三章 お化け屋敷

三章 お化け屋敷 <Ⅰ>海に行く道

 休日の朝って、みんな死んだふりしてるんだろうか。妙に静かなんだけど。


 深雪と一緒だと、妹のあたしはいつも走ることになる。

 どこまでも続きそうに見えた住宅街が、びたガードレールで行き止まると、眼下に8車線の国道が川のように横たわる。

 後から後から車がいっぱい流れてくる。絶え間ない響音は、夜中でも途切れることがない。

 国道から先は、CGで作ったみたいな碁盤目ごばんめの街が広がっている。


 この崖の下が昔の海岸線だ。

 急勾配の斜面には海が近かった名残なごりの松林が残っていて、今でも海風の来ていた方角に枝を伸ばしている。


 深雪とあたしが生まれる前は、ここから遠浅とおあさの内海が見渡せたんだって、お母さんたちが云ってた。静かな海に沈む夕陽が、それは綺麗だったんだよって。夕陽を眺めるために別荘を建てた人もあったそうだ。


 今は背伸びしたって海なんか見えない。

 ここから見えるのは、寿司屋と電器屋とコンビニの看板。

 夕陽はまだ見える。


 崖っぷちのガードレールの脇に、傾いた街灯がある。

 街灯の真下に短い石段があるんだけど、ぎりぎり崖の端まで行かないと目に入らないから地元の人しか知らないんだ。石段の下から狭い砂利の道が国道まで下っている。これって、もともとは海におりる道だったらしい。


 道沿いには、ところどころ崖を抉って建てた家がある。

 夕陽の別荘もこの辺りだったのだろうか。すり減った石段は手すりがなくて降りるのがちょっと恐い。深雪の背中がさっさと砂利道を下っていく。


「お兄。待ってよ」


 深雪はお兄ちゃんのくせに妹にちっとも合わせてくれない。つまらなそうに振り返って、あたしが追いつくのを待っている。


「俺たちは通りすがりの何も知らない子どもだからな。オバケとか言うなよ」


 偉そうに唇を尖らせる。


「分かってるよ」


「ヨッシャーたちの証言は矛盾に満ちている。俺は真実が知りたいんだ」


「これは事故ではなく事件だというんですか」


「分からん! そいつをこれから調べに行くんだ」


「了解!」


 ああ楽しい。やっぱり日曜日はこうでないと。

 あたしはスキップして深雪のあとを追った。

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