第7話
三人で扉の先を行く。扉の先は一本道の廊下だった。道なりに進む。しばらく進むとゴールが見えてきた。円形の小広場で一つだけ扉がある。上は吹き抜けになっていて、意味もなく高い。頂上はガラス状なのか、明るい日差しが下まで降りてきている。調べるものとしたらこの扉くらいしかない。ハルナと扉を調べる。扉は施錠されておりあかない。蹴り壊すのかと思ったが、ハルナは何かひらめいたらしい。
「これが残雪が言っていた施錠された扉か」
彼女の依頼主のことだろうか。よくわからないが、ハルナにはわかったらしい。自分の影からアタッシュケースを取り出し、開く。中を覗くと意味不明な機械がたくさん入っている。
「今回の仕事の依頼主が、最後の扉はこの機械で開くはずだと言っていたんだ。この機械仕掛けの扉を見ておそらくこれだろうと思ったわけだ」
なるほどたしかに、この扉だと思う。登ってきた階数的にも、この吹き抜け的にも、この階が最上階だと思う。そうなると廊下を抜けた先、ここが最後の扉だと考えるのは普通のことだと思う。
ハルナはテキパキと機械を設置し、扉の解鍵を試みる。少し時間はかかりそうだが、なんとかなりそうだ、と彼女は言う。よっこいしょと柄にもない掛け声をかけつつハルナは腰掛ける。ポコも少し離れたところで羽の手入れをはじめた。どうやら解鍵が終わるまで暇らしい。私も彼女の横に腰掛ける。そしておもむろに声をかける。
「なんか、ありがとうね。無理矢理ついてきてもらって」
「ん? あぁ、いいよ。どうせここまで来る必要はあった。路地裏でお前を見つけた時、ここに来ることを話せば多分ついてくるだろうと思ったし、ここまでついてこられるだろう、とも思ってた」
「なんで、そんなこと」
「見てたんだ。毎日真剣な顔をしながらここに侵入しようとするお前の姿を。それで興味がわいたからしばらく様子を見ていた」
「興味って」
「単純に、人間のわりにはよく頑張ってるなって思ったのが一つ。そしてもう一つが、友のためにそこまで全力を尽くそうとするお前の姿が気に入った、からだ」
「ふーん」
なんだ、全部見られてたのか。それで、戦力増強も兼ねて声をかけた、と。
「こういう立場になるといろんな人間を、いろんな世界で見てきた。ついこの前も、下見も兼ねて剣と魔法が支配するという世界に行ってきたんだ。この世界の科学が魔法ならば、向こうの科学は魔法だ。そんな世界でも、やはりそこまで全力になれない人間はいる。そんな中、誰にも見られないところで、途方もない努力をして、ここに挑もうとするお前の姿は、うむ、あたしには美しく映った。あたし自身たいした努力をせずなんでもそれなりにできてしまう人間だ。だからこそ、そういう風に努力することが苦手でな。頑張れる人を見るのが好きなんだ」
柄にないなこんなこと、と彼女が笑う。私も返す。
「でも、君にも人を思いやる心がある。何度もピンチの私を助けてくれた。体を張ってくれた。あれがなかったら、私は多分ここまで来られなかった。君のおかげ。ありがとう、ハルナ」
彼女は、お人よしすぎるのだ。そして、多分熱血漢体質なのだろう。眉間に皺を寄せつつ、ハルナはバツの悪そうな顔をする。ポコが助け舟を出す。
「彼女はいつもは目立たないところで仕事をしているんです。だからこうして面と向かってお礼を言われるのに慣れてないのです。この前もさきほど名前の出ていた世界で1人の少女を助けた時にも、そんな態度を取っていましたから」
やかましいわ、あいつは金髪ポニテで巨乳だから助けただけだ、と反抗期の少年のように駄々をこねるハルナであった。
そういえば、と私はハルナに声をかける。
「私をずっと見ていたということは、私がここに来た目的は知ってるの?」
「あぁ、中に捉えられているリリーという人間を救い出すことだろう?」
「その通りなんだけど。そうなるとハルナ、貴女の目的は?」
この期に及んで実は彼女の目的を聞いていなかった。自分勝手に彼女を自分の目的に引き込んでしまったことを再度認識する。
「この先にいる、教授という人間を殺害することだ。それが依頼主の仕事内容であり、できれば中に捉えられている、教授によって拉致された人質も開放してくれ、とのことだ。おそらくそれがリリーだろう」
つまり。
「ニア、おまえと目的はほぼ同じだ。ただしここまできたんだ。あたしの我儘も聞いてもらうぞ。あたしはこの先にいる教授を殺す。手伝ってくれ。そしておそらく、それがリリーを助けるための最善策だとあたしは思っている」
わかった、ここまで協力してもらったんだ。わたしだけ我儘を言って終わり、は虫がよすぎる。手伝うよ。
ハルナのことだ、ここまで計算に入れてわたしに声をかけたのかも。
しばらく無言の時間が続く。ハルナはボケっと欠伸をしつつ座っている。そんな彼女の姿を見ていると、ふっと、うなじに目がいった。妙に綺麗に整えられた髪の毛と首である。彼女の発言から察するに、これも生まれつきなのかもしれない。なんか癪に障ったので、うなじに手を伸ばし、うなじを触りつつ髪の毛に触れてみた。やめろ、と言われるかと思っていたのだが、意外や意外、ハルナはきゃっとまるで女の子のような声を出し、震えていた。もしかして。
「ハルナ、あんたってくすぐったいの、苦手?」
ぷるぷる震える彼女を見るとどうやらそれが正解らしいことがわかる。なるほど? これはいいことを知った。ここを脱出した暁には彼女をくすぐりにくすぐって胸でも揉んでやろう。私より大きいことを散々自慢してたし。
そんなこんなでハルナといちゃこらしてるとピーッと音がした。ハルナが機械に近づき、確認をする。どうやら解鍵が終わったらしい。仕事モードに戻ったらしいハルナがこちらを向く。
「ニア、この先に教授がいるだろう。最後の戦いはこの先にある。覚悟はいいか」
「うん、わたしは大丈夫」
ポコもハルナの肩に乗り、相槌を打つ。
「さきほどの制御室で見た粘液を帯びたコア、あの正体もこの先でわかるかもしれない。その場合相当過酷な戦いになるだろう。行くぞ」
ハルナが扉を開ける。
リリーちゃんを助けるために、そして、ハルナの仕事を終わらせていちゃこらするために。わたしもハルナに続いた。
眠りの姫に救いの未来を エピソードN けねでぃ @kenedyism
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