恋って言われりゃ愛に行く

砂田さと

第1話 好きって言われりゃ即交際


「好きです、付き合ってください」


昼休み、4階にある視聴覚室の前の廊下に呼び出された。

たった今”好きだ”と言った自分と同じ委員会の後輩の女子は顔をうつむかせながら俺の返事を待っている。その女の子の片手にはスマホがギュッと握られていた。


「俺でよければよろしくお願いします」


自分がそう言った瞬間にその女の子は両手で顔を覆いながら涙をこぼした。

そして笑顔でよろしくお願いしますと言ってくれた。


ちなみに俺はその女の子の名前を知らない。



学校から帰るとLINEの通知が4件来ていた。

今日初めて名前を知った女の子からの文章に俺は目を通した。


”今日からよろしくお願いします(絵文字)(絵文字)”

”好きって言ってもらった瞬間は心臓止まるかと思いました(笑)”

”これからは下の名前で呼んでいいですか(絵文字)(絵文字)”

”(動くスタンプ)”


4件も何事かと思えば1件でまとめられるじゃないか。

しかも好きなんて一言も言ってないし。

でも断ればよかった、なんては思ってはいない。


受け入れる理由も断る理由も見つからなかったからだ。


俺は適当に二言くらいで返事をした。

この帰宅してから自分の部屋で過ごす時間はだいたいSNSを探るか何かを食べているか、寝ているか。


「梓、飯」


兄がノックもせずにドアを開けてそう言った。

ナニをしているわけじゃなかったから構わなかったが少しはデリカシーを身につけてほしい。


俺が生まれたこの久保家は5人家族で構成されている。

父と母、兄と俺と妹で毎日夕飯を囲んで食べるのが日課になっている。

父は毎日定時で帰り、母も専業主婦なもんだから家に帰れば必ず親がいるようになっているし、何より自分を含めた兄妹たちはみんな帰宅部であるからこのような何気ない幸せを嚙みしめることができているのだ。

そして自分で思うことではないがいわゆる美形家族である。


「梓今日彼女できたんでしょ」

「なんで知ってるの」

「え、今年で何人目なの?」

「まだ4人目」

「私5人目」


こんな会話にも親が混ざる家庭はさすがになかなかいないだろう。

自分は妹の5人という数字に別に敗北感は感じていないが兄は感じるらしい。

父が拍手をした、なんでだよ。


母は女子高の小中高一貫の学校を出て大学に行き父と知り合った。

そして父はその大学で高嶺の花とされる母をあの手この手で勝ち取ったらしく90キロあった体重を30キロ落とした顔のパーツが良い系のデブだったらしい。

兄は吉祥寺の古着屋で働いているらしくSNSのフォロワーが5桁を超えるイケメン店員、妹は渋谷でスカウトされ読者モデルをやっている。妹曰くそろそろメジャー進出できるんじゃねと1日に5,6回言うもんだから親がオーディションを受けさせようと試みている最中だ。


そんなハイスペック家族の中で俺の立ち位置は『1番モテる素質あるのにモテない奴』である。

いや、モテることはモテるんだ。

ただ問題なのはいつも振られるのは自分ってことくらい。

自分だってモテることは嬉しいし今このモテている現状も自分の顔なんだろうなってことくらいは重々わかっている。

しかしなぜか最後には振られてしまう。

その理由として最も挙げられるのは『自分からなにもしないから』

それは自分で1番わかっていた。

ならばとこっちだって理由がある。


『好きじゃないから』


俺は本気で誰かを好きになったことがなかったのだ。

今日までは。



夕食を食べ終わりまた自分の部屋に戻った。

少し見ないうちに携帯の通知が100件を超えていた。

さすがにこれは何事だとTwitterを開いた。


”みんなの応援のおかげで勇気が出せました(´;ω;`)♡”

”OKもらった時は泣いちゃった(笑)”

”これから2人をよろしくお願いします(絵文字)(絵文字)(絵文字)”

”@chanrina_o0"

"@azusanemui"


その文面と一緒になぜか文化祭の時にツーショットお願いしますと言われて撮った写真が貼られている。

自分のユーザー名を使われているせいで通知が絶えない。

なんでこんなツイートにいいねの数が300も来るんだよ。

こんなのリツイートして何が楽しいんだよみんな。

突っ込めばきりがなかったがたいていの女子はみんなこれだ。

気がつけばLINEの通知もたくさん来ていた。

おめでとうだとか、応援するよだとか。


でもそれは最初だけなのを俺は知っている。

俺は今までいくつもの共同アカウントを削除してきたことか。

また今回もそうなることが目に見えている。

俺なりに、頑張るしかないけど。



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