第9話

 演奏を終えたハルナを見た尾羽がこちらに戻ってくる。

「ありがとう、ドクトル。助かったよ」

「当然のことをしたまでです。とは言っても、私はなにもできませんでしたけどね」

「これから、なんだろう? 死神がお前を選んだように、お前も死神を選んだ。ならばきっとこれから長い長い旅になるんじゃないか? そこの死神より、今の段階ではお前との付き合いは長いんだ。自信を持て、ドクトル」

「ありがとうございます、尾羽」

 私は、これからこのマイペースな死神と、うまくやっていきます。ところでハルナは……。

 後ろを見ると、力尽きたハシブトガラスのうちの一匹を見ていた。トコトコ歩いて近寄る。

「ハルナ、なにをしているのですか」

「あぁ、このカラスを調べておこうと思ってな。何かヒントがあるかもしれないと思って。あぁ、いいよ。あたしがやっておくから」

「さきほどの戦闘もそうでしたが、貴女、なんでも一人でやろうとしすぎでは?」

「うーん。そうか?」

「そうです。誰かと共に戦うのに慣れてないのかもしれませんが、そんなの関係ありません。これから治していきましょう。せっかく私がいるのです。これからは私にも頼ってください」

 せっかく貴女と共に歩むと決めたのだから。貴女と、もう少し近くなってもいいと、私は思う。

 私の想いを聞いたハルナはははっと乾いた笑いをあげる。何事かと思い聞く。

「いやな、ポコよ。あたしに足りてないものは、火力と、協調性、そして人を頼る力だったんだと、お前に教えられた気がしてな。その通りだと、前に起こした事件を思い出して思ったんだよ。やっぱりお前を眷属に選んで正解だった。少しずつお前に歩み寄っていけたらいいと、あたしも思う。これからよろしく」

 一目惚れしてしまいそうな微笑と共に、ハルナは言う。もちろんです、と私も返すと、いつもの表情に戻ってしまった。

「さて、ポコ、そして後ろにいるポコの親分と思わしき烏よ。あたしに協力してくれないか?」

 いつもの調子に戻ったハルナに言われ、ハシブトガラスの亡骸、鮫がはたき落としたやつを調べる。羽の下に見えるはずの、白い羽毛が見えない。妙だと思いハルナに声をかける。

「ハルナ、この亡骸を、真っ二つにしてもらえませんか? 何かわかるような気がします」

 首だけ落とせばわかるだろう、体を二つにするのは危険だ、とハルナはいい、鎌を大きく構え、頭を切り落とす。断面から出てきたのは肉片ではなく、歯車とネジだった。

「こいつ……。機械だったのか?」

 ハルナが呟く。機械……?

「尾羽、そういえば最近、この街の烏の絶対数が減っていると言っていましたね?」

「あぁ、言ったな。ここ五年前後で確実に烏は数を減らしている。おそらく駆除の被害にあっているんだろう。それがどうした?」

「この烏、もしかして最新の烏の駆逐道具なのではないか、と思いまして」

「ほう。ポコ、その話詳しく聞かせてくれ」

「まず、尾羽の話が正しいとします。つまり、ここ数年でこの街から確実に烏が減っている、と。そうなるとこの街、烏にとって間違いなく楽園であるこの街から烏が減る理由は一つしかありません」

「人間が烏を駆逐するから、だろう?」

「はい。そして、たしかに今まで様々な手段で人間は私たちを駆逐しようとしてきた。そして、その最新版が、それですよ。その大きな烏。大きいから私は勝手にハシブトガラスだと思っていましたが、それは違いました。その烏は我々を見つけ次第始末するように仕組まれたロボットなのです。その証拠に、その首の中。肉はなく、機械でした。これで明らかでしょう? そして、私たちがこれからやるべきことは」

「その機械を動かしている元凶である制御装置を見つけ出して、機械を動かなくする、だろう? 任せろ、それはあたしができそうなことだ」

 ハルナが力強く答える。ありがたい返事である。

「ドクトルよ。つまり、俺たちがハシブトガラスだと思っていた烏たちは」

「えぇ、そのロボットだった、と考えていいかと思います。一部過激派で本物が混じっていたかもしれませんが、まぁそれは置いておきましょう。大半はこの大型の烏ロボットと見ていいでしょう」

 この街のハシブトガラスも、もしかしたらただの被害者だったのかもしれない。

 烏ロボットの体をハルナと共に調べる。体のどこかに製造番号やら、製造元やらが書いてあれば、それを元にロボットの制御装置を破壊しに行くことができる。しかし場所がわからないとどうしようもない。

「ポコ、ここになにやら地名が書いてある。ここがどこかわかるか?」

 ハルナがこちらに烏ロボットを見せてくる。たしかに地名が書いてある。ふむ、これは。

「線路の向こう側のビルの中だと思います」

 あれですね、と指し示す。

「なるほど、何階かは向こうに着けばわかるか」

「おそらく。製造会社も一緒に書いてありましたからね」

 さぁ、行きましょうとハルナに声をかけて彼女の肩に乗る。尾羽がこちらを向く。

「ドクトル、いや、これからポコとなる男よ。お前とはこれが最後になるのかな」

「えぇ、尾羽。おそらく、これが最後でしょう」

「達者でな」

「そちらこそ」

 いくぞ、とハルナが声をかけ、ビルめがけて飛び立つ。尾羽との距離が少しずつ遠くなっていく。

 さようなら、尾羽。

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