第4話

 扉の先は先の方に見える光源以外は漆黒であった。振り返ると扉もなくなっていたので、光源を目指す以外に選択肢もなくなった。

 光源にたどり着くとそこは扉があった。これまた例の廊下で見たような気もする扉である。進むしかないので進むことにする。

 扉の先は薄暗い。そして目の前にはピアノの鍵盤でできた螺旋階段がある。螺旋階段の壁は夜空のような星が散りばめられたロマンチックな壁だ。

 黒鍵につまづかないように階段を下ることにした。

 鍵盤でできた階段をひたすらに降り続ける。紆余曲折あってこんなドレス姿になってしまった。街中にこんな姿で放り出されたらいい年なのにと白い目で見られるし、何より恥ずかしい。誰もいないこの歪んだ空間はそういう意味では都合がいい。

 しかし、この階段はどこまで続くのだろうか。真ん中から下を見ても終わりが見えない。ここまで来た以上、降り続けるしかないだろう。

 しばらく降り続けると少しずつではあるが、周りの光景が変化していることに気がついた。まず壁。この壁の星が少しずつ減っている。そして、黒い部分が減り、赤黒くなりつつある。そして、足元の鍵盤も少しずつではあるが、黒いシミが増えてきている。そして先ほどまで使っていたはずの天井につられていたメルヘンなオブジェクトは少しずつ数を減らし、ただ紐が吊るされているだけになっている。なんだか不気味な雰囲気になってきたような……。

 さらに進む。さきほど感じていた変化は如実になってきた。というかむしろ狂気を感じる方向に変わってきた。メルヘンなんて要素はすっかり消え失せてしまった。壁にあった輝いていた星は完全に消え失せ、赤黒い壁に、行く手を照らす薄気味悪い蝋燭がかかっているのみである。ピアノの鍵盤はもはやシミだらけ、ところどころ欠けている箇所もある。一番変わったのは吊るされているオブジェだろう。ある地点、おそらく星が完全に消えたあたりだ、では紐だけが吊るされていた。しかしその地点を超えてからまたオブジェが吊るされるようになった。そのオブジェは目に始まり、腕、足、指等、人の体の一部を切り抜いたパーツになっていた。目を見てうっすらと感じてはいたが、このパーツ、すべて私の体の形や色とそっくりなのである。薄気味悪いなんて次元じゃない。吐き気を催すレベルである。

 流石に引き返したいと思って後ろを見て、前に進むしかないことを悟る。後ろの鍵盤は腐っていた。一歩踏み込むことすらためらうレベルで。進もう。

 さらに下る。おそらくここが最下層だ。周りの景色の変化を見て悟った。赤黒い壁には血管を模したと思われる管が張り巡らされ、鍵盤はボロボロ、吊られていたオブジェは目、腕、足、指に加え鼻、髪束、耳、胸、口、と部位を増やし、おそらくすべての部位が吊るされるようになった。もうこれだけで嫌なのに、時たま壁から目や口が現れ、意味不明なつぶやきを始めた。もう嫌だ……。しかしここが最下層である確証がある。おそらくもう少しだ。もう少しでゴールがあるはずだ。その希望のみを胸に最期の階段を下る。

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