-Re : 第二階-
何度も何度も失敗し、彼女が死ぬ結末を迎える。その度に俺は自分の無力さ、そして彼女への愛情を痛感する。
彼女は何も知らない。
自分が死ななかった後の未来を。
俺は知っている。
彼女が俺よりも背も収入も高い、イケメンと何年か後に結婚することを。子宝にも恵まれて優しいお母さんになることを。
俺がいなくても幸せになれるその姿を。
あれから彼女が死ぬ度にあの子に再会した。そして、彼女の未来を教えてくれ、そこへ辿り着く為にまたやり直す。
数百回という試行の中、分かった不変の事象。
彼女の誕生日までに別れてないと死ぬ。
そして、俺から別れを切り出した場合、その日に彼女は死ぬ。
おそらく、彼女から別れてもらわないと彼女を救えない。
それなのにどうして?
メイ、君は俺を嫌いになってくれない。
ふと上司を殺そうとした時のことを思い出した。殺人未遂という犯罪を犯した俺ですら彼女は見捨ててはくれなかった。そして、その時間軸でも彼女はまた死んだ。
もう答えは随分前からあった気がした。
「はい」
「あっ、メイ。今日会える?」
「うん、すぐ行く」
電話はすぐ切れてしまった。いつもの感じで切り出してしまった。会う必要なんてないのに。そんな台詞言ってはいけないのに。どうしただろう。こんなにも彼女を失っているのに、それでもまだ何もかも捨てきれないのか。情けない。
程なく部屋の扉が開いた。そこには愛しい人。これまで以上にやつれている。目のクマに乾燥した唇。全て俺のせいだ。
抱きつかれた瞬間、また俺は本来の目的を忘れそうになる。でも、それを振り払う準備はしておいた。彼女があまり好きでない香り。以前一緒に香水を選んだ時、苦手だと言っていたものだ。
やはりその匂いにすぐに気づき、彼女は我を失った。まるで駄々っ子のように手近なものを俺に投げつけた。
そして、彼女が手にしたものを見て、安堵した。そう、俺を心の底から嫌えばいい。
投げられたそれは太ももへと刺さった。激痛が走るが、彼女のこれからを思うと何ら問題なかった。
「出て行け」
この場にそぐわない静かな声になってしまった。予想以上の痛みで大声が出せない。
「今すぐ出て行け」
逃げ出すように部屋を出る彼女。これでいい。
そのまま好きなところへ、自由に生きるんだ。
出血がひどい。身体がどんどん鈍く重たくなっていく。それなのに頭は冴えていく。このまま俺が死んだら、彼女が殺人犯になってしまう。それは彼女の未来を全て奪ってしまう。
床に転がる彼女のメイク道具を拾い、机に書き込む。手が震える。遠くなる意識を必死で引き留めながら、手を動かす。
メイク道具を手放し、包丁に手をかける。グイッと精一杯の力で引き抜いた。そして、その包丁を胸へと狙いを定めた。
こうしてはいけない気がして仕方がない。
何故だ?
でも、迷っている暇は無い。俺に残された最期はこれしかない。
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