第3話『部員を捜そう!』
――人が足りない
困った。エリオは困った。困惑した。
まさかこんな落とし穴があるとは、思っていなかった。
「コジマは船酔いするので、お船には乗れないです」
この学校は一応士官学校である。軍人を育てる学校である。そして、
その士官学校の生徒が船酔いしやすい体質なんてあり得ない!
そう思っていた時期がエリオにもありました。具体的には、ついさっきまで。
改装なったフライヤが戻ってきての最初の部活である。エリオたち三人は演習港の隅っこにある、くたびれた整備棟の片隅にある机を囲んでいた。
これが、部室、というものらしい。
「コジマは経済科だから……」
困ったようにエーファが言う。「これも説明しなきゃダメだったか」みたいな顔をしている。そう、
うん、理解した。多分、理解した。文化が違うのは理解した。エリオは、取りあえず、そこまでは納得した。
――しかし、
「フネを動かす人数が全然足りてないよね!」
「……そだね」
エーファが困ったように笑う。
試合に耐えうる程度に十全に艦を動かす場合、少なくとも三つのグループが必要となる。
指揮、操艦、砲術である。
一つのグループは、、一人で十数人分の身体を動かせる
――つまり、最低でも三人、搭乗者が必要。
因みに現在の第二戦艦部部員は、言うまでもなく、エリオを入れて三人ポッキリである。
この人、この状況で、「ひと月後の練習試合に勝てたら、部の創設を認める」なんて約束をOKしてたのか……てへぺろ状態のエーファを見やりつつ、エリオはがっくりと膝をつきたい気分だった。割と勢いで物事を進めるタイプだったのか。
「と、とりあえじゅ、
取り繕うように、エーファが噛み気味で言う。
「そっちは、ボクが一人で出来るし……
……んじゃ、エーファとコジマは取りあえず人集めって事で」
「そうしよう。じゃ、行動開始!」
「おー」
コジマがテンションの低い棒読みで鬨をあげた。
**********
「
何体動かせれば良いんだっけかな?」
一人部室に残ったエリオは、
銀盤は専門だが、
「頑張って下さいね」とお日様のような笑顔で送り出してくれたグラウに、ドSだと言う話との齟齬を感じて混乱してしまうエリオである。
悪いようにとっても、人を動かす力――人を良い気分にして自発的に動くようにする力があり、流石に王族の血、或いは女傑にして女王であるらしい母親の薫陶を感じてしまうが……
「こっちも良い気分になるんだから、問題は無いんじゃとは思うけどねぇ……」
競技用の選手配置の資料をめくりながら、簡単に籠絡されているエリオである。
「さて、と……やっぱ、搭乗者は最低三人は要るんだよなぁ。
指揮に一人、操艦に一人、砲術に一人。
内訳は指揮、砲術が十体ずつ、操艦が五十体。
操艦には、缶、機関、操舵、電気(油圧、水圧)、その他(掌帆)、と大まかに分けて五つのグループに分かれ、通常、それぞれに最低一人必要だ。
それを一人でこなせる時点で、エーファはとんでもない能力を持っていることになるが、加えて、操船自体も神ががっているという。昨年の試合でそれに魅了された、冷静かつど素人のコジマが第二戦艦部の旗挙げに参加してしまうほどの。
「まぁ、その自信が、勢いだけで動いちゃうあの性格と表裏一体なんだろうけど。
……取りあえず、予備までいれて、四~五機の制御器作っとけば良いか」
それ以外にも、通常は、装弾装薬に二十体ほど必要だが、こちらは完全なルーチンワークであるので、フライヤでは銀盤制御で機械的に自動化してしまっていた。
「ホントは砲術も、主砲と副砲、というか攻撃と防御に分けたいんだよな……
てか、余裕があるチームじゃ、各グループを更に二、三人に増やして精度増してるしなぁ……
……まぁ、無い物ねだりしてもしょうがない。
うん、気合い入れて、組むか!」
エリオは拡大鏡の仕込まれたゴーグルを嵌め、自分の銀盤器に操法用の
銀盤を非実体化させるフィールドが、机に据えた空の
時折、シミュレーターを使って結果を確認しながら、テンプレに手を入れ、また銀盤を列べる。
