第4話

 私の部屋の前まで無事に戻って来られた。まだ増援のゴーレムはこちらまで来ていないらしい。私の部屋の北側に位置する部屋は前から空室になっていて、あっさり扉が開いた。部屋に入る。中も特に変わった様子もなく、ただの空部屋であった。さっさとアスカと共に窓際まで行く。アスカは窓を開け、縄をしっかり柱に縛り付け、外に放り投げる。

「ラナン様、私が先に下に降ります。後から来てください」

「わかりました。お願いします」

 アスカは軽い身のこなしで縄を使い、裏庭まで降りる。流石、敏捷さばかり鍛えていたと言うだけあって綺麗な身のこなしだった。私も人並み以上には動ける人間である。ここで格好悪い姿を見せるわけにはいかない。縄を掴み、するすると裏庭まで降りる。無事に着地し、アスカと目を合わせる。

「ざっとこんなものです」

「お見事です、ラナン様。これで一階に降りることができました。あとは館に入り、地下を目指すだけです。図書室から地下に降りる秘密の通路があったはずです。まずは館に戻り、図書室を目指しましょう」

「わかりました」

 と、二人で歩き出した時だった。一階の大広間の窓から、巨大なゴーレムが飛び出してくる。

「侵入者発見。侵入者発見。直ちに排除を試みます」

 小さなゴーレムが館に戻る扉の前に立ち、道を塞いでしまった。

「やるしかないようですね。行きましょう、ラナン様」

 メイスを構え、前に立つアスカ。私も負けてられない。斧と盾を構える。

 先陣を切ったのはやはりアスカであった。真っ先にゴーレムの懐まで潜り込み、メイスで殴りかかる。最初は取り回し優先で斧でいいだろう。アスカに続き、ゴーレムの左腕に切り込む。あまり深くは刺さらないが、致し方ない。

 ゴーレムの右腕と左腕がそれぞれ襲いかかる。右腕はそのまま避け、左腕は盾で受け流した。ゴーレムの口が何かを唱える。すると足元に電気が発生する。

「ラナン様!」

 アスカがこちらに駆け寄る。

「大丈夫。まだまだ立てます」

 魔法に抵抗を試みたが、どうにも軽減するまでには至らなかったようだ。直撃したが、生憎、これでも頑強さがウリの女だ。この程度で倒れるわけにはいかない。

 先の攻撃で気づいたが、腕の攻撃だけならば特に盾の力を借りなくても避けることができそうだ。ならば、少しでも早くこのデカブツを倒し、魔法を撃たれる回数を減らすのが吉だろう。盾と斧をウエポンホルダーにしまい、先ほどアスカからもらった大剣を構える。重いものではあるが、私の筋力にかかればこの程度、軽々振り回せるだろう。

 アスカが動く。ゴーレムの左腕を避け、そのまま、左腕に着地。頭の部分まで駆け上がって行った。後に続く。振り落とそうと振り回す左腕を避け、右腕に大剣を振り下ろす。その重い一撃は右腕に大打撃を与えることに成功した。まだゴーレムはアスカを振り下ろすことに夢中らしい。当のアスカは左腕の上で器用にバランスをとり、頭の近くまで登りつめていた。頭にゼロ距離で魔法を打ち込む。ゴーレムが揺らいだ。さらに大剣で一撃を入れるチャンスだろう。振り下ろした大剣をそのまま振り上げ、叩き下ろす。振り上げた大剣はゴーレムの右腕を抉り、そのまま粉砕した。頭に魔法を打ち込んだアスカがそのまま私の横に着地する。

「あとは左腕と頭を粉砕すれば機能が停止するはずです。この調子で解体して行きましょう」

「わかりました」

 大剣を構え直す。重いだけあって力任せに振り下ろすだけでもそれなりに打撃を与えることができる。あと少しで解体作業も終わることだろう。

 その時だった。頭が魔法を唱えると、崩れた右腕が小さなゴーレムの形になった。

「ふむ、新手のゴーレムですか。どうやらこのゴーレム、相当やり手ですね。油断せずに行きましょう、ラナン様」

「わ、わかりましたわ」

 当たり前の様に言われても、私には魔法の知識は毛頭存在しない。何が来る等はさっぱりわからない。来る攻撃は気合いで耐えるのみだ。ただし、わかることが一つだけある。敵の数が増えた以上、今までより周囲を警戒する必要がある。視界外から殴られてはたまったもんじゃない。

