第9話

 体の痛みと周りの熱が落ち着いた頃、体を起こす。奥の本棚は耐熱加工がしてあったようで、なんとか無事そうだった。周囲を見回す。後ろで倒れている黒焦げの人物がいることに気づく。疑いようが無いだろう。ハルナだった。

「ハルナ! ハルナ! あぁ、そんな……」

 ハルナ、私を庇って、そんな。

「なんとか、生きてるよ。爆発に巻き込まれるわ、抵抗できずにもろに直撃したわ、散々だけどな」

 黒焦げの顔はすでに再生されているようで、先ほどまでの顔に戻っていた。メイド服の方はボロボロで、見るも無惨な姿であった。左腕は直撃の影響か、肉が完全に焼け切り、骨だけになっている。安全地帯からポコが降りてくる。

「ハルナ本人ではなく、メイド服が全焼しましたね」

「アホなこと言ってないでいつもの服を用意してくれ。流石にこの姿は風通しがよすぎる」

 ハルナが立ち上がった衝撃でばさっとメイド服だった布切れは力尽き、すべて落ちてしまった。

 どうやら左腕の肩から先が骨だけのようだ。しかし骨だけにもかかわらず器用に動かしている。

「なんだラナン、あたしの裸体に惚れ惚れしてるのか?」

 なんてことを聞くんだこの人は。私よりは胸が小さいかもしれないが、たしかにそのスタイルでその胸の大きさはかなり……。そうじゃない。

「いえ、その、腕が」

「あぁ、こっちか。昔いろいろあって、利き腕は骨だけなんだ。まぁ、うん」

 バツの悪そうな顔で下着に腕を通すハルナ。これ以上深追いはしない方がいいだろう。

 ハルナがピンクのワイシャツやらグレーのスカートやらブレザーやらを身につけるのをぼんやり眺めている。私の服や鎧はハルナが庇ってくれたおかげでほぼ無傷である。着替えを終えたハルナはスタスタと本棚まで近づき、目的の物を回収している。ポコは実験の道具を回収してきたらしく、大きなカゴに大小様々な素材を入れて戻ってきた。

「ラナン、これであたし達の目的のブツはすべて回収した。表まで一緒に行こうか。大丈夫、非常口から外に出るだけだ」

「えぇ、行きましょう。私も門の外までは一緒ですから」

 ハルナに続いて歩く。そういえば。

「ハルナ、貴女はここを出たらどうするのですか? 冒険の話をいろいろしてくださいましたが、今思えば冒険者だったとも思えませんし」

「残念ながら冒険者を経験したことはないな。この後は一度自分の世界に帰るよ。こちらも持ち込む必要のある道具もあるしな。そのあとはこちらの調査のために拠点を探す」

「自分の世界?」

「元々この世界の人間ではないからな、あたし達は。所謂異世界人というやつだ。調査の前準備としてこう忍び込んできただけでな。準備もいろいろあるわけだ」

「よくわかりませんが、そのうちこちらに戻ってくることはわかりました」

 非常口の扉を抜ける。日が傾き始め、日没が近そうだった。正門まで歩く。

「私はこのまま村へ行き、冒険者の店に行きます。そこで冒険者として、自由な生活を、自分の未来を決めて行こうと思います」

 本当は、その時隣に貴女がいて欲しかった。しかし、それは叶わぬ願いだろう。自分の未来は自分で切り開くしかない。

「あぁ、お前の未来はお前自身で切り開くんだ。あたしが隣にいてもいいかもしれないが、しばらくは一人でやった方がお前のためだろう」

 たしかにそんな気もする。それならば。

「私は強くなって、気高き戦士となって、貴女の元に戻ってきます。その、約束のためにこれを……」

 ポケットに入れてあった予備の水色のシュシュを、約束を乗せてハルナの手に握らせる。

「必ず! 貴女の元に、心身共に強くなって戻ってきます、だから……!」

 ハルナがこちらを見ている。一言一言、力強く話す。

「それまで、私を、私を……。待っていてください……」

 しばらく黙っていたが、ハルナはあぁ、と話し出す。

「お前の決意、確かに伝わった。この約束のシュシュもたしかに受け取った。お前が強くなった頃、またお前の前に現れよう。それまで鍛錬を怠らないようにな」

正門についた。私は村の方へ。ハルナは村の反対側の山の方へ。

「じゃぁな」

「また会いましょう」

「では、また」

三者三様それぞれ挨拶を交わし、目的地へ向けて歩き出した。

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気高き戦士に揺るがぬ決意を けねでぃ @kenedyism

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