二章 没くした記憶
二章 没くした記憶 <Ⅰ>追いかける者
「待って! 怖いんだってば! 一人にしないでよ!」
予想外に
こいつ、階段を三段抜かしで
本当に不登校か。家で何してるんだ。筋トレか。
階上に登ると、玄関ホールから続く吹き抜けを、コの字に囲んだ廊下の端に出た。
丸いステンドグラスの飾り窓が
「林てば!」
夢中で同じ隙間をすり抜けると、背中で音を立ててドアが閉まった。
――え? なんで閉じたの?
背後のドアも気になるが、室内の
並んだ細窓の両脇に、
下半分を押し上げられた窓から、花壇に咲きこぼれる紫苑の花が見下ろせる。
艶やかなオークの床の中央には、小さな丸テーブルがひとつあった。
その前で、林が立ち止まってこちらを振り向く。
肌が
どうしてこんなところに、子どもがいるの。
「こんな人形に見覚えはありませんか」
林が言った。
「人形?」
――ほんとうだ。
眉も目も鼻も唇も木に彫り込まれた作りもの。
こんなのに見覚えなんかない。あるわけがない。
「――知らないけど」
林が泣き出しそうに、また顔を
そのとき、
カーテンは
押し上げてあった窓が一斉に落ちた。
断罪されるような音に、あたしは悲鳴をあげて耳をふさぐ。
鈍く
真っ暗だ。もういやだ。誰か助けて。
目を閉じてしゃがみこむ。口の中に苦い味がする。
白い猫。西洋館。閉じた窓。記憶の奈落から迫り上がってくる影法師。
長い長い指。血の色の炎。――やめて。見たくない。
「思い出すのが、怖いのですか?」
声が異様に近い。
固く
ざわり、ざわり、ざわり、と耳の奥で鼓動が跳ねる。
「――なんで」
「いま、
目を合わせたまま、林はゆっくりと
「でもね」
林と人形のシルエットが重なる。
「ボクたちは、思い出して欲しいんです。どうしても」
人形がカクンと
誰かの叫んだ悲鳴が聞こえた。あたしの声、かな。
――時雨
と人形が言った。
――僕の名前、思い出したア?
人形が火を
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