の御守! 商売繁盛の御守! 出世成功の御守!」

「ご先祖様、一つ何とぞお願いします」

「神様仏様田中様、どうか損害を0に抑えてください……!」

「……何をやってらっしゃるので?」

「何って……神頼みは日本人の基本だろう」

「人事を尽くしたら天命を待つしかやることがないのだよ」

「とりあえずありがたがっておけば御利益があるかもしれないじゃないか」

「情けない! これが国家の重鎮たちの正体とは……おお、神よ!」

「「君も人のことをとやかく言えないのではないか?」」



   ○   ○   ○



『ゴアッ!』


 ライトニングリュウトラマン――その身に宿す雷の力を全開にし、肉体そのものを無限のエネルギーを持つ(という設定)電撃へと変化させる。あらゆる物理攻撃は無効だ!


『ギャオキング! シャイニングエンジン、フル=ドライヴ!』


 ギャオキングシャイニーモード――その身に宿す光の力を全開にし、機体自体を無限のエネルギーを持つ(という設定)光粒子へと変化させる。あらゆる物理攻撃は無効だ!


『ゴカァ!』

『ギャオキィ~ング、ヌンチャクゥ! ア~タタタタタ!』


 互いに攻撃が効かなくなった。街への被害も無くなった。良かった。





 展望デッキの上層フロアに残り、ナゴミは眼下で繰り広げられる戦況を観察していた。


「…………」


 やはり、何か気になる。


 三人組が一人と二人になって、二人の方に四人加わって一人と六人になった。好き放題に暴れている一人の方はともかく、六人の方――本当はもっと強いのではないか?


 数に差があり過ぎるから押されているが、やろうと思えばもう少しまともにやりあえるはずだ。どうしてああも防戦一方なのにジワジワと移動を続ける?

 上から見たからよく分かる。最初の戦場がスカイツリーの北側だったのに、今はほぼ西の位置にある。みんなを引き寄せようとしている……どこに?


(もし、あたしがアイツらだったら……)


 相手の思惑を探りたい時は、相手の立場で考える。ナゴミが青い服の連中から逃げ回る内に学んだことの一つだった。相手の思惑が分かれば、先んずることもできるのだ。


 自分が子供の国を壊すなら……この塔全部壊すのが一番簡単だろう。相手がそうしないのはどうしてだ? 壊したくない理由があるのか、それほどこの塔が大事なのか。

 それとも、逃げ遅れたのろまな大人……寿が人質と呼んでいた連中が、たくさん残っているから? この塔も人質も傷つけずに自分たちだけ追い出したい、ということか。


 そうなると難しい。大勢で囲んで、食い物を獲りに行く時に一人ずつ潰していくくらいしか思いつかない。だが、これは夢想童子をたくさん集めないと難しい方法だ。


 人質も塔も傷つけないで、夢想童子をたくさん集められなかったけど、子供の国を壊すなら……誘い出して、有利な状況に持ち込んで、潰す――有利な状況ってなんだ?


 改めてあの六人を見る。互いに互いの死角を補い、後ろを見せないようにしている。


 アイツらみたいに強いヤツでも、後ろから攻撃されるのは困るらしい。

 子供の国のみんなを塔の外に誘い出して、前も後ろも全部囲んで潰してしまう……それはかなり難しいんじゃないか? 自分なら、そんなできるかどうか怪しい手は使わない。


 だが、今までのアイツらの動きと、考えた結果はほぼ同じだ。


 あんな大きな夢想童子を出せば、みんながそっちに注目する。その間に反対側から……なるほど、目立つヤツに派手に暴れさせるというのはそういう使い方もあるのか。うまくいかないことの方が多い気がするが、考え方としては納得できる。


(あたしなら、あの辺りだな)


 川下を見る。こちらの考えと相手の思惑が一致しているなら、大体あの辺りに子供の国のみんなを潰すための手を隠しているはず。展望デッキに今いる夢想童子が自分を入れて五人。全員に声をかけようとして……ふっと気になった。


(相手が、“あたしがこう考える”ことまで読んでたら、どうだ?)


