第2話
ここ、自動車事故第一センターに配属される女子社員はみな3年神話に漏れることなく、むしろ、それよりも早くに退職する。社内でぶっちぎりの女子離職率NO.1の部署だ。だからこそ余計に目立って仕方ない。
今では後進の育成、つまりは、肝心要の教育係も任されている。辞める隙も与えられない。なんだかなー…
本日も可愛い後輩に先輩の大きな背中を見せるべく、そして保険料を納めて下さった契約者に代わり、もちろん被害者の気持ちに寄り添うことも忘れずに、誠心誠意、対応している真っ最中だ。
「原状回復と仰られても、リアだけではなくエンジン周りも大きな損傷を受けていますので--」
『わかってます。でも困るんですよ』
話を聞かない人だ。クレーマーに多い典型的なタイプ。
こちらが言い終えないうちに、自分の主張、否定を繰り返す。こちらが意見を飲むまで決して折れない、ある意味、タフな精神の持ち主。厚顔無恥とも言うが。
対人関係に必要な、しなやかなさや柔軟性がない。まぁ、人のことをとやかく言える立場ではない。にしても、厄介だ。
男性にしては口調が穏やかで、高圧的な態度も、脅し文句もない。ただ『困るんです』の一点張り。しかし、そう言う割には切羽詰まっている様子もない。
感情の起伏もなく、どこまでも淡々と、まるで詩でも読み上げているかのように同じ言葉が続く。
声のトーンは精神的な負担がない。軽くて、人の心にスッと入り込む、嫌味もクセもない心地よい声をしている。
にっちもさっちもいかないレアケースに人知れず戸惑う晴。
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