ある程度まとまったら、一つのオブジェクト銀盤に集約、更にコレをテンプレとしたりコールしたりするマスター書式をくみ上げ、パラメータ入力銀盤をちょいちょいと足してみる。
その繰り返し。
エリオにとっては、幾度もこなした手慣れた作業だった。
**********
「これは……スゴイ!」
草原のわずかなウネリに、船体が緩やかに上下する。
艦尾からはモウモウと砂煙が上がり、煙突から立ち上る、機関の好調を示す薄い排煙と混ざり合いながら遙か後方へ帯状に流れていく。
「次は前進一杯まで回してみる。
そっからの急減速、左弦一斉回頭までやる。踏ん張っといて!」
蒸気圧が限界まで高まり、タービンが甲高い唸りをより一層増す。
艦首がフワリと浮き上がり、身体を後ろに持っていかれるような急加速に艦橋のエリオ(の
艦尾で盛り上がる砂煙には、子供の頭ほどもあるだろう岩塊も多数交じり、固体化したようなくっきりとした輪郭を際立たせる。
そこで急減速。
艦首がつんのめるように沈み、逃げ損なった慣性が艦尾を左右に揺する。
しかし、丁寧なブレーキングと、注排水システムによる絶妙な艦尾荷重で
取り舵一杯と言う奴だ。
注排水システムは操舵と同調して艦体の遠心力を完全に中和し、艦橋から地面まで手が届きそうに傾いているのに、エリオが身体に受けるGは驚くほど少ない。
「こんなにスピード感があるもんだなんて……お城みたいに巨大なモノが……」
「
エーファの言うとおり、進路変更中から、徐々に起動輪へのトルクを増されていったフライヤは、百八十度回頭した時点で既に第四戦速に達しようとしていた。
そして、そこから一杯までが、また速い。
サドル型の船体配置だけが可能な『加速する事で旋回性能が高まる』特性のおかげである。
「……ていうか、その中でもこいつは別格!!
うん、思った通り、思いっきり振り回すのには、最高のフネね、こいつ!」
司令塔の中で
乗員不足の件はさておき、公試と慣熟を兼ねて、エリオとエーファはフライヤで街の外の草原へ乗り出していた。
トラブルに備え、ふたりは
後部主砲塔のなくなった後甲板は広々と空いており、ついでにデリックも据え付けてある。支援艦艇を持たない第二戦艦部としては遠征の荷物を積むのにも都合が良い。
「しかし……ちょっと、ケツが滑り過ぎ。加速時の踏ん張りも足りない。
イニシャルをちょい締めて、ダンパーの伸び側を軽く弱めたい」
「わかった、一旦適当なところに停めて調整しよう」
エーファは蒸気量を絞り、同時にブレーキをリズム良く数度に分けてゆっくりとかける。
数万トンの鉄船はその巨体にそぐわぬほど繊細な操作を要求するが、エーファの手腕は滑らかで、エリオにまったく不安を感じさせなかった。
フライヤは静かに停止する。
「ふぅ……うぇええええ、やっぱ、気持ち悪い……」
エリオは脳内でエジェクトをコールし、
と、「カチャリ」と鍵の開く音に、エリオは辛うじて動かせる目玉だけで応える。
コンテナハウスの隣の部屋から一早くエーファが姿を現すと、今なお身体の感覚がうまく掴めないエリオからてきぱきと端末を外す。
狭いコンテナハウスをワザワザ数部屋に区切ったのは、エーファが
着替えををするわけでもあるまいに、と訝しがったエリオだが、この事に関してだけは、エーファは珍しく理由も言わず、しかし、頑として譲らなかった。
「まーだ、
ま、しょうがない。おいおいやってこ」
専用の端末寝台から依然として立ち上がることが出来ずに、ただ左右の手を交互に開いたり閉じたりしながら、感覚と身体を一致させていたエリオの横で、エーファは特に急かすこともなくゆったりと待っていた。
窓ガラスを開け放ち、汗ばんだ額をその外に突き出しながら、ふう、と一息ついたりしている。口の端はゆるく持ち上がり、瞳は満足げに細められている。
高速力、高出力の数万トンはある鉄の塊に振り回されることなく、と言って、力任せにねじ伏せるでもなく、まるで一体化したように自在に操ってみせたのだ。
さぞかし気持ちよかったことだろうなぁ、とエリオは軽く羨む。
なんせ、今回、単なる便乗者であったエリオにとってすら、抜群に爽快で痛快な体験だったのだ。
「あー、ちくしょ!
