一章 始まりは突然にⅢ

「異世界に飛ばされちゃったんだよ」

「え?」

初にそう言われた私は、思わず声を漏らした。

異世界?

異世界って、アニメとか漫画とかでよく見る、エルフだの妖精だのっていう、現実では有り得ないような生き物達の住む、未知的な世界のこと?

そんな所────「異世界」に、地球ごと飛ばされちゃったっていうの?

いや、そんなこと、ありえるわけないし。

絶対、初が何かに影響されて嘯いてたり、所謂「中二病」というやつになっちゃっただけってオチでしょ?

私はそ、どうせ嘘だと、初のついたどうでもいい冗談だと思うことにした。

そして。

「そんな冗談、やめてよ。面白くないから」

言って、笑い飛ばした。

悪い冗談。

初お得意の、悪い冗談だ。

別に、気にすることはない。

私は、そう思う。

────────でも。

でも、本当はこの時、私は、心の何処かで分かっていたのだ。

初と、そこそこ長い付き合いの私は。

初の目が、顔が、態度が、全てが、嘘をついていないと、言っていることに。

真剣だと、言っていることに。

何も言わなくなった初に「何もないなら、もう帰るよ」と言い、朝日塔から出て行こうと、初に背を向ける。

と、その時。


「初の言ってることは、嘘なんかじゃないよ──────って、そんなこと、アヤならわかってるか」


初ではない、別の声。

少し枯れたような、でも聞き慣れた声。

私は、振り返り─────────

「居るなら返事してくださいよ、炉さん」

私に声を掛けてきた炉さんに、振り返り際文句を言った。

そこにいたのは、白髪ショートカットで黒瞳の、日本酒を片手に立っている女性。

ここ、朝日塔の住居人。

色町炉さんが居た。

「いやぁ、ちょっと、色々あってね。今朝目が覚めたら何故か、資源ゴミの袋の中に入っていたんだよ。それでも一応、声は聞こえたから返事はしたんだけど、どうやら聞こえてなかったみたいだね」

炉さんはそう言うと、「座りなよ」と言って私と初に座布団を差し出してくれた。

私と初は、それを受け取る。

にしても、何で朝っぱらからゴミ袋の中に入ってたんですか、とか。

ちゃんとその後風呂入ったんですか、とか。

突っ込み所は山程あったけれど、まぁこれも何時もの事なので、何も言わないでおいて。

私は、座布団を木製の薄汚れた床の上に置き、その上に座った。

初は、座布団を引かず、抱えて座っている。

何で引かないんだよ。

言いかけて辞めた。

もう何だか、この二人を見ているだけで突っ込み疲れそうで、嫌になったからだ。

それに、突っ込み所が多すぎて、中々話が進まない。

私は、突っ込みたい気持ちを押さえ、代わりに深い溜め息を吐いた。

と、その溜め息の後。

地球ここが、異世界に飛んだって話。それをまだ、アヤは信じてないんだよね?」

炉さんが、私を見ながら言った。

私は、無言で頷く。

と、そんな私を見て初は。

「酷くないですかぁ?炉さん!アヤちゃん、私の言うこと、全然信用してくれないんですよー!」

不満そうに、そんなことを漏らす。

炉さんは苦笑いで「息なりの事だし、仕方無いよ。アヤのこと、許してあげて?」と優しく言った。

「嫌ですー!」

と、初は口をどからせた。

炉さんは、そんな初のことはもう放置しておいて言いと思ったのか、「さて」と言って。

この世界─────地球が、異世界に来たという話について、詳しく説明し始めた。




──────────日本酒の瓶を、片手に。

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