☆ すずなり

《ちりんちりんちりりりりりん。》


「背景、お母さん。

 お元気ですか。わたしは、とても元気ではありません。

 このまえ、わたしはゆめをすてました。

 先生はゆめをもちなさいと言うけど、わたしはしょうらいのゆめがかなわないんだと思います。わたしのしょうらいのゆめはかなわないです。

 お母さん、わたしはしにたいです。

 生きているのがつらいのではないです。いじめられているのでもないです。なぜかわからないけど、わたしはしにたくなりました。

 小学こうの友だちはいいこばっかりです。でも、わたしはいいこじゃないです。

 みんなにめいわくをかけないように、せい一ぱいがんばりました。でも、なんでかみんなはつらそうです。わたしがすきなものは、みんながきらいなものです。みんながすきなものは、わたしがきらいなものです。

 だからわたしは、あきらめました。

 楽しそうなかおを見るのがすきです。だから、わたしはみんなの楽しそうなかおを見るために、わたしから楽しいかおをけしてしまおうと思います。

 お母さんも友だちと一しょで、お母さんのすきな人はわたしのきらいなひとだから、わたしのことは気にしなくていいです。あの人といっぱい幸せになって下さい。

 それじゃあ、さようなら。わたしはりっちゃんたちと一しょに、とうきょうにいきます。


 二どと会いたくありません。


 りんこ」




《ちりんちりんちりりりりりん。》




「おとうさんへ。

 いきてるいみがわからなくなりました。

 あたしはそろそろいろいろわかってきました。

 おとうさんはおかあさんがしんじゃってからあたらしいおかあさんをさがしにいくっていって、どこかにいくけど、あたしはおとうさんをしんじれなくなりました。

 りっちゃんたちといっしょにたびにでます。

 さがさないでください。


 りんこ」




《ちりんちりんちりりりりりん。》




「海平先生に

 先生にだけは、本当の事を話しておこうと思います。

 花山凛子、畑凜子、幹野倫子は、命を絶つことにしました。

 この中で一番年上の私が、先生に、お話するため、こうしてお手紙を書いています。

 私達はいじめられている訳ではありません。凜子も、凛子も、とてもいい子です。クラスには確かに馴染めなかったけれど、私達はとても楽しかったです。

 ある時、私達はPTAに親が入っていたことから知り合い、仲良しになりました。何をするのでも私達は三人でした。私達が仲良くなるほど、私達の親も仲良くなりました。

 そしてある時、恐ろしい事態が起こりました。

 凛子ちゃんのお母さんと、凜子ちゃんのお父さんが交際していたのです。

 凜子ちゃんのお家にはお母さんがいらっしゃらないのは、私も知っています。しかし、凛子ちゃんにはお母さんとお父さんがいらっしゃいます。つまり、凛子ちゃんのお母さんは不倫をしていた事になります。

 同封している写真が証拠です。私達はこっそりお年玉を持ち寄って、お小遣いも足して、探偵さんを雇いました。探偵さんによれば、本当に不倫していたのだそうです。

 凛子ちゃんと凜子ちゃんは仲良しですが、凜子ちゃんは凛子ちゃんの親が嫌いで、凛子ちゃんも凜子ちゃんの親が嫌いです。それは、仕方のない事です。二人は生まれてこのかた、親に愛されたことがないのですから。

 ご飯は出てきます。寝る場所もあります。でも、生きてるだけで罵倒されて言葉の暴力を嵐のように浴びせかけられる生活のどこに希望があるのでしょう?

 私たちに与えられたパンドラの箱は初めから蓋がありませんでした。

 先生、私たちはこの世界を見限ってしまおうと思います。

 皆んなが噂する、あの御呪いを使って。

 に、楠に赤い縄をかけて首を吊るすのです。縄には十二個の鈴と五色の紐をつけて。そうしたら、私たちは、なれるのだと聞きました。

 馬鹿だと思いますか。子供騙しだと。

 でも、きっと、信じれば。本当になると思うのです。

 この手紙が先生に届く頃には、私たちはあちら側にいると思います。先生にお願いがあります、この手紙は捨ててください。できるだけ人の目に止まらないように。

 この世界から私たちが生きていた証を消すかのように。

 先生。

 私たちは、このくだらなくて愛おしい、すごく優しくて気味の悪い、この世界を捨てます。

 先生、さようなら。

 二度と会うことはないでしょう。





 ちりんちりんちりりりりりん。

 ちりんちりんちりりりりりん。

 ちりんちりんちりりりりりん。




 私たちは、三つで一つ。

 みんなで一緒に生まれることはできなかったけれど、みんなで一緒に死ぬことはできるから。

 さよなら先生、さよならお母さん、さよならお父さん。


 ちりんちりんちりりりりりん。












「あっらぁ、こりゃあ非道ぇなぁ」

 こんこんかかんここん、ころん。

 高下駄の音と絵馬の響き合う音が混ざり合い、その空間を震わせていた。

 手を翳す。

 からんころん、からんころん。

「まぁ何があったかはわかるしよぉ、手前らはそうだなぁ、


 鈴彦姫、なんてどお?」






 了

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