久々だったけど、やっぱ、フネは面白いなぁ!」
エーファが空に向かって叫び出した頃、ようやくエリオも寝台から起き上がることが出来た。
**********
「……人……来てないみたいだね」
「気配すらしませんでした、と補足します」
日が十分傾くまでフライヤで走り込みながら(こんな走り込みなら大歓迎だとエリオは思った)艦の各部を調整し、訓練港の端にある部室にエリオとエーファの二人が戻った頃には、すっかり暗くなっていた。
デスクライトの黄色い光輪のなかにすっぽりと収まったコジマは、相変わらず手回し計算機をカチャカチャ鳴らしている。
数日前、エリオが
結果わかったのは、第一戦艦部の強さ、というか信頼の厚さだった。
また『第一の』エースだったエーファの誘いに、一度は一も二もなく応えた生徒も、行き先が古い
コジマの知り合いやエリオと同郷の銀盤士たちは、
一度、曲がりなりにも興味を示したロリスが部室に来たが、エーファの「接敵したらどうすべきか?」と言う問いに「艦腹を向けて相手を遮り、『ここは俺に任せて先に行け』と言う」と答え、追い出された。
本人は「一隻しかないのに、無駄な犠牲を叫ぶところが笑いどころなのに」とぶーたれていたが、あいにく話を面白くするのが目的の部活ではない。
そして、最後の頼みの綱、部員募集のポスターだが……まぁ、三人とも絵心がなかった。
そこで、文字中心のモノを作ろうとしたが、エーファは擬音だらけでエリオは蘊蓄だらけで、コジマは数式だらけで、しょうがなくそれらを合わせたら、ほぼ真っ黒になって余人には解読出来ぬ代物となった。
――と、まぁ、とにかく、新たな部員は来なかった。
「……て、コジマ何してるの?」
ティーガー社の手回し計算機をカチャカチャやりながら、こんにゃく板に数表を書き連ねていたコジマが、顔も上げず答える。
「主砲と副砲の諸元計算表というか、計算尺みたいなモノを作っていました。
どなたが砲術をやるか解りませんが、ほら」
「こんな感じです」とコジマが複数のこんにゃく板をパラパラとめくったり重ねたりしてみせる。透けた数枚が重なり、敵味方の距離や速度、進行方向等に応じて、簡単な諸元が即座に見て取れるようになっていた。
「コジマは相変わらず数字に強いねー」
「砲術とは、数字の細かい積み重ねにすぎませんから。少しでもお役に立てればと」
感心したようなエーファに、コジマは微妙にはにかんでいるとも思えるような声音で答える。
「――数字の積み重ね、ね……」
エリオはハッと気付いた。
そうだ、数字だ。
砲術は数字の、初等数学の積み重ねだ。
感覚的な判断が必要な指揮や操艦、他の役割と違い、つまるところ、砲術は観測、照準機器から数字だけを読み取れれば良い。
「乗る必要ないじゃん」
「「は?」」
突然叫び声を上げたエリオに、エーファとコジマが期せずしてきょとんとした声を揃える。
「砲術だよ。砲術はフネに乗らなくてもいい!
機材からの数字を受けとって、処理して、引き金を引けば良い!」
「でも、測距儀や照準器を覗かないと……」
「画面の揺れだけでもコジマは酔いますよ?」
エリオの言うことに、今一ピンと来ないエーファとコジマ。
「それは副次的なことにすぎない。測距儀の調整も照準も、結局は数値を出すために覗いてるにすぎない!
で、目標を中心に捕らえたり、ピントを合わせるだけなら銀盤で出来る!
簡単な画像解析と画像照合だ。
後は銀盤ででも、電波ででも、数値だけ砲手の処に送れば良い!」
「あ……」
エーファが合点がいったように目を見開いた。
「……新入部員、要らないじゃん!」
「それって……それって、コジマが直接お役に立てるって事ですか?」
「もちろんだよ! というか、数字の処理だけ考えたら、むしろ土下座してお願いしたいくらいだ!
