十二章 子猫の恋 <Ⅲ>呪いの鏡
「
目の前のリンが
「呪いの鏡? 望みの鏡じゃなくて?」
「はい。呪いの鏡です。鬼の
「それで、目が赤かったんだね」
「勘弁してくださいと頼んだら、主は
「ひどい!」
「みんなから嫌われていました」
いろいろ思い出したらしく、リンは不愉快そうに顔をしかめた。
「あの神社は、そいつのものなの?」
「とんでもない。戦に巻き込まれて、守り手が絶えた古いお
「どうして、望みの鏡があそこにあったの?」
「神社がまだ栄えていた頃に、
小机の端に
――怖いよね。そうだよね。誰よりもわかるよ。あたしには。
鏡の中に、一対の瞳が現れた。
琥珀色をした丸い瞳は、懐かしいものに出会ったような眼差しで、小さなリンを見つめている。
やがて目を開けたリンは、その視線に気づいて小さく叫んだ。
リンと琥珀の瞳は、しばらく見つめ合った。
そして、鏡が名を問うより
「あの。あなたさまは、どなたでしょうか?」
鏡の中の瞳は明らかにうろたえた。
「――僕は、
鏡が答えた。
あたしは大きく
「――こっちから先に訊いちゃったんだ?」
「あれは驚いた」
猫が不愉快そうに尻尾を振った。
「
リンが真っ赤になって、シグレに頭を下げる。
身代わりの
――その手があったか。一番リスクが少ないじゃないか。
次に鏡の間に入ることがあったら、絶対これで行こう。
「シグレ様。どうか私を食べないでください!」
鏡を
「なんだと! ふざけるな! 僕は人の子は食べない!」
いきなり鏡がキレた。
リンは飛び下がって床に額を擦りつけた。
「ごめんなさい。お許しください」
「お前は、
と鏡が言った。
「いいえ。そんな方は存じません」
平伏したままリンが応えた。
「オロチ沼は知っているか」
「いいえ。存じません」
「そうか。お前は誰だ」
「
「鈴、おまえは
「いいえ。ちがいます」
「では。なぜ僕が、お前を食べると思ったのだ」
「鏡の中には人食い鬼がいると――聞いておりましたので」
「なんだと。失敬な。僕は鬼ではない!」
「お許しください!」
リンは震えて謝った。
「嘘を信じておりました。ごめんなさい」
「不愉快だ」
「申しわけありません」
――こいつ、子ども相手に大人げないな。望みの鏡のくせに。
「それで?」
と鏡が尖った声で言った。
「どうして鬼のところに来たのだ。――鬼退治か」
「まさか。
「ええっ? 誰に」
鏡が驚いている。
「私の
「鈴の主は、お前のような子どもを鞭で打つのか」
「はい。言いつけに逆らうと、殺されるような酷い目に遭わされます」
「そうか」
鏡はしばし押し黙ると、やがて言った。
「鈴。もっと近くへ来い」
「はい」
鈴は
「僕がお前を助けてやる。なんでも望みを言いなさい」
「まことですか?」
リンは頬を紅潮させて、鏡を見つめた。
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