「ラナン様! 私は先に大きい方の頭の破壊をします。ラナン様はそちらの今できた小さい方のゴーレムをお願いします」

 そう言われては私は小さい方の相手をするしかない。彼女の方が戦場での経験値は圧倒的に上なのだ。彼女の指示に従うのが一番正しいだろう。一度距離を離したらしいアスカが私の背後に近づく。

「私の背中、任せましたよ、ラナン様」

「こちらこそ、任せますよ、アスカ」

 お互い別々の相手と対面する。彼女が背中についていれば安心だろう。そう考えるとすっと気持ちが落ち着く。目の前の相手に集中できる。大剣を構える。さきほど製作されたゴーレム。即席で作ったゴーレムが通常のゴーレムと比較してどれほど違いがあるのか、様子を見るべくどっしりと構えて待つ。さてどう攻めてくるか。

 石の体を活かしてこちらに突撃を仕掛けてきた。こちらはというといつ攻撃が来てもいい様に全力で警戒をしていたので、特に問題もなく避ける。右腕による大振りの攻撃だったので隙も大きかった。大剣による振り下ろしをぶちかます。追撃を仕掛けようかと思ったが、相手が口を動かしていたので下がる。なにがくるかわからないが、魔法を仕掛けられては守りに専念しなければならない。マナの塊がこちらに飛んでくる。なんとか大剣を使い、軽減することには成功したが、それでも魔法は体を蝕む。一瞬の怯みが次の相手の一撃を誘う。左腕による高速な裏拳が襲いかかる。大剣で受け止めることもできずに脇腹に刺さり、吹き飛ばされる。

「ラナン様!」

 アスカの叫び声が届く。

「わ、私はまだ立てます。貴女はまずは目の前のゴーレムの相手を」

 気合いで立ち上がる。少々強烈な衝撃が走ったが、終わってみればちょっとした衝撃だ。この鎧の頑丈さと自分の体の頑丈さに改めて感謝し、大剣を構え直す。

 ふと考えれば、一撃は入れられたのだ。大剣をしまい、盾と斧をとりだす。タイマンを張るならばこちらが有利だろう。やはり軽くてこの斧は取り回しやすい。

 今度はこちらから仕掛ける。魔法攻撃があるとわかった以上、相手のマナが切れるのを待つまで粘るのもいいかと思ったが、いくら頑強な私でもそれまで体が持つ保証もない。仕掛けられる時に貪欲に攻めるべきだ。さきほど大剣で殴りつけた右腕を狙いすまし攻撃をする。相手も何度も喰らうわけにはいかないことがわかっているのか、全力で攻撃を避ける。しかし一発目を大きく避けたゴーレムには一瞬の隙ができた。このチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。振り下ろした斧を振り上げつつ、一歩踏み込む。斧は正確に右腕の先ほど負傷した箇所を貫く。そのまま右腕を破壊する。悪あがきなのか左腕の裏拳をもう一度仕掛けて来たが、盾で受け流す。盾さえあれば被害は大きく軽減できる。攻撃して来た相手の勢いを乗せ、そのまま蹴りでクロスカウンターを決める。相手の後頭部にブーツの踵が襲いかかる。吹き飛んだところを斧と盾をしまい、大剣を振り下ろす。ゴーレムは真っ二つになり、そのまま動かなくなった。

「な、なんとかなりましたわ……」

 後ろを振り返ると、アスカが一人でゴーレムの解体を完了させていた。ただのガラクタの塊になっている。私が見ていない間に何があったのだろうか。

「ラナン様、無事に完了しました。さぁ行きましょう」

 裏口の扉を塞いでいたゴーレムも気づいたら石ころに戻っていた。さきの巨大なゴーレムが呼び出したのだろう。

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