こんなものを片手間に作れるくらいだし!」
エリオはコジマの作った諸元計算表をぶんぶん振り回した。
「……そうですか。コジマはお役に立ちますか」
コジマはいつもの無表情ながら、すこし頬を上気させて、エリオを見つめた。
「立つ! 立つ! 死ぬほど役に立つよ!
よし! さっそく砲手用の遠隔操作器を銀盤で組んでみる!!」
「おぉう、頼む! やったぁ、コレで試合出来るじゃん!」
エリオとエーファが、上に伸ばした掌同士を、パン、と叩き合う。
コジマが、それに、恐る恐る掌を重ねた。
**********
「静目標からいってみよう。
コジマ、準備は?」
「いつでも」
インカム越しに、相変わらずの冷静な声が聞こえた。
「エーファ、進路二二七、第三戦速」
コジマ用の特別な銀盤指揮装置が組み上がった数日後。街から少し離れた学校保有の射撃演習場である。
艦橋で指揮を執っているのはエリオだ。
エーファが操艦、コジマが砲術と、かけがえが無い技能と共に役割が決まってしまったので、消去法で決まってしまっていた。
エリオ自身は、ハードとしての
エリオも自認する、これが唯一の懸案事項になってしまったが、現状、どうしようもない。慣れるしかない。
とりあえず、対策として、これもエリオの考案になるプロッティングボードを浮かべてはある。
半透明で板状のこれは、自艦を中心にした俯瞰視点で、索敵方位盤の情報を元に、周囲の状況をリアルタイムに表示する銀盤仕掛けだ。表示するだけならひとつも三つも一緒なので、エリオ用に艦橋、エーファ用に司令塔、そしてコジマ用にコンテナハウスの中、と、ついでに全員分が用意されている。
「撃ち方はじめ!」
因みにこれは「以降、指揮の許可なく撃って良い」という意味なので、下令後、即座に砲が火を噴くわけではない。
「目標、射界に入ります」
実弾を使う、且つ、コジマが参加する為、今回、コンテナハウスは演習場の射爆壕の中に置かれている。
薄暗闇の中、歯車仕掛けの数字ドラムがずらりと並ぶ指揮装置を前に、裸電球で照らされたコジマはいつもと変わらぬ平板な表情だ。
手だけは別の生物のように迷い無く動き、方位盤や測距儀からの数値を即座に暗算で修正、射撃盤へ送り返し、帰ってきた値を更に修正して砲を操作する。
入力は、
指揮装置とフライヤの間で無駄に情報が行き来しているので、エリオとしては、射撃演算系の一式丸ごとを銀盤仕掛けに置き換えてコンテナハウスに置いておきたかったが、既定により禁止されていた。モック・カンプはあくまで実用兵器のシミュレーションと言うことで、戦闘中に衝撃などで『壊れる』事も想定、対処しなければならないのである。
なので、プロッティングボードの本体も司令塔内に据えてあるし、実はコジマのキーボード操作もレギュレーションギリギリだったりする。
と、コジマの指が満足げに一瞬止まる。
「撃ちます」
コジマの小さな指が、引き金に割り当てられたキーを弾く。
と、まず、
流石に十六インチ、一門だけでも凄まじい衝撃波が艦橋を襲い、窓のサッシをガタガタ鳴らし、エリオはビクつく。
一トンの円錐型の鉄塊は、化学反応により爆発的にその体積を増した装薬により二十メートル近い砲身を駆け抜ける。
同時にライフリングにより回転運動を与えられ、
砲口からの発射炎が消え、送り込まれた圧搾空気が薬室に溜まった褐色の硝煙を吹き飛ばす前に、標的の廃船に吸い込まれ、その上構を反対側へ吹き飛ばす。
コジマ、射撃指揮装置共に問題はなさそう……というか、上出来である。エリオはホッと胸をなで下ろす。
「つぎ……お……面舵、十度くらい?」
「まて、ちょっと試したいことがある」
「ど、どうぞ」
あたふた気味のエリオを遮って、エーファは故意に艦尾の荷重を抜き、同時に出力をガコンと上げつつ、艦体を右舷に少し傾ける。
途端にグリップを失った
フライヤは艦首を軸に『その場』でぬるっと、嫌な感じにゆるゆると『回転』を始める。機関と操舵を一人でこなしているエーファにしか出来ない芸当だ。
「なるほど……」
エリオは感心する。確かに艦首方向にしか射界のないフライヤには有効な機動だった。
