第10話
ハルナの右腕の修復も無事に終わり一息ついた頃、いよいよ私の冒険も終わりが見えてきたことに気づく。
「もうこいつはいらないかな」
そう言いつつ、ハルナに金属バットを返す。
「正直、そこまでその金属バットを使いこなすとは思ってなかったよ。最初は自衛に使ってくれればいいかな、程度だったんだけど、まさかあたし以上の火力要員として動いてくれるとはね。おかげでいろいろ楽させてもらったよ。無事に仕事も終わったし、後は眠り姫が目覚めるのを待つだけだな」
そうだね、と言った時だった。眠っていたリリーちゃんを黒い羽が包み込む、そしてその羽が弾け飛ぶと同時にリリーちゃんからポコが飛び出してくる。包まれた黒羽根の中から出てきたリリーちゃんはポコが作ったあのドレスを着ていた。リリーちゃんは無事に目が覚めたらしい。そしてこちらに気づき、ドレスの裾を少し上げつつ、こちらに挨拶をする。
「ただいま、ニアちゃん」
そこから先のことは、あんまり覚えてない。号泣したまま、リリーちゃんに抱かれたような気もするし、ハルナに頭をポンポンされつつリリーちゃんを歓迎しようと必死になったまま号泣して動けなかったような気もする。
泣きに泣いて落ち着いた頃、リリーちゃんが私を立たせてくれた。ハルナとポコに、リリーちゃんと2人で向き合う。
「貴女が、ポコちゃんが言っていたハルナちゃんかな?」
「あぁ、いかにも。あたしがポコの主人であり、今回ニアに協力を依頼した神城ハルナだ」
「そうよね。今回はありがとうございました」
そこで言葉を区切り、ぺこりと頭を下げるリリーちゃん。私も頭をさげる。
「ハルナちゃんとポコちゃんがいなかったら、私は眠り続けていたかもしれない。精神世界に迎えに来てくれたポコちゃんがとても頼もしかった。最後までニアちゃんを支え続けてくれたハルナちゃん。そして、ここまで私を迎えに来てくれたニアちゃん、本当にありがとう」
「あたしのはただの仕事だ。気にするな」
「えぇ。それどころかこのようにドレスまで着ていただいて、私としてはこちらが感謝しなければと思っているくらいですよ」
「わたしは……。大切な人がいなくなったら、じっとしてられないからさ。やっぱり、リリーちゃんには元気でいて欲しいから」
各々リリーちゃんの言葉に返事をする。相変わらず素直じゃないハルナではあったが。
「そうだ、せっかくだ、餞別を用意してやる。ポコ、あれ作ってくれ」
「結局私が作るんじゃないですか。なんで貴女が作るみたいに言うんですか」
ぶつぶつ言いつつポコが作業に入る。何を用意してくれるのだろうか。
「あと、今のうちだ。ニア、あたしのブレザーを返せ」
忘れてた。私が今着てるのはハルナのブレザーだった。ハルナに返すべく近づき、これが絶好のチャンスだと気づく。襲いかかり胸に飛びつくのはこれが最後のチャンスだろう。ブレザーを返すふりをしてそのまま彼女の胸元に飛び込む。
ところがハルナは脇によけ、器用にブレザーをひったくりつつ私の足を払う。そのまま私はずっこけてしまった。痛い。
「阿保か。流石に読めたわ。戦闘中はあんなに様になってたお前がなんでこんな安直なことをするんだか」
ブレザーに腕を通し、呆れつつハルナが言う。横でリリーちゃんがくすくす笑っている。畜生。一回くらいいいじゃないか。最後まで雑に扱われ終わった私であった。
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