四章 一生に一度ひとつだけ <Ⅱ>オバケ
真っ暗だ。
扉の隙間から
晴れた日に、かくれんぼしてると、よくこうなる。
――そんなときは。と、おばあちゃんが教えてくれた裏技があるんだ。
まぶたに
おっけー。おばあちゃん。いち にい さん。
目を開けたら、目の前に、白いオバケが立っていた。
青白い長い手を、あたしに向かって差し延べてくる。
――しまった。ここって、お化け屋敷だった!
「わあああああああ! オバケだああああ!」
あたしは、叫んで叫んで叫びながら
完全に暗闇。そして密室。必死に手探りするけど、どこにもノブがない!
どんなに押しても、扉が開かない!
「いやあああああああ! お兄ちゃんっ! 助けてっ!
でも、誰も助けに来てくれない。――もうダメだ!
そのとき。
ぽかりと辺りが明るくなって、自分の黒い影が、目の前の扉に落ちた。
「その扉は、内側に引かないと開かないよ」
「え?」
振り返ると、ブロンズのランタンを提げて、ひょろりと細い男の人が立っていた。
オレンジ色の灯火に、その人の輪郭がぼんやり浮かぶ。白い着物に黒い
はじめは大人の人だと思ったけれど、よく見ると深雪より少し年上の、中学生くらいの男の子だった。形の良い唇が
「さっき、男の子と二人で入ってきたよね? この家に何か用?」
「あああ、ちがいます! ここにお化けが出たって聞いて……。わあっ、すみませんでしたっ! ごめんなさいっ!」
お
玄関扉の両脇には重たげなカーテンが掛かっている。ぬうんの窓はどっちだろう。カーテンの陰に隠れてそっと背後を
「いいよ、別に謝らなくても。僕の家じゃないから」
いつの間にか、あの白い子猫が少年に体をすり寄せている。
「この子は、リンというんだよ」
少年はランタンを床に置いて子猫を抱きあげた。子猫は小さな前足でその肩に登ろうとする。少年の細い指先が布地に引っかかった爪をそっと外した。夏草のような黒髪が額にかかる。何もかも綺麗過ぎて現実じゃないみたいだった。
「きみの名前は?」
「
少年の瞳が、朱く
「きりはら しぐれ」
ひとつひとつの音を確かめるように発音する。
「はい」
「そうか――」
少年はわずかに目蓋を伏せたが、すぐ眼差しを上げて微笑んだ。
「欲しい?」
「え?」――何を?
「この子が欲しかったら、あげるよ」
その人の胸で子猫がクシャミをした。
「本当に? ほんとにくれるんですか? やった! 嬉しい!」
子猫を抱き取ろうと手を伸ばすと、少年は
「その前にひとつだけ頼みたいことがあるんだけど――。いいかな、時雨?」
「はい、あたし、なんでもします!」
なんて、なんで言ってしまったのだろう。あのとき。
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