第5話
その後いくつか質問をされ、すべて納得される回答を返し、そのまま会議は閉幕となった。質問の返し、私の話した量を考えると会議というよりかは質疑応答の意見交換会という感じではあった。
ねぐらの近くの公園にある水道の蛇口を足でひねり、思い切り水を出す。真冬の水浴びなので、夏と比べて少し涼しい水浴びではあるが、むしろその方が頭が冷え切り、さっぱりするというものだ。頭を使い続けた日の夜はこうしてここで水浴びをするに限る。
ばしゃばしゃと大音量で水浴びを続ける。頭から水を被り、羽の先まで水滴を走らせる。足の先まで水滴が零れ落ちる。頭に水を垂れ流しつつ、ぼんやりと、このあとのことを考える。
死神は烏が集団でねぐらをとっている場所に現れたという。つまり、私が一人で使っている、本だらけのあそこのねぐらにはこないだろう。そうなると、今夜あたりには尾羽が使っていたねぐらにくるかもしれない。今夜はそこにいよう。どうせ私はこれから一人だ。これから先は何も気にせず一人で動こう。しかし死神は何故烏を。
その時だった。激痛が私を襲う。何事だ。水浴びをしつつ、さらに考え事をしてきた私は、もしかするとこの楽園の安全さに呆けていただけかもしれない、背後から近く何者かに気がつかなかった。そのまま転がる。私の横に左羽だった何かも転がる。一発で左羽が持っていかれたらしい。痛さでまともに頭が動かない。蛇口の方を見る。ここら辺ではよく見る、ハシブトガラスだった。しかしそのハシブトガラス、明らかに様子が変だ。口から涎を垂らしつつ、こちらに近づいてくる。理性を保つ、普段のカラスとは思えない姿だった。さらに、ハシブトガラスに私の羽を一撃でもぎ取るだけの力なぞあっただろうか。
そのままハシブトガラスが飛び跳ねてこちらに近づいてきた時だった。さらに妙なことが起こった。ハシブトガラスと私の間にどこからともなく大鎌が飛んできて、そのまま豪快に地面に突き刺さった。その音とあまりの唐突さに、ハシブトガラスは驚き、何処かへ飛び去ってしまった。結果的にこの場には大鎌と瀕死の私だけが取り残される形となった。
鈍くなった頭で必死に考える。この大鎌はなんだろうか。この街の人間が使うにはあまりに不自然なものだ。つまりこれは私が追い求めてきた死神の持ち物である可能性が高い。そうなるとこの付近に死神本人が存在する可能性が高い。さてどこに。
いた。近くの階段の手すりの上に立っていた。しかし彼女は、死神というにはあまりに不自然で、ただの人間にしか見えなかった。青いヘッドホン、ピンクのワイシャツ、灰色のブレザー、左手のみの手袋。死神というよりは女子高生という称号の方が似合いそうなものだ。彼女はこちらまで一気に飛び跳ね、私の目の前に着地して、左手で鎌を引き抜きつつ、私の方を見る。開口一番、彼女の口からは、その妙に通る声からは妙な一言が飛び出した。
「聞こえるかそこの烏。あたしの声がわかるのならば、右斜め上から左斜め下に首を振れ」
は? 何を言っているんだこの死神擬は。
残り少ない力を振り絞り、首を右斜め上から左斜め下に振る。すると彼女は私の体を優しく抱き上げた。
「ようやく見つけた。お前が人の言葉を知っていると噂の烏か。今楽にしてやるから待ってろ」
この死神擬は私のことを探していたのか。少しずつ楽になる中、意識のみが遠のいていった。
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