それでは皆様、またどこかで。


 ドラゴンメイド喫茶、ボルケイノ。

 世界に一つしかない、稀有な喫茶店だ。

 今日も今日とて、お客さんは羊使いのヒリュウさんだけ。

 新人メイドのシュテンがヒリュウさんに頭を撫でられている。


「ほほう……。鬼のメイドとは珍しいのう……。伝説でしか聞いたことがないから、まさか本物をみることができるとは思わなんだ。生きてみるものだ、ほっほっほ」


「ちょ……。角を触らないでください! さすがに角を触られるとちょっと……」


「こら、ヒリュウさん。シュテンちゃんが嫌がっているでしょー」


 そう宥めたのはサクラだった。

 隣にはじっとヒリュウさんを睨み付けるウラの姿も見える。


「おっと、そいつはすまなかった。ごめんなあ、シュテンちゃん。ちょっと面白かったのでね、興味があった、とでも言えばいいかな? いずれにせよ、悪気はなかったんだ。許してくれないかな」


 ヒリュウさんの言葉に、シュテンはゆっくりと頷く。ちょろい。


「お待たせしました、ヒリュウさん。プリンアラモードです」


 そう言ってリーサはプリンアラモードをヒリュウさんの前に置く。


「ひひっ、これだよ、これ! これを食べないと一日が始まった気がしないねえ。何というか、元気が湧いてくるよ」


 そう言ってスプーンを手に取りプリンを一口頬張るヒリュウさん。その姿はスイーツに歓喜する女子にも見える。

 まあ、その俺はいまカウンターで洗い物をし続けているわけだけれど。

 それにしても……人が増えたよな、この店も。

 少し前まではメリューさんとティアさん、それに俺。三人だけだった。

 それが、サクラ、リーサ、シュテンにウラと四人が増えて今や七人になった。まあ、シュテンとウラはまだ研修中であり、今は店の裏に住んでいるらしい。まあ、メリューさんとティアさんもそこで住んでいるので一緒に暮らしている、ということになるのだろうけれど。


「……それにしても、少年。おもしろいなあ、女性ばかりの喫茶店に君一人が男か」


 ヒリュウさんが俺にそう語りかけた。見るとさっきまで居たシュテンたちが厨房に消えていた。

 ヒリュウさんはそれを狙って俺をからかっているのだろう。


「……正直、幸せに見えるなあ。わしも是非その中に入りたいものだよ。ところで少年、何か面白い話はないかね?」


 そういわれたので。

 俺は笑ってこう返した。


「この店で働いていると、そういうことばかりですよ」





 ドラゴンメイド喫茶、ボルケイノ。

 そこは世界唯一のドラゴンメイドが営む喫茶店である。人間の店員に、鬼の店員、はたまた魔女まで居る。

 もし君が周囲と雰囲気の違う木製の扉を見つけたのなら、その扉を迷いなく開けてみるといいだろう。

 その扉はおそらくボルケイノに繋がる扉になっているだろうから――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る