 これだけ凝ったことを考える相手だ。さらにもう一つ、何かの工夫をしているかもしれない。考え過ぎか? 全員で行っていいものだろうか。

 少しだけ悩み、ナゴミは空を飛べない仲間を一人だけ残すことにした。


 と。


「お前も出るのか?」


 出発しようとしたところで、寿に声をかけられる。いつもギャーギャーうるさいのに、そういえば今日はずいぶんと静かだった気がする……無意識に口が動いていた。


「お前何か知ってんのか?」

「ああ」

「教えろっつったら答えるか」

「答えねえ」


 逃げず、黙らず、誤魔化さず、答える。寿らしいと思う一方、どうにも歯痒かった。


 しばらく睨み合って――不意に寿が困った様子で息を吐いた。どうして睨まれているのに、あんな優しい顔をするんだろう。いや、自分は本当に睨んでいるのか?

 何かを見る時は、いつもそれを視線で貫くようにしていた。だが今は、寿が自分を見ていてくれないことが、嫌だ。うまくいえないが……それは嫌だ。


(……そうか)


 ふと、悟る。寿は今、自分を見ていない。自分でない誰かに視線を向けている。

 それは多分、今ここにいる誰かだ。それが寿の視線を独り占めしているのだ。


(あたしは、ソイツを――)


 引き裂いてやりたい、と思った。





 二大巨人の戦いは、今ここに決着した。


『ふ、ふん! なかなかしぶとかったけど、結局ギャオキングの敵じゃなかったわね!』


 片角は折れ、あちこちがショートし、煙と火花を撒き散らしながら、しかし天空勇者は健在だった。眼前にはリュウトラマンの変身が解除された、一人の男の子が倒れている。


 ちなみにどちらが強かったというわけではなく、単にリュウトラマンの変身限界時間が来てしまっただけである。大気中では激しく電力を消費してしまうという設定なのだ。

 その設定さえなければ、あのまま戦い続けていれば、どちらが勝ったかは分からない。実力拮抗、実に際どい名勝負であった。街の被害もすごかった。墨田区の住民、超涙目。


「ギャオキング、勝ちましたね」

「強いには強いよな」

「こっちにも来るん?」

「街、もっと壊れちゃうんじゃないかなぁ」

「また怒られるの嫌なんだけど」

「なんで僕たちまで怒られるんだろうね」


 と、こちらは巧みな連携で敵の猛攻を凌ぎ続けているしょうたち。

 来ないで欲しいなぁ……という六人の希望を打ち砕き、今ギャオキングが地を駆ける!


