第8話

 今度こそ扉の前に着地して器用に扉を開けるポコちゃんを見て和みつつ、飛び立つ彼に捕まる。扉だらけの部屋まで戻ってきた。奥の大きなハートマークの扉が入り口だと告げるとそちらの方まで進む。

 その途中でポコちゃんが着地する。何事かと声をかけると、これを見てくださいと言わた。見てみると、それは私が先ほどまで着ていたスーツだった何かだった。ジャケットやスカート、ワイシャツは完全に布切れになっていて、原型をとどめていない。かろうじて下着が原型をとどめているかどうかという世界だ。

「私が縮んだ時はこんなにズタボロじゃなかったはずなんだけど」

「現実世界とこの世界が少しずつ繋がりつつあるのでしょう。早いところ脱出しましょう。この世界の崩壊に巻き込まれては現世に戻るはずだった貴女の魂もそのまま消えてしまいかねません」

 一時は消えてもいいと思ったが、生きて帰ると決めたんだ。ここに来て消えるわけにはいかない。ここのスーツに未練はない。どうせ現実世界のスーツ達はとっくの昔に布切れにされてしまっている。さぁ行こう、ポコちゃん。

 ハートの扉を何とか抜け、最初に通った通路を抜ける。ここら辺も確実に侵食されつつあるようだ。岩にはヒビが入り、そこから血が流れ出している。この道を躊躇いなく飛び続けるポコちゃんが勇ましく感じた。

 ついに最初の場所に戻ってきた。ここから始まった小さな冒険は、ここで終わりを告げようとしていた。行きます、というポコちゃんの掛け声を共に私はポコちゃんにしがみつく。朽ち果てた螺旋階段の時と同様、かっこいい口上と共に黒い旋風が巻き上がる。そのまま旋風に乗るポコちゃん。ぐんぐん穴を登り、そして外に飛び出した。

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