第1話 中編

微かな振動が伝わる。瞼は重たく、自然と眉間にシワがよる。ベッドの上で布団にくるまったまま、もぞもぞと手足を動かす。

スマホを手にし、届いたメールに目をやる。


[選考結果のお知らせ]


タイトルだけで分かる。不採用だ。

だが、僅かな可能性にかけ、中も確認する。見てすぐ、分かった。また、俺という人間を否定する内容だった。

もう何度目だろうが。慣れたのか、ショックは少ない。いや、慣れた振りが上手くなっただけか。


「くそッ」


スマホを投げた。そうする事でしか自分の中のものをどうにかできなかった。情けない。

いつもそうだ。俺には何もない。何もできず何も成せない。


口が乾燥してパサつく。不意に腹が鳴った。

こんな状態でも身体は正直だ。ただ生きるためだけの行動を粛々と行う。

冷蔵庫には何もない。俺はしぶしぶ身体を引きずるように外へと出掛けた。



コンビニから出て、買ったばかりのミネラルウオーターを喉に流し込む。細胞に染み込むように感じる。まだ、俺は生きたいらしい。


さすがに弁当は歩きながらは食べれない。家までのわずかな時間がじれったい。コンビニ袋を片手に黙々と歩く。


「あっ、お兄ちゃん」


どこかで聞いた声がした。鈴のような響き。

小さな人影が自分に向かって両手を振っていた。

あの子だ。もうずいぶん前のことだったように思えたが、まだ三日と経ってない。その間だけでも、俺は何度も自分を否定された。存在することすら苦痛だった。

気づけば俺の前にあの笑顔があった。


「もう、空飛んだ?楽しかった?」


小首を傾げるその仕草。以前と変わらない純粋すぎる瞳。なのに、どこかこの子と対峙すると息苦しさを感じる。


「まだ飛んでないよ」


「えー、どうして?飛べるのに?」


「いや、飛べないよ。君が何をしても俺は飛べない」


「うそだー!だって飛べるはずだもん。お姉ちゃんに頼んだから、絶対大丈夫だもん」


「でも、俺には無理なんだ」


「絶対飛べるもん。嘘つき!」


瞳は潤み、涙声になった。そして、踵を返し走り出した。小さなその姿が更に小さくなり何処かへと消えた。こうなることは分かっていた。けれど、それで良いと思ってしまった。俺はどこまでも最低だった。だからね、誰からも必要とされないんだ。







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