『みんな~、お待たせ~!?』


 だがしかし、三歩目で片足を切断され倒れ込む。見れば、眩い光を放つ手乗りサイズの何かがギャオキングの周囲を飛び回り、猛攻を加えていた。


『いやあああ! どうなっているの、ギャオキングの積層漆和紙装甲がこうも簡単に!? あ、でもこれってひょっとしてパワーアップフラグ……ガクッ』

「和紙……だったんですか?」


 壮絶な死闘のダメージも回復せぬまま四方八方から破壊光線を浴びて、無敵の天空勇者がついに倒れる。しょうがポツリと呟くが、他の五人も同じことを考えていた。


「……!? こっちに来るぞ!」


 ギャオキングを葬った謎の脅威が、今度はしょうたち六人へと襲いかかる。高速で飛来するその姿を目で捉えて、しょうは思わず頓狂な声を上げていた。


「こ、小鳥……?」

「文鳥か? な、なんだなんだぁ!?」


 物理を無視した軌道を描き、光り輝く小鳥の群れが迫りくる。きゅるるる、と威嚇の声を上げつつ開いたそのクチバシに、一際強い光が宿り――


「権現! 金剛力士!」


 咄嗟に仁王を呼ぶ。光が弾け、風が踊り、それでも仏の守護は揺るがない。しかし小鳥たちは驚くべきスピードで飛翔を続け、あっさりとしょうたちの背後を取った。


「に、逃げろ! 壊れかけでも、あのギャオキングの装甲を貫く威力だぞ!?」


 蜘蛛の子を散らすように六人が散開。ほぼ同時に小鳥たちの放った無数の光線がその場を直撃。すさまじい熱量を受け止めた隅田川の川面が水蒸気爆発を起こす。


「な、なんて威力だ……っ! ギャオキングよりもパワーは上なんじゃないか?」

「なんで手乗り文鳥がそんなに強いのよ!?」

「夢想童子だからなんでもアリなんだよ、姉ちゃん!」


 散り散りに逃げた六人を、小鳥たちが執拗に追い回す。さらに今まで六人の連携に手を焼いていた子供の国の夢想童子たちが、ここぞとばかりに襲いかかってきた。

 夢想童子として戦闘経験を積んでいるとはいえ……いやだからこそ、囲まれるのは危険だと理解している。一対多の状況に持ち込まれた時点で逃げ回るしかない。


「ふん。ずいぶんと好き勝手やってくれたではないか、不届き者め」


 逃げ惑う虹色童子隊を睥睨する如く、一人の少女が虚空で座禅を組んでいた。天女風の衣装にその身を包み、無数の光る小鳥たちを従えている。


「姫佳璃ちゃん!」

「大臣、待ってました!」

「下がれ、人の子らよ! あの者らには我がじきじきに神罰をくれてやろう!」


 姫佳璃の指示を受け、小鳥の群れがしょうたちへと一斉に襲いかかる。速さも火力も尋常ではない。しかも完全に自立して動いているのか、姫佳璃は涼しい顔をしている。


「こんなに強い夢想童子が、今まで全然知られてなかったなんて……!」

「夢想童子ではない! 我こそは、この世の全てを統べる唯一無二の絶対最高神である」

「神様? ホンマ? そしたら、羽生さんに勝てる?」

「黙ってろ恋歌! 舌噛むぞ!」


 恋歌を庇いながら逃げ回っていた大吾が、一瞬の隙を突き矢を放つ。雷光を宿して飛翔するそれは、しかしどこからか出現した一軒家ほどもある巨大文鳥の羽根に阻まれ、目標に届かない。はっきり自分を狙った攻撃に、姫佳璃が不快そうに顔をしかめた。


「効くか、愚か者め! 神に矢を向けた報いを受けるが良い!」

「うわ……っ!」


 慌てて恋歌を担いで撤退する大吾に向けて両手を突き出し、眩い光の奔流を撃ち放つ。その威力は文鳥から放たれるものの比ではなく、気化した大地が無残に爆ぜた。


「やめてよ! 街とか壊すと、あとであたしたちも怒られるのよ!?」

「その方らが当たればよかろうが。心静かに神罰を受け入れるが良い!」


 いかにも典型的な、『実戦経験の無い夢想童子』の考え方である。何度か力を振るった夢想童子は、周囲への被害を気にするようになる。誰かのために力を振るえる心の持ち主なら他人を困らせることを良しとはできないし、周囲の目というものもある。

 ……まぁ、中には「正義のためだから仕方無いでしょ!」と言いながら巨大ロボで街を闊歩する変わり者もいるのだが、そういうのは基本的に例外だ。


 輝く文鳥に、上空から降り注ぐ光の柱に、虹色童子隊の面々が一方的に追い立てられていく。それを見下ろしながら、姫佳璃は満足そうに頬を緩めた。


「見よ! これが神の力、神の御業! 道具の力を借りた人の子の如き敵では無い!」


 自分は夢想玩具無しでもこれくらいできると言わんばかりの物言いである。しかしその力と言動は、「本当に神様なのかも」と幼い子供に信じ込ませるには十分なものだった。


 夢想童子の力は、変身する子供のイメージの強さに左右される。変身ヒーローに憧れる少年はその姿を得て、巨大ロボのパイロットを夢見る少女は実際に巨大ロボを呼び出す。

 簡単にいってしまえば、思い込みの強い方が強力な夢想童子になる。「自分は魔法少女だから空も飛べるしビームも出せる」とか、「神様の力を借りて戦うんだから、悪いヤツには絶対に負けるはずない」などと考えればそれがストレートに実力となるわけだ。


 然るに、今、“神様の力を借りる”どころではなく“自分は神様”と豪語する夢想童子がここにいる。彼女自身がそう信じ、それを根拠とする強大な力を振るっている。

 神様である。自分たちにとっての絶対者である親が、教師が、彼らの周囲のありとあらゆる人々が、何かと敬意を払う神様である。子供の知識では、そのちっぽけな価値観からでは、神を超える存在など想像もできない。想像できるわけがない。


