僕のライフリミット
ならさき
人の生きる時間は約5分
ねえ〇〇さん。人は首を吊ってから意識がなくなるまで約288秒かかるんだ。
彼の首には痛々しいあざが残る。なんとなくだが、私は彼をこうさせた何かを許せなかった。
「右手じゃ物はつかめないんだ……ヘへへ。お医者さんが言うにはこーいしょーってものらしいんだけど。僕が食べ物食べられないから、白い服着た女の人が、あーんってしてくれたよ。お母さん思い出したなあ。」
私の右手は、彼の無くなった握力の代わりのように、ギリギリと音を立てて握り締められた。隣にいた私の助手は涙を浮かべた。
「……じゃあ、全部話してくれるかな?本当のことを、全部。」
僕は、「ライフリミット」って呼んでたなあ。
学校に僕の居場所がない。そう思い始めたのは4年生の頃だったかな。
「〇〇に近づくんじゃねーぞ!菌が移るからな!」
単純なからかい、それは次第にエスカレート。花瓶が机に置かれてたのはその5か月後くらいかな。とにかく学校が嫌になった。
僕の周りには味方はいなかった。いや、正しくは「いた」んだろうな。僕が見逃してたんだ。
お母さんには何も言えなかった。お父さんがいなくなって頑張って育ててくれたのに、このままじゃお母さんが「情けない」って悲しんじゃうから。
靴がなくなるのは当たり前。教科書には落書きとカッターの傷跡。ノートには上履きの裏のホコリ。その日から、記憶から逃げるように宿題なんてしなくなった。見るのすら嫌だった。
そのおかげかな。先生には何もばれなかった。そりゃそうだよね。証拠は教科書にあるのに、それを自分で隠したんだから。
ある雨の日、僕の傘は穴だらけになってたからビショビショで帰ったんだ。すると段ボールの中に一匹の猫がいたんだ。
「君も一人なんだね。」
僕は近づいた。手を差し出した。友達になれると思ってた!
手を噛まれた時、僕は気づいてしまった
僕に仲間なんかいないと
傷つくのが気持ちいいと
その夜、僕は自分の部屋に閉じこもって首に縄をかけてみた。吊ってないよ。ただかけてみるだけ。けれどなぜかゾクゾクしたんだ。死ぬ感覚って言うのかな。身体中にビリビリって走った。
けど、僕はつまらないのは嫌なんだ。どうせなら長くこの感じを味わいたかった。
だから僕は考えた。
1日ごとに10秒長く首を吊ってみようと
その次の日から僕は笑顔で家に帰るようになったんだ。最初は10秒。たった10秒だよ。でも苦しむには十分だった。
僕はこの遊びに「ライフリミット」って名付けた。
次の日からはとても早く1日が感じられたよ。家に帰れば「ライフリミット」が待ってる。そう思うと体の中から嬉しさが溢れた。
7日目くらいかな。首に誰でもわかるようなあざができた。「このままじゃバレる!!」って思ったから学校は行かなくなった。仮病を使って。
ある日ね、あまりにも学校休んじゃったから、お母さんが僕の部屋に無理矢理入って来たんだ。
もちろん全部バレた。いじめも、首つりも。
お母さんはその日、自分で首切って死んじゃった。結局お母さんを殺したのは僕。あれだけ悲しませないように頑張ったのにね。バカみたいだね。
次の日さ、学校から連絡がかかって来たんだよね。いじめがようやく先生にも明かされてさ。遅いよ。まったく。
いじめた子、死んじゃったって。その子のお母さんとしんじゅう?って何?だってさ。とにかく僕はもう二人殺したんだよ。
僕は僕が死にたかっただけなのに、勝手に四人に増えた。なんでいまさらになって僕に仲間が増えるんだよ。おかしいじゃんか。
「〇〇さん。怖いよ。あっちの世界でも、「ライフリミット」やんなきゃいけないのかなあ。」
彼はその日の晩に白い病室で291秒首を吊って死んだ。
その時の部屋は、まだ残っているそうだ。
僕のライフリミット ならさき @Furameru
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