地球の裏側への弾丸ツアー。それを日記調に綴った紀行小説です。弾丸ツアーだから日程も短いし、作者もペルーを深掘りできていないので、結果的に読み易いコンパクトな作品に仕上がっている。
「深掘りできていない」とは書いたが、作者の視点は鋭い。
少し前に、作者の別作「守城のタクティックス」を読んだが、非常に面白い。中世中国の南宋を舞台にした作品なのだが、中国史に詳しくなければ書けない。しかも、娯楽作品。
「そんな作者が何故にペルーへ?」と疑問に思ったので本作品を読み始めたのだが、これが興味深い考察の連続。
ペルーを題材に作品を描くとの所信表明を最後に読んだ時には、快哉を叫びそうになった。
なお、単純に「南米行き弾丸ツアーって、どんな感じ?」と調べたいだけの読者にも参考になる。
作者様は作家であり歴史の研究もしていたそうですが、その知識が端々から滲み出てきます。
文章は簡素で読みやすく、詩情でお茶を濁すようなことはしません。
冷静な観察眼と歴史的な裏付けをもって、正確に語られています。
そして、旅行記以外の歴史の話が面白く、ついつい読みふけってしまいました。
車輪と文字を持たない、25の文明が興亡を繰り返しつつも死に関する観念は共通している、といった歴史的な知識から、インカ滅亡の考察やインカとモンゴルの共通点など、教科書の表層を浚っただけでは決して書けない考察が記されています。
旅情と知的興奮に満ちた時間をありがとうございました。