 神様には勝てない、勝てるわけがない――そんな思いが脳裏に浮かぶ。彼らの心が折れそうになった時、しかし神の名を出されたが故に勝機を見出した者が一人いた。


「ん……?」


 姫佳璃が眉を寄せる。見れば、眼下に法衣をまとった少女が立ち尽くしていた。


「天國しょうだ」

「うん、テレビで見たことある。有名人!」

「かわいい……」

「どうしたんだろ。降参かな?」

「仲間になってくれるのかも」


 そんな子供の国の夢想童子たちの話し声を耳にして、攻撃を止めてしょうの前に降り立つ。のこのこ前に出てきたということは、きっとこの子は降参する気になったのだ――仲間にさせてほしいと懇願するのなら、神として心の広いところを見せてやらなくもない。


「どうした人の子。我に話か?」

「はい。あなたが神様だというのなら、正直勝負にならないので……」


 敵意の無い静かな口調。こちらが神であることを肯定する言葉。負けを認めるとは感心な子だ。有力な信者として目をかけてやろう――そんな姫佳璃の寛大なお考えは。


「一応、降参をお勧めしようと思いまして」

「は?」


 一瞬で裏切られた。


「こ、降参。降参じゃと? その方ではなく我が……?」

「はい。神様なんかじゃ、私には勝てませんから」


 気負いも屈託も無く、明るい笑顔で爽やかに言い切る。当たり前の事実を告げるような口振りだった。やや遅れて、ようやく言葉の意味を理解して、姫佳璃の顔が歪む。


「ふざっ……けるな! 神である我によくも斯様な物言いを! 我に逆らった罪を素直に悔いて、どうしてもと頼むなら仲間に入れてやろうと思ったのに!」


 他の五人を追撃していた光る文鳥たちが、姫佳璃の怒号に応えるようにしょうを取り囲む。十重二十重、三百六十度、天地上下に逃げ場無し。全ての殺意がしょうに向けられていた。


 一触即発、絶体絶命。しかししょうは、どこかきょとんとした顔で周囲を見回していた。


「えぇと……ごめんなさい。怒らせてしまいましたか?」

「黙れ痴れ者! 我が神罰を総身に浴びて、罪の深さを悔いるが良い!」

「では……権現! 観世音菩薩!」


 放たれる数十にも及ぶ光条。しょうの体が白き灼熱に飲み込まれ、しかしそれをもさらに上回る強い光が彼女を包む。地上にもう一つの太陽が現れたような輝きだった!


「なっ、なんじゃ……っ!?」


 姫佳璃が咄嗟に顔を庇って飛び退く。逃げながら戦い続けていた大吾たち五人も、彼らを追っていた子供の国側の夢想童子たちも、何事かと光の源を――しょうを見ていた。


 そこに、先ほどまでとはまるで違う装束をまとったしょうがいた。

 腰から肩を覆う条帛。後光の如くふわりと泳ぐ天衣。下半身には裙をまとい、耳飾りや腕輪、宝冠など、豪奢な装飾品を身につけている。綺麗な黒髪は、今は白く輝いていた。

 三鈷杵の剣を構え、しょうが己の名を高らかに口にする。


「オン・アロリキャ・ソワカ……しょう観音!」


 観音菩薩像の中で、一面二臂のものを特にこう呼ぶ。六道輪廻の一つ、地獄道において衆生を救う役目を持つ、大変に慈悲深い菩薩である。

 己の名を縁として、しょうは菩薩の力をその身に宿した(という設定)のだった。


「……姿が変わった程度で!」


 姫佳璃が攻撃の指示を出す。無数の光条がしょうに殺到し、直撃する寸前で掻き消える。


「なっ……」

「では、いきますね」


 しょうが悠然と前に出る。姫佳璃が光る文鳥の群れを放って猛攻を加えるも、先ほどと同じ結果に終わる。大地を沸き立たせる破壊光線が、しょうにはまるで通じなくなっている。


「ど、どういうことじゃ? どうして、我の力が……わっ!?」


 ふらふらと後退していた姫佳璃がコテンと尻もちをつく。主の危機を察したか、全ての文鳥たちがしょうへと殺到、直接攻撃を試みる。それに対し、しょうはただ水平に腕を振るった。

