第6話
鋏の襲撃も終わり、ポコの服作りが再開される。一応警戒はしていたが、これ以上何かが起こることもなかった。
「できました」
自信に満ちた声でポコが言う。その服はかなりの自信作だったのだろう。本人の力説通りかなりの作品だった。
黒を基調としたゴシック風ドレスである。その黒は烏の濡れ羽色と形容するに相応しい美しさである。その色に応えるかのように、烏の羽があちこちに施されている。気合いを入れすぎたのか、本人の趣味なのか、靴までこの調子の美しさである。素直に凄いと思った。
「ポコ、あんたすごいね。こんなの作れるなんて」
「それほどでもありません。長年の練習の成果です」
頭の帽子を少し深くかぶり直し返事をするその姿はまるで老紳士の仕立屋のような貫禄があった。
「ハルナも何か作って貰えばいいのに」
思わずぼやく。
「あたしか? あたしはスーツとかなら作ってもらったよ。というかこいつの服以外あたしの体の特性についてこないから必然的に頼むことになる」
そうじゃなくて。
「ドレスとか、可愛い服を、作って貰えばいいんじゃないかなと思うの」
そんなハルナの姿を想像したらニヤニヤしてしまうのは正直私だと思う。
「うーむ……。まぁ、考えておくよ」
「ドレスが必要になる機会があれば腕にものをかけて作りましょう」
完成披露会には私も誘ってくれ。眼福成分補充のために、ね。
そんな雑談を繰り広げているうちに入り口付近、先ほど私がガトリング銃を始末した方向だ、の扉が開いていた。やはりこの服がトリガーだったのだろうか。
「行こう、ハルナ。先に進もう」
先に進もうとする私にハルナがブレザーを投げてよこす。
「お前、人の服装を気にする前に自分の服装を気にしたらどうだ。パーカーがボロボロじゃないか。とりあえず出るまでそれ貸してやるから」
「あ、ありがとう」
お礼を言うが、それ以上に、ブレザーを脱ぐと違和感を感じる。彼女の左腕だ。手袋をつけている手首より先はまだしも、二の腕あたりから手首あたりまでが妙に細い。
「ハルナ、その左腕なんだけど」
あぁ、これか、と彼女が手首のワイシャツをまくる。思わず悲鳴をあげる。ワイシャツの下から出てきたのはなんと骨だった。肉が付いていない。
「この調子で二の腕から指先までは骨だけなんだ。普段はブレザーやらジャケットやらでごまかしてはいるが、やはり薄着になると誤魔化しが効かないなるな」
「利き腕、左手よね」
彼女の鎌の構え方でそうだろうと思っていた。てっきり左手保護のための手袋か何かかと思っていたが違ったようだ。
「そうだよ。たまにこんな左腕で不便だなって思うこともあるけどもう慣れたよ」
乾いた笑いとともに彼女が言う。そんなことより、とハルナは続ける。
「ニア、そのブレザー、サイズは合うか? 身長も胸囲もあたしの方が大きいわけだし」
少しでも心配した私が馬鹿だったらしい。
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