十八章 旅の終わり
十八章 旅の終わり <Ⅰ>再会
時雨は霧になって、ひそやかに流れる。
広大な
枯れた
なぜだか、その人の顔に目の焦点が合わない。夢で出逢う人のように
「お初にお目にかかります。これは、とうの昔に
その人が
「あ。はじめまして。
恥ずかしい。自分のボキャブラリーに敬語がない。
「時雨さんとおっしゃるのですな。よくぞ、私に気づいてくださいました。うちの時雨と同じ名前でいらっしゃるとは。余程の
師匠がこんなに愛想がいいのに、弟子のやさぐれ加減はどういうことなんだろう。
「法師様。今のは――。あたしたちが見たのは、法師様の記憶なんですね」
影法師が深く
「そうです。最後に沼の
「そうだったんで……、うわっあああ!」
――いきなり叫んですみません。
だって、熟した
パックリ裂けた口から、長い舌がチロチロと覗いている。
背筋を悪寒が駈けのぼる。大蛇ヤバい。オロチなんか敵ではない。
「時雨や。お帰り」
法師様、コレ見て、なんで平気なのー。
「ああ。法師様」
大蛇はするすると青磁色の
「可哀想に。私のせいで辛い思いをさせた。時雨や。すまなかった」
影法師の掌が、大蛇を慈しむように撫でた。
「僕は鏡をなくしてしまいました」
身の毛のよだつような大蛇が、痛々しく甘えている。――助けてー。
「あんなものは無くてよいのだ」
感動の再会シーンにあたしの胸はチクチクと
――壊したのはあたしだ。すみません。
胸を貫く自己嫌悪が、ついに生理的嫌悪感を克服した。
「ごめんなさい! あたしが鏡を壊したんです」
あたしは思い切り頭を下げた。
超居たたまれない。土下座したい。
影法師がこちらに向き直る。
「――まさか。あの鏡を、どうやって?」
想定していた対応から大きく逸れた。
「最初は、踏んづけたら割れちゃったんです。それで――。さっき――。あたし、シグレを殺そうとしたんです。そしたら、鏡が爆発しちゃいました。本当にごめんなさい」
影法師が膝から崩れ落ちていく。
――ここで、なぜ笑う。
何か言おうとしては
「ああ、失敬。ああ苦しい。奇跡です。あの鏡を壊せるとは」
「そうなんですか?」
「あの鏡は、世に謂う<魔鏡>です。砕こうと
言ってるそばから、また噴き出す。そこまで笑うのか。
「でもそれどころか、あたし、シグレを――」
「いやいやいや。いっぺん死んでる者は、二度と殺せませんよ」
数珠を振りながらお腹を折って、影法師がそれはもう可笑しそうに笑うから、つられてあたしも笑っちゃった。
素の慈慧法師様は、笑い上戸だった。
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