 それだけで、虹色童子隊を一時は圧倒した光る文鳥たちが一羽も残らず消滅した。


「あ、あぁっ! 我の……鳥さん、が……」


 愕然と姫佳璃が呟く。彼女の前に立ったしょうが、その胸元に三鈷杵の刃を突きつけた。


「なんで……鳥さん……神の力が……」

「神様よりも仏様の方が偉くて強くてすごいからです」


 公式設定である。

 その仏様の力を宿した以上、“神様なんかの力が自分に通用するはずがない”。寺の子として生まれたしょうは、一切の矛盾無く極めて自然にそう認識していた。


 自分の力は神様そのものだと心から信じた姫佳璃にとって、神様以上の存在を当たり前のものとして受け入れて育ったしょうは天敵以外の何者でも無かったのだった。


 三鈷杵から衝撃が放たれ、姫佳璃が意識を失って倒れ込む。それを優しく受け止めて、しょうは彼女をそっと地面に横たえた。


しょうお姉ちゃん!」

「やったわ! さすがね、しょう!」


 虹色童子隊の仲間たちが、嬉しそうに駆け寄る一方で。


「大臣がやられちゃった……」

「そ、そんなぁ……嘘でしょ……」


 子供の国側の夢想童子たちは、衝撃と絶望に色を失っている。ここに勝負はついた。


 ――“この戦い”には、決着がついた。


「へぇ、姫佳璃を倒したのか。思ってたより強いんだな」


 天空から降り注ぐ声。はっとしてしょうたちが見上げたその先に、濃厚な藍の絵具で全身を塗りたくったような怪人――神崎“一十三ひとみ”と三名の夢想童子たちの姿があった。


「神崎一十三ひとみ……!」

「“ナゴミ”だ。間違えんじゃねえ、重要なとこだぞ」


 ナゴミを名乗る一十三ひとみが地に降り立つ。しょうは意志と怒りを込めた瞳で、一十三ひとみは余裕、次に不審、苛立ち、そして最後に憎悪と嫉妬の眼差しで、互いに睨み合っていた。


 しょうは知っていた。この少女が、自分から寿を奪った張本人だと。

 一十三ひとみは気付いた。この女が、寿の視線を独り占めしていたのだと。


「白沢兄ちゃん、どうするの? まだ2班と合流してないけど」 (小声)

「というか、コイツやっつけちゃえば終わるんじゃないの?」 (小声)

「いやちょっと待て、一番重要なのは3班の人質救出作戦だから……」 (小声)

「仲間と一緒にこっちを囲んで潰そう、ってな話か?」

「「ギクッ」」


 一十三ひとみに指摘されて思いっ切りキョドる。しょせんはお子ちゃま、心理戦やブラフにはものすごく弱いのだった。


「向こうにいた五人のことなら気にしなくていいぞ。もう残らず潰してきたからな」


 親指で背後を示す。そこに、ギャオキングに匹敵する委員会側夢想童子たちの攻防の要である、かつて東京副都心を蹂躙した大怪獣カシューザウルスが倒れていた。意識が途切れたのか、人間の姿へ戻っていく。


「ああっ、加州かしゅうさん家の座羽留守ざうるすくんが!?」

「ちょっと、なんてことしてくれちゃってんのよ! 座羽留守ざうるすくんまだ三歳なのよ!?」

「い、いつの間に……! というか、なんで隠れてるのが分かったんだ!?」

「あんなモンちょっと頭使えば分かるだろ、外れてるかもたぁ思ったけどよ」

「う、うわぁ。どないしよう大ちゃん、この人すっごく頭ええよ?」

「どうしようって、言われても……えぇと、2班がやられちゃって、人質の救出が……」

「ここでこの人を倒して、それから人質全員助ければそれで終わります」


 観音モードのしょうが前に出る。仄暗い感情を笑みで覆って、一十三ひとみもゆらりと進み出た。


「姫佳璃を潰したヤツだ。みんな手を出すなよ、逆に潰されても知らねえぞ」

「あなたを倒して、ひーちゃんを……人質を帰してもらいます!」


 神を超えた少女は気を吐いた。


「子供の国に参加するなら……と思ってたんだが、気が変わった」


 神を殺した少女は笑った。


「お前は念入りに潰してやる」



 そして、二人は、激突した。

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