第5話
裏口から屋敷に戻る。そのまま廊下を進む。たしか、図書室にある秘密の通路を使い、地下に忍び込むという話だったはずだ。
図書室に入る。元から静かな図書室ではあるが、無人の今の図書室はさらに静けさが際立つものであった。
「こちらです、ラナン様」
アスカの誘導に従い、図書室の奥へ進む。彼女は一つの本棚の前で止まった。
「ここです。この段の本をすべて取り出すと」
話しつつ、テキパキと本を取り出すアスカ。そして本棚の裏側の壁を開けると、そのまま隠されたスイッチを押す。するとガラガラと本棚が動き出し、通路が現れた。
「このように通路が出て来ます。このまま階段を通り、地下に行きましょう」
「まるで迷宮ですね。こんな仕掛けがこの図書室にあっただなんて」
「この段の本をすべて取り出さないとスイッチがみつからないように魔法がかかっています。念入りに探索するか、知っている人間ではないとなかなか気づくものではないですね」
「こういう仕掛けが迷宮や遺跡にはたくさんあるのですか?」
「たくさん、ではありませんが、それなりにありました。私が見て来た遺跡にはここのように旧時代の図書室のようなものから、御伽話に出てくるような遺跡もありました。旧式の罠から数百年前のオーパーツが残っているような遺跡もありました」
通路に進みながらアスカが話す。続きつつ彼女に質問を投げかける。
「オーパーツ?」
「はい。ゼンマイ仕掛けの大きな機械や、電気を流すと動き出すバイク等、とても興味深いものがありました」
「この世界で主流のバイクの原動力はマナ、でしたっけ」
「そうですね。そういえば、ラナン様の両親はバイクのマナ不良による爆発に巻き込まれたようですね」
「私もよくわかりませんが、そのようです」
「心中お察しいたします。若くして両親に他界されて」
何度も思ったことがある。両親はどうして私を残して死んでしまったのだろう、と。不慮の事故とはいえ、どうして私の両親が犠牲にならなければならなかったのだろう、と。
「しかもですよ。私の両親がバイクに乗っていたわけではなかったのです。たまたま整備不良のバイクのすぐ近くを歩いていた、それだけで、両親は爆発に巻き込まれて、粉々になっていしまいました。両親以外に身内もおらず、わけもわからないまま孤児院に引き取られました」
アスカは黙って聞いてくれている。私も話を続ける。
「孤児院に引き取られたと思ったらしばらくして、この屋敷に引き取られて、わけもわからないままこのような生活を強いられていました。私はただ、両親と笑いながら、優しい家庭で自由に過ごしたかっただけだったのに」
一通り、話したいことを話してしまった。しばらくしてアスカが口を開く。
「この屋敷に勤めて約二週間ですが、ラナン様の扱いの、地位の低さにはほとほと呆れます。屋敷の誰もが、貴女のことを政略結婚の道具としてしか見ていません。他のメイドもそれが当たり前という顔をしています。仮に道具だとしても、どうしてここまで雑な扱いができるというのか。本物の娘がいるからといって、幾ら何でも雑すぎやしないか、何度も思いました。ラナン様には嫁ぐよりも、この屋敷を出て、外の世界で自由に生きて欲しいと、私個人は思います」
「アスカ……」
「無理なのは百も承知、ですけれど、ね。とりあえず今はこの屋敷を脱出しましょう。ラナン様の脱出経路を用意してくれないようなこの屋敷に固執する理由も、私たちにはないような気もいたしますが」
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