「さすがはエーファお姉さま……撃ちます」
コジマはエーファの変態機動にすぐさま対応。
標的は射界に入るやいなや、即座に撃ち抜かれる。
恐ろしく早い諸元計算……いや、恐らくは艦の未来姿勢を予測し、諸元を予め入力する『待ち受け』で射撃をしているのだ。エリオはコジマの意外な適応力に驚愕する。
エリオは声も出ない。
「え、えと……次は動目標」
エーファは絶妙のトルク操作と注排水による荷重調整で、すぐさまフライヤを通常航行に戻し、加速する。
「第五戦速まで上げて。
あ、あと、コジマ、今度は、まず二発ずつ撃ってみよう。相手は動いてるし」
――数日続いたフライヤの射撃練習は、第二戦艦部の三人にとって、予想外に満足いくモノだった。
**********
「第二戦艦部の練習試合の相手が決まりましたわ」
第二戦艦部に架せられた期限があと数日に迫った、とある日の放課後、生徒会長にして第一戦艦部の部長、グロリアス・タルミ・ホーホが、その豪奢な肢体を第二戦艦部のくたびれた部室に運んでいた。
「ネーベルブルーメ公国の国立士官学校、その戦艦部、第二艦隊から抜粋された突撃艦隊ですわ。
内訳は
つまり、
「妥当な相手だ。感謝する」
相変わらず嫌みにならない笑みを満面にたたえたグラウに、エーファも落ち着いた口調で答える。
自分でも内心無理だと思っていたフライヤの戦力化、これが
なら、このまま突き進むまで。
「第二戦艦部としては、受けて立つに何の問題も無い」
目の前の王女様に対して、相変わらず軽い反抗心は憶えているが、それよりもエーファの心を支配していたのは、やっと先に進むことが出来た高揚感と、その先に待ち構えているものへの期待。
乗り越えるべき障害であった練習試合が、今では素直に楽しみだった。
「お約束でしたから、問題があったら困りますわ。
試合は今週末。ルールは殲滅戦になります」
「だ、大丈夫です!」
若干緊張したエリオの返事に、ふふふと、これまた不思議と悪意を感じさせない笑い声が、グラウの口から零れる。しかし、その目は第二戦艦部の面々をしっかりと見据えている。
「期待……しておりますのよ、わたくしは。
本当に、期待しておりますのよ」
**********
「一個
こっちは
「しかも相手はネーベルブルーメ。先勝陣営だけど山中の小国で、戦中、艦隊運用で特に目立った成績を上げたところでもない。
平均的な……というか中の下って程度の腕前ね」
「所属艦です」と、コジマがグラウの持ってきた試合要項を青焼きで複写してエリオとエーファに手渡した。
グラウが辞した後の第二戦艦部は、エーファを中心にやる気に満ちている。
「
共に、
あまりお金のある学校では無さそうですね」
コジマが淡々と書類を読み上げる。
「シュネシュトーム級かぁ。
あれ、たしか、
「そだね。射線は多いけど、一回撃ったらお終いなはず」
母艦の速力と与えられた回転により慣性の付いた
しかも、回転と地面の起伏により、転がると言うよりは撥ね飛んでくるので、場合に依っては舷側より上に着弾する。
炸薬量は1トン前後もあるので、当たり所によっては、一撃で
「問題は、フライヤで想定している交戦距離と、
そう、『意外と遠くまで』とは言うものの、
だが、フライヤもそれは同じである。
通常、
しかし、狭い前方射界しか無いフライヤにそれは出来ない。
高速で動き回る多数の
「エリオ、しょうがない、先に相手に統制雷撃をさせよう。
数が多い。乱戦になって個別に投雷された方が処理に困る」
「コジマもそちらの方が助かります。
主砲と副砲、同時に操作するのは、まだ自信がありません」
「うーん、それしかないかぁ」
多少不安げなエリオに、エーファがウィンクして見せた。
「大丈夫! 全部避けてやるよ」
――その約束通り、練習試合当日、エーファはネーベルブルーメ艦十三隻からの統制雷撃を、全て避けきった。
――なのに、あれほどの窮地に追い込まれるとは、この時の三人には、想像だに出来なかったのである。
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