兄王子の話

 弟王子が半分だけ犬になり、

 妹王女が美しい小鳥を金の籠に集めはじめたころ、

 兄王子は何をしていたかというと、彼は城の地下深くにある閉架書庫にこもっていました。

 かれらの父親、王国の玉座に座る狂人を、少しでも長き眠りにつかせるための方法を、三兄弟は探していたのです。


 弟は急ぎすぎて失敗し、

 妹の仕事は呑気にすぎて、

 そして長兄である彼は、暗がりの書庫の奥で、うずたかく積まれた古びた書物の中から、昼を遠ざけ夜を引き寄せる呪法を見つけ出したのです。


 さっそく兄王子は下働きの女を呼び出し、女を井戸に投げ込みました。本に書いてある約束通り、女が叫んだ断末魔の時間だけ、昼は少しだけ短くなりました。そのぶん王が日中に処刑する罪なき男女の数がひとりぶん少なくなりました。

 兄王子は少し考えて、次は乳母のむすめを呼び出し、むすめに愛をささやいたあと、むすめを井戸に投げ込みました。むすめの覚えた絶望たるや、断末魔は長々と井戸の内側で響き渡り、昼がまた少し短くなりました。

 兄王子は思いつく限りの残酷な方法で、人々を井戸に投げ込みました。目を抉り、耳に溶けた鉛を流し込み、逆釘を打った上着をまとわせ、恋人を引き裂き、親の前で、そして子の前で、奈落の穴へ。絶望の声が石壁に反響するたびに、昼は薄暗く、夜は深く沈んでいきました。


 そうして、

 地上から昼が永久に去り、

 玉座の狂王が永遠の眠りについたとき、

 王国にはだれひとりまともな人間は残っていませんでした。

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