第4話
日も傾き始めた頃。逢う魔が時も近いというその刻に、ハシボソガラスによる会議が始まった。
「えー。それでは諸君。会議を始めよう。ドクトルと私で、これから先、ハシボソガラスはどうするべきなのか、結論が出た。ではドクトル、計画の概要を話してくれ」
尾羽がこちらにバトンを渡してくる。ここから先はわたしが話すところだ。小学校の屋上に集まったハシボソガラスの視線がこちらに集まる。私は自信満々に話し始める。
「皆様。今日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。ここから先、計画の概要は私、ドクトルが話させていただきます。まず、私と尾羽で話し合った結果、ハシブトガラスの侵攻が激しい以上、無駄な争いに発展する前に我々ハシボソガラスが自らこの地を去るべきだという結論に至りました。実行予定日は明日の夜からとなっています。現状、幸運なことに、犠牲者は出ていません。しかし、ここから先犠牲者がでないという保障もありません。尾羽や他の若人から聞いた話によると一部暴徒化したハシブトガラスに襲われたハシボソガラスがいるという情報も受け取っています。この情報を基に、私と尾羽は計画の実行を決意しました。少し前から尾羽に頼み、雌の烏の産卵、子育てを控えてもらうように要請していましたが、それもこの計画のためです。距離が距離なので、おそらく雛鳥を連れて移動するのはほぼ不可能だと思います。さて、計画を実行する経緯とそのお膳立ての話はこれで終わりました。続いては計画の内容についてお話ししたいと思います。まず、リーダーである尾羽に現場でのルート取りは一任します。予め次に行く予定の地域近傍とその名前、そしておおよその雰囲気を尾羽には伝えてあります。現地に着けば尾羽がわかる程度には情報を伝えてあります。おそらく行き過ぎるということはないと思いますし、行き過ぎてもその先もここのような都心ではないので、ハシブトガラスが沢山いる、というようなことはないと思います。まぁそこらへんは皆さん、尾羽に任せてしまっていいと思います。さて、肝心の移動手段なのですが、もちろん、我々は人間のように便利な手段を持ち合わせていないので、飛んで向かうことになります。尾羽を殿に、ひたすら西へ向かっていただきます。年寄りを前方中央に集め、若人をその周りに配置、尾羽を中心に殿を広めに設定してください。そして前方中央付近にいる年寄りの速度に合わせつつ、あまり遅くならない程度に西に向かってください。基本的に移動時間は夜にお願いします。ちょうど今くらいの時間ですかね、から移動を開始して、夜明け少し前に複数の小さい公園、あるいは1つの大きな公園に宿を構えてください。昼は極力目立たないように努めるようにお願いします。あまり烏の集団が動いているのが人間に知られると後々面倒事に発展するかもしれませんからね。概要は以上です。何か質問があれば、どうぞ」
長々話したが、おそらくそんなに質問もないだろう。せいぜい……。
「質問がある。ドクトル、お前はどうするつもりだ?」
この質問くらいだろう。
「私は……。この街に残ります。ここ最近、烏たちの間で話題になっている死神に興味がありまして。もう少しこの街で探してみたいと思います。もし出会えて、何事も起こらず生きていれば皆様の後を追って現地で合流したいと思います。もっとも、そのようなことはほぼないと思います。なので、今日この会議を持って皆様とはお別れ、ということになるかと思います。まぁこんな偏屈な老害がいつまでも群れの参謀をするのもアレな話だとは思います。これからは若き皆様が、尾羽のサポートをしつつ決めていく時代だと、私は思うわけで」
そうか、と言い彼は黙り込んでしまう。他に質問もなかったのだろう。すると、一人の女性が質問を投げかけきた。
「本当に、貴方なしでこの群れは大丈夫なの? 今まで貴方のその珍妙な趣味と、腐ってもいい頭に助けられてた節があるじゃない。大事なブレインがいなくなってしまっては、群れとしては……」
「心配しないでください。私一羽がいなくても、計画は成功するように、すでに尾羽と一部の若人には入れ知恵をしてあります。その先も、私の無駄な話を聞き続けた尾羽、そしてそれに付き従う若人たちへ、私の知恵は伝わっていきます。詰まった時に、私のことをふと思い出して、あいつならどうしたかな、と思い出していただければそれでいいと思います。きっと、うまくいきます。だから、あまり心配しないでください」
ね、と念を押す。彼女はこの先、番いとなる相手を、つい先日見つけ、幸せを掴もうとしているところなのだ。心配事は少ない方が良いはずだ。彼女は自信ありげな尾羽の顔、そして、これからを担う若人の顔を見て安心したのか、覚悟を決めたのか、貴方の計画に従います、と一言放ち黙り込んだ。
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