第8話

 指から炎を飛ばしてくる。魔法の類だろうか。なんとか避ける。

「くそ、このメイド服は燃えるんだ、めんどくさい」

 ポコがハルナから飛び立ち、上空で様子を見るべく旋回を始める。私の鎧は耐魔法加工をしてあるからある程度は燃えないはずである。流石に魔法を軽減するほどの素材は使われていないと思うが。

「ポコ、あまり近づきすぎるなよ、お前まで焼き鳥になるわけにはいかないからな」

「貴女こそ、火葬はご勘弁ですよ」

 軽口を叩き合いながら二人が会話をしている。

 お義母様がこちらに走り寄ってくる。炎を纏った足で回し蹴りを繰り出す。盾で受け流しつつ、斧で反撃をする。鉄製の盾で良かったと改めて思う。

「燃えなさい!」

足元から火柱が立つ。抵抗を試みるも、虚しく、火達磨になる。

「ラナン!」

 ハルナが魔法を唱え、火柱に氷をぶつけ、相殺する。

「助かりました」

「余裕綽々って感じだな。底なしの体力かお前は」

「その余裕、いつまでもつかしら?」

 今度はハルナの方に火炎放射が飛ぶ。彼女は自分の影から何やら楽器を取り出すと、その楽器の音に合わせてシールドを張った。彼女は氷魔法だけでなく、異国の魔法も使いこなせると言うことなのだろうか。

 何はともあれ、ハルナに気を向けている今がチャンスである。お義母様に走り寄る。走りつつ、装備を大剣に替える。そのまま大きく跳躍し、脳天めがけて大剣を振り下ろす。

「甘いわ、ラナン」

 お義母様に近づいた時、彼女の近くから火柱が立つ。どうやら接近したことに反応して火柱が立つ仕組みだったようだ。しかし甘いのはお義母様の方ではないだろうか。カウンター魔法に抵抗する気は無い。歯を食いしばり、炎に焼かれつつもそのまま脳天に気合いで大剣を振り下ろした。脳天に大剣の刃筋とその重さが直撃したお義母様は大きく吹き飛ばされる。

「ラナン! あまり無茶をしては危険です」

 上空からポコがこちらに飛んでくる。そのまま何かを唱えると周囲に黒い旋風が巻き起こり、炎を消してくれる。

「たしかに、少し無茶をしたかもしれませんね。でも、これで大ダメージが入りました。行きましょう。このまま短期決戦にもつれこませたいと思います」

「私たち二人は短期決戦を仕掛けられるほどの技があまり無いのですよ」

「ポコ、お前が想定していない技で一つ、火力が出せる技がある。ラナン、前に出てくれ。ポコはラナンの支援に。鎮火作業や攻撃を引き寄せたりしてくれ」

「ハルナ、貴女は?」

 後衛、ということだろうか。

「後ろから狙撃銃で狙撃する」

「貴女、そんなものが使えたのですか?」

 相棒のポコすら知らなかったのか。私もここ二週間彼女と共に行動をする機会が何度かあったが、そのような気配はなかった。今日もずっと私と共に前線に立ち続けてくれた。

「あぁ、お前と出会う前に練習しててな。拳銃と狙撃銃なら使えるよ。普段は前を任せられる人間があまりいないから自分が前に出るが、今回はこれが一番だろう」

 もっとも、そのうち狙撃銃ではなく、魔法が主力になるかもしれんがな、と付け加えるハルナ。

「作戦が決まりましたね。私が前に出ます。支援をお願いします!」

 お義母様に近づく。わかりました、了解、と二人がそれぞれ返事を投げかける。後ろでどっしり構えるハルナと、私よりさらに前に出て上空から様子を見るべくポコ。頼りになる二人である。私はお義母様を後ろに通さないこと、少しでも早く終わらせるために貪欲にダメージを狙っていく必要がある。

「あら、私相手に一人で前衛だなんて、なかなか度胸があるじゃない?」

「私一人で貴女を止めてみせます!」

 先手を取ったのはお義母様であった。炎を纏った拳で殴りかかってくる。盾を使い受け流す。続けて左腕による裏拳が迫る。その場にしゃがみ、姿勢低くすることで避ける。

 避けた直後、轟音が後ろからして、お義母様が呻き声をあげる。ハルナが狙撃銃で撃ち抜いたようだ。

「その銃、この世界の銃とは思えないわ。オーパーツにも鉛玉を高速で飛ばす技術はなかったし。面白いわ」

 斧で怯んだお義母様に追い打ちをかける。お義母様が言っていることはよくわからないが、とにかくハルナの一撃は彼女に有効ということだけわかれば今は十分だった。

「まずはそこのメイドからよ。貴女がいるとラナンを倒しても先にこちらが死んでしまうわ」

 ハルナに火炎放射が襲いかかる。しかしその途中には黒い風が起こっており、ハルナに炎が襲いかかることはなかった。

 ハルナを指差す右腕に思いっきり斧を振り下ろす。深く刺さったらしく、そのまま右腕を切り落とした。さらに轟音がして、彼女の左足が吹き飛ぶ。ここがチャンスとポコが両目を足で抉り取る。

「これで終わりです!」

 脳天に斧を振り下ろす。しかし、目も足も腕も不自由な彼女は最後の力を振り絞り、左腕で斧を受け止め、そのまま刃を掴む。

「絶対に逃がさないわ! この身が果てようとも、貴女たちはここで殺す!」

 そのままお義母様の体が大きな炎に包まれる。

「ラナン! こっちに走れ!」

 後ろからハルナに声をかけられる。斧を奪い取り、ハルナの方へ我武者羅に走り出す。後ろから爆発音がしたかと思うと、体が何かに包まれる。その後、大きな炎と共に衝撃に襲われた。

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