第2話

 あたしの一言に反応して、安心しきってしまったのか、ニアは意識が飛んでしまったようだ。一般人に毛が生えた程度の女がむしろよくここまで正気を保てたものだ。素直に感心する。

「ポコ、十秒でいい。時間を稼いでくれ」

 ポコに指示を出す。彼は教授、レッサーリリーの周りを飛び回り注意を惹きつける。その間にニアに回復魔法をかける。ラナンがいる世界では主流の魔法だが、たしかにこれは習熟すると便利そうだ。向こうに行くときは本格的に学ぶことにしよう。

 鎌と金属バットををしまい、ニアを抱え、ポコが戻ってくるのを待つ。こいつ、こんなに軽かったんだな。

 ニアの意識が戻る前にレッサーリリーを始末する必要がある。そして現状のニアを考えると両腕も使えなさそうだ。つまり現状のあたしが広範囲を薙ぎ払う手段は一つしかない。

「ポコ、完全同調だ。羽による攻撃で薙ぎ払うぞ」

「鎌が使えない現状を考えるとそれがよいと思います。行きますよ」

 ポコがこちらに向かって飛んでくる。そのままあたしの中に入ってくる。その後、背中に漆黒の翼が生える。旋風とともに完全に同調する。さぁ行くぞポコ。このままレッサーリリーを薙ぎ払うぞ。

 力強く翼を羽ばたかせる。ただの同調では飛ぶ程度のことしかできないが完全に同調すると翼を攻撃に回せるくらいに、意識的に動かせるようになる。レッサーリリーの群れに突撃する。数多のレッサーリリーは断末魔の叫びをあげコアに戻る。聞いていて気持ちのいいものではなかった。たしかにこれをニアが聞くと発狂しそうだ。何度も往復し、翼でレッサーリリーを薙ぎ払う。

 全滅させたことを確認する。ニアの目がさめるまでとりあえずこのまま飛び続けることにしよう。

「お見事。貴女のその戦闘能力、並のものではありませんね。ニアを庇いつつ、それでもレッサーリリーを全滅させてしまうとは」

「逆にニアがいないからこその戦法でもあるがな」

 正直、そうだった。この建物に侵入する時を始め、一人の方が楽な場面は多々あった。特にこの建物に侵入する際、ニアがいなければ扉付近の影に忍び込みドアを壊さずに潜入できたはずだ。しかし彼女の力が必要だと感じた。多分それは間違いではなかったと思う。

「たしかにニアがいては巻き込んでしまいますね。しかしその戦闘能力、そしてその美貌、貴女もデータ化すれば一儲けできそうですね」

「悪いがダッチワイフに成り下がる気はない」

「はいそうですかと引き下がる僕とでもお思いで? 力ずくでねじ伏せるのみです」

 そう言うと教授の横にいる最後のレッサーリリーと共に彼が構える。どうやら大将のご登場というわけだ。こちらの姫は起きそうにない。もうしばらく耐える必要がありそうだ。

「このリリーはレッサーリリーの中でも特に完成度の高いリリーなのですよ。プロトタイプリリーとでもいいましょうか。記憶も完全に僕が掌握しています。平たく言うと僕の下僕ですね。この高揚感。最高だと思いませんか」

「飼い慣らされた犬ほど脅威のない存在はないと思うがな」

 プロトタイプリリーは鞭を構える。教授の方はフラスコを構える。宙を舞いつつ、出方を伺う。

 プロトタイプリリーが鞭でこちらに攻撃を仕掛ける。大きく飛翔しつつ天井を蹴り、教授めがけて飛びかかる。動作が大きすぎたせいもあり、あっさり避けられる。多勢を相手にするには翼は便利だが、少数を相手にするには動作が重すぎる。片手だけでも空いていれば魂喰なり鎌なりで攻撃ができるのだが、どうにも後手に回るのが厳しい。加速し、二人から離れる。先ほどまでいた場所にプロトタイプリリーの鞭が襲いかかる。当たらずに済んだが、絡みとられた時のことを考えたらポコとニアが別にいてくれた方がいい。

ポコとの同調を解除する。彼があたしから出てくる。ニアを抱えつつ、二人と距離をとる。さて、そろそろ起きてもらわないと困